刀と忍法の異世界
眼前に聳える富士をみながら、バラバラだったピースが頭の中で組み合わさっていくのを感じる。
それは、昨日の雄二の説明で良くわからなかった言葉である。
”ヒョージョー”とはあの最初の会合の事だと理解していたが、正しくは”評定”だ。
そして、ここは”オダーラ”ではなく、小田原だ。
自分が転移してきたあそこは”小田原評定”の場だったのである。
もう一つ雄二が言っていたのが”我らシノビ”という言葉、これは”我ら忍び”だろう。忍びとは忍者、つまり、俺たちは忍者一家だ。
となると、あのオークのような領主は小田原の主、いや大名、小田原の大名はたしか北条氏だ。あのオークもどきは北条・・・・・誰だっけ?北条・・・そうだ早雲?北条早雲に違いない。
つまり、この世界は”剣と魔法の中世ヨーロッパ”ではなく、”刀と忍法の戦国日本”! いや、戦国日本に酷似した異世界なのだ。
なんせ獣人いるしね。まだ見たことないけど。
それに小田原城が本物と全く違う。新幹線の車窓からも見える小田原城は白壁に瓦葺きの立派な天守閣があるが、この世界の小田原城は、あの隙間風のあばら家、どう贔屓目にみても砦である。
確か本来の日本では、豊臣秀吉に小田原を攻められ”小田原評定”繰り返しているうちに城内から裏切り者が出て、結局、降伏、北条は滅亡したんだったよな。
この辺りは小田原出身の木内資料館長代理から聞いたことがある。
秀吉ファンの榎本館長と小田原出身の郷土愛溢れる木内館長代理。この二人と飲みに行くと喧嘩が始まりそうで毎回冷や冷やしたものだ。
更に、時代遡行物の定番である知識チートが俺は使えない。日本史はほとんど知らないからだ。
理系の大学の般教に歴史なんてなかった。高校は世界史、日本史の選択制で、俺は迷いなく世界史を選択した。アルキメデス、ガリレオ、ニュートン。科学の歴史に名を遺す人物が登場する世界史に対して、なんとかの改革、なんとかの戦い、同じ事を繰り返しているだけの日本史には全く興味が抱けなかったのだ。
そんなわけで、俺の日本史知識は中学生の頃まで遡らないとならないが、中学の日本史教科書で戦国時代なんてほんの数ページだったのではなかったか?その内容も流石に朧気だ。
この時を始点とすれば未来視となる恐るべきチートである日本史知識だが、今更後悔しても仕方ない。
さて、この世界ではどうなるか?日本に近似した異世界なら日本史と違う展開もあり得る。俺は忍びの頭領に転移しているみたいだし、いつまでこの世界にいられるかわからないけど、できる限り暴れてやるとするか!!