表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
57/272

幕間・ 摂津・天満本願寺

時は孝太郎が転移してくる前の1589年11月に遡る。


かつて、織田信長を散々苦しめた本願寺教団の総帥である顕如は今は大坂城下の天満本願寺に本拠を移している。


この日、顕如はとある商人と面会していた。


『此度はお目通り叶い、誠にありがとうございます。貫主かんず様』


顕如は目の前の商人に不機嫌な気分になる。


「本願寺では宗主の事は法主ほっすと呼ぶのだ。貫主かんずとは日蓮宗ではないか」

「尤も日蓮宗も畿内では法主ほっす門主もんすと呼んでおる。三河の木綿問屋と聞いていたが、其方、まるで坂東から来たかのようだな」


『これはこれは、大変失礼をば。商人というのは各地に赴くので土地土地の言葉を使いこなせねば仕事になりません。此度は法主ほっす様にお目にかかれた嬉しさから、つい間違うてしまいました』


顕如は予め用意してあったかのような相手の言い訳に呆れ気味であった。


「して、本日は何用で参った?木綿は仏門ではさほど入用ではないが」


『実は本日は、某の方から仕入れを致したく、まかり越しました』


寺から仕入れ?こいつは何を言っているのだ?


「寺というのは、現世やそれ以後の教えを説く場だ。商人に売る物など何もないぞ」


『法主様におかれては、かつては天下に覇を唱えようとなさっておりました。此度はそのお力をお借り出来たらと思います』


「なっ、なんだと!?」


『この天満本願寺、趣のあり立派でございますが、法主様のかつての御威光から考えれば少々狭くはございませんか?』


「・・・」


『かつては法主様と誼を通じていた毛利様は今も大層豪華な城をお持ちだと聞きます。その他、徳川様、織田様、何れも現在も大身となっておられます』


「主は何が言いたいのだ?」


『法主様もかつての御威光を取り戻し、大身にご復帰なされては如何かと、某は考えております』


「そんなこと、いまさら叶うわけがないだろう」


『いえいえ、関白殿下は四国・九州と忙しく戦をしておられます。そして、今回は東国に遠征の号令を発するとの噂もあります。なんでも、東国の次は唐の国だとか』

『今回の東国遠征では全国に号令をかけるとの噂でございます。そうなれば、全国の兵が東に集まり畿内はじめ西は手薄になります』


顕如は考え込んでしまった。この商人の言うことは強ち的外れではないかもしてないと思ったのだ。というのも、現在の顕如は関白から決して重用されているわけではない。


『例えば、長嶋で兵をあげるなど如何でしょうか?』


「いや、長嶋はもう駄目だ。願証寺も今は清州に移転しておるし」


『では、加賀、能登は如何でしょう?』


「あの地なら可能性は無くはないな。尾山御坊こそもうないが、北陸は厳しい冬を越えねばならん。暮らし向きに苦労が絶えない民草が今もかなりいる事だろう。慶覚寺も健在であるしな」

「しかし、このような話は拙僧より、教如と話した方が良いのではないか?」


『実は、ご子息とは既に話をしております。加賀での件については慶覚寺に宛てた証文も頂戴しております』

『御子息とは、最近は如何でしょう?教如様は法主様と和解したいと仰っていましたが』


「何、教如が?」


穏健派の顕如と強硬派の息子・教如とは、中々上手くいかず、同じ寺に住んでいながら、かれこれ1年以上顔も合わせていなかった。


『某であれば、ご子息と間を取り持つことも可能です。如何でしょう?教如様と共に法主様からも慶覚寺に宛ての証文を頂戴できれば幸いです』


うーむ。暫く考えた後、顕如もまた慶覚寺に宛て証文を書いた。


”この文届き次第、南無阿弥陀仏の旗を掲げよ 天正17年x月x日 顕如


                        慶覚寺門徒惣中”


『なんともありがたき事にございます。ご子息とは早速繋ぎがつくよう手配いたします』


「其方は、一体何が目的だ?」


『某は新参の商人にございます。お武家様とお取引したくとも皆様、御用商人がおり中々某の入る余地がございません。

なので、法主様の御威光と教えをいただき民に豊かになってもらった方が、商いも捗るというわけでございます』


「上手いことを言いよるわ」


顕如は鼻で笑った。


実は顕如は途中から商人の正体は分っていた。こんな物騒な話をしているのに「人払い」を頼もうとしなかったからだ。商人は周囲に聞き耳を立てている者がいないことを把握していたのである。つまり、この男、只者ではない。


そして、商人こと風魔小太郎もまた、その事で自らを証文を預けるに足る人物であると暗喩したのである。


希代の法主と希代の忍び、大物同士の極秘会談はこうしてin-inの関係を構築して無事終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ