表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
62/272

1590年7月5日・忍城の戦い

北条氏照隊およそ2万が荒川下流域を渡り終えたのは、4日の昼過ぎだった。


高齢の農兵らもよく付いてきている。


北条氏房隊1万1千が騎西城にいる事が分かったので、合流して本日5日に忍城包囲軍を攻める事にした。


烏合の衆の関東諸侯には大軍を見せる事が重要と判断した為だ。


大軍故に補給に些か不安があったが、豊臣方は多くの人足を雇うのに大量の米・銭を使っているらしい。奴らから分捕れば十分補給になるだろう。


早朝、氏房隊と合流し総勢3万1千となった北条軍は豊臣軍の背後を付くべく進軍を開始した。


これだけの大軍である。農兵達には無理して付いてこなくて良い、後から後詰めとして加われば十分だと伝えた。


やがて、後方1キロの位置まで達した。最早、敵軍も気付いている。


堤を築いていた兵達を急ぎ呼び戻し、陣を構えようとしている。


そこへ、忍城内から鉄砲が撃ちかけられた。届く筈のない威嚇発砲だが、挟撃されてるという心理効果を敵に与える良い作戦である。


氏照・氏房隊からも威嚇発砲を行う。因みに北条軍が所持している種子島は合計千丁。この時代としては些か少ないが、新型炮烙玉に頼って来たせいもありこの数となった。


幸い敵は急に現れた大軍に準備が追い付かないのか、未だ発砲してこない。


距離500メートルまで近づいた所で再び城内から威嚇発砲!


続いて本隊からも発砲。今回は3段撃ちを食らわした。


敵はまだ発砲して来ない。鉄砲を持っていない筈はないのだが・・・


とうとう、距離300メートルまで近づいた。


ここでバリスタ隊に敵軍中央の堤目掛け新型炮烙玉3発の爆撃を指示する。


高さ2メートル強の急ごしらえの堤が吹っ飛んだ!


驚愕動揺する敵に向けて、声の大きい兵20人程が大声でまくしたてた。


皆、木の外皮を丸めて作ったメガホンを使っている。小田原の細工師の仕事である。


『既に、猿関白は箱根で冥府に落ちておるぞ!!』

『我らが、ここに来たのが何よりの証拠だ!!』

『北条札を持っている者が、我らに仇なして良いのか?!!』


ここで城内から3度目の威嚇発砲!


これを合図に敵軍は逃げ出し始めた。逃げだしたのはやはり関東諸侯軍だった。それも、統率の取れた退却という形ではなく、兵が勝手に離脱していく感じだ。


中でも、佐竹軍、宇都宮軍の兵に逃げるのが多い。


佐竹、宇都宮ともに北条札の偽札を作っていたからある意味当然である。


偽札は北条領内に流すだけなら有効な手段だが、領内の商人にも秘密で使わせているので、当然自領にも広まっていく。


つまり、偽北条札を作ることによって、彼らの領内は知らず知らずに北条の経済圏に入っていたのである。


しかも、偽札は銭と両替できない。流石に偽物に騙されるほど両替商の目は節穴ではない。


そうなると、北条領まで遠征できない庶民は自領内で(偽)北条札を使用することになり、佐竹、宇都宮、領内の主要通貨は(偽)北条札となっていったのだ。


更に大国である佐竹、宇都宮領で北条札が出回れば、彼らの周辺国人の領内にも広まっていく。


そんな北条札が効力を失うと知って、彼らの領内では大きな一揆も起きていたと聞く。


そして、一揆衆を宥め、豊臣の味方をして一旗揚げようと扇動して徴兵し成り立っていたのが、今、目の前にいる関東諸侯軍なのである。


『堤造りのため、忍城周辺の領民には気前よく米銭を払っている豊臣だが、兵として参加している自分達にはどうか?』

『戦いもなく堤越しに忍城を眺めてる自分達には手柄などない。』

『豊臣は本当に我らにも富を分けてくれるのか?』

『俺たちだって、国元では只の領民だぞ。なんで忍城周辺の民だけが、高給にありつけてるのだ?』


元々、関東兵は疑心暗鬼だったのだ。


そこに、堤造り領民として忍び込んだ風魔が、追い打ちをかけるように囁いていく。


『俺は米が手に入ったから、久しぶりに家族と思いっきり飯食えるぜ!』

『今夜は熊谷で女買うんだが。一緒にどうだ?佐竹の旦那?』

『俺たちは妻沼に行くぜ。あそこじゃ落城した深谷や羽生の殿様の姫さんが遊女やってんだよ。結城の兄さん、一緒にどうだい?』


兵達は夜間は堤の見回りに駆り出されたりしているというのに、豪勢な話を聞かされ、厭戦気分は益々高まっていた。


そこに先ほどの大爆発である。早くこんなところから逃げ出したいと思うのは当然である。しかも、北条札の効力が復活するなら勝手に帰ってもなんとかなりそうなのだ。


ついには、関東勢は大将級も陣幕残して退却を始めてしまった。


豊臣方は止めようとしている様だが、元々、関東勢の方が人数が多いのだ。


なんとかなる状況ではない。


氏照は逃げる兵は追わなくて良いと指示を出したが、農兵の一部は言うこと聞かずに追って行ってしまった。


これで、敵は豊臣本軍のみとなった。数の上では優位だが相手が鉄砲を撃ってこないのが依然気になる。なにか罠があるのだろうか?


ついに堤を背にした豊臣軍を逆に包囲することになった。古墳の上に陣する三成の本陣にも鉄砲を撃ちかける。


豊臣本軍には例え雑兵相手でも弓は通じない。槍も鎧を貫くのは無理なので、出来るだけ関節や顔など脆い場所を突くよう指示してあった。


ここまでの近接戦となってしまえば、もはや鉄砲の心配はしなくて良い。やがて敵軍は先ほど破壊した堤の場所から後方へと下がっていった。


よく見ると、堤造りに徴発したと思われる人足が豊臣軍に襲い掛かってる。


気前良く米銭で雇ったと聞いていたが、やはり何か不満があったのだろうか?


古墳上に孤立した大将・石田三成の陣にも北条軍は襲い掛かる。


孤立した本陣はあっさりと制圧が完了した。


この本陣には三成だけでなく、浅野長政、長束正家、大谷吉継といった敵の大将首をはじめ、元玉縄城主・北条氏勝までいた。


指揮官がこれだけ本陣に集まっていて、下の兵は誰が指揮しているのだろうか?


やがて、数に物を言わせ敵軍を堤防の後ろに追いやり、ついに北条軍が堤防を占拠したが、その先の光景は目を疑う物だった。


堤防の内側は一面の泥濘で、足を取られ倒れてる兵、軍馬が大勢いたのである。


この中にも指揮官はいる筈だ。堤防上の兵に指揮官を探すよう指示を出す。


『敵の主将を見つけました!軍旗は六文銭!真田隊です!』


待望の報告が届く。しかも、此度の戦の切っ掛けを作った真田が最後の敵とは!


氏照は大声で叫んだ!


「真田に鉄砲を撃ちかけよ!それでも降伏しないなら、さきほど堤防を破壊した武器を使用すると伝えよ」


数回の砲撃の後、流石の知将・真田昌幸も降伏した。


こうして、小田原攻め最後の合戦、忍城の戦いは終了したのである。


この日5日は、史実で小田原城が開城し降伏した日でもあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ