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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
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1590年6月8日・箱根湯本の戦い4・半蔵参上part3

半蔵を落とした崖の上、ここには二人の男と一人の女が早川を見下ろしていた。


「三人がかりで、ようやく撃退出来ましたね。やはり恐るべし服部半蔵」


『そうですな、それにしても、男の股間を狙わせたら天下無双と聞きましたが、まさか、半蔵の股間まで仕留めてしまうとは、さすがは夕殿です』


女は日頃、孝太郎の影の護衛を務める夕だった。


「あら、私の特技はそれだけではありませんのよ。それに半蔵殿は咄嗟に体を捻り致命傷を免れてました。本当に恐ろしいお方です」


実は半蔵が墓石の壁を飛び越えた時、どこに着地しようが夕の股間打ちを喰らう運命だったのだ。


半蔵程の忍びに気取らせず隠形に徹し、尚且つ半蔵の素早さに付いて移動できた夕もまた、規格外の忍びなのである。


「しかし、あんな大きな仁王像を二体も苦も無く操るとは、噂通りの凄腕幻術師ですわね、果心居士様」


夕の隣にいるのは、北条幻庵が派遣した対半蔵の助っ人、希代の幻術師・果心居士。


半蔵が痛みを堪えて振り返った際、仁王像の右手が上がっていたのは、半蔵が仁王像の上に降りたのを見た彼のアドリブである。


『さすがにデカすぎて半蔵の速さには付いて行けませんでしたがね。今回は追い込み役でしたから仕方ないんですが』


『最後の思い切りの横薙ぎは気持ちよかったです。相手があの半蔵ですからね』


仁王像に付けた、表情を動かせる4本牙の仮面を取り外しながら、果心居士は満足そうに言った。


その時、もう一人の男が腹をさすりながら口を開いた。


『半蔵は早川に落ちましたかね。まさか、崖を登ってまたやってきたりしないでしょうね?』


男は風魔の声色遣い。虫動物の鳴き声や人の声帯模写を得意とする者である。


今回は半蔵を崖に誘導する最後の囮として役割を果たした。


夕が気遣うように声をかける。


「強烈な蹴りを喰らってたけど大丈夫?重蔵?半蔵は間違いなく早川に落ちたわ。今の川の流れの速さなら、もうここには戻ってこれないでしょう」


『それは良かった。あんな凄まじい踵蹴りをもう一度喰らったら、今度こそ死んでしまいますわ』


「今回は最後の囮として、本当に良くやってくれたわ重蔵」


『本当に恐ろしい野郎でしたが、撃退出来てよかったです』






*同刻・早川 服部半蔵*


梅雨による水量の増加で急流と化した早川を懸命に泳ぐ半蔵である。


先ほどとは逆に鎧を脱ぎ捨てていた事に安堵していた。重い鎧を付けていたら、あっという間に川に飲み込まれてしまっていたことだろう。


「しかし、この急流では岸にたどり着くのは無理だな。当面は川の流れに身を任せるしかあるまい」


先程まで化け物と死闘を繰り広げていたとは思えない冷静さで呟いた。


やがて、下流に滝壺が見えてきた。そこは叩きつける滝の水は激しいが、滝下以外は池のような静けさだ。


半蔵は絶妙の身のこなしで急流をいなし滝壺までたどり着いた。


「ふぅ」


急流から逃れられようやく一息つくことができた。あとはどこか上陸できる場所を見つけ暖を取ろうと思った瞬間!


右足を猛烈に引きずられた。


水中に何かいる!


やがて、体中を引っ張られ始めた。


いや、引っ張られているのではない。衣服を食い千切られているのだ。


三つ者の毒対策に厚手の服を身に着けていたが、あっという間に衣類は食い破られ、体のあちこちに食いつかれ始めた。今度こそ本物の怪異か?


激痛に耐えながら、周囲を見やると滝浦に洞窟を見つけた。怪異?怪魚を必死に振り払い洞窟を目指す。


やがて滝に近づくと、上から叩きつける滝の勢いが怪魚を引き離してくれたので、這う這うの体で洞窟に上陸を果たすことができた。


洞窟内の気配を窺う。


どうやら獣の類はいないようだ。


破れた衣服を一部剥ぎ水を絞り、火を起こす。半蔵程の忍びにとっては火起こしなど朝飯前である。


洞窟内に濡れてはいるが落ち葉や枝などを見つけたので、火の回りを囲うようにおいた。上手く乾いてくれれば薪がわりになってくれるだろう。


次にあちこち噛まれた体を確認する。やはり腕足腹、至る所が噛まれている。


特に拙いのは右足のアキレス腱を噛まれていたことだ。これでは、しばらく移動は無理だろう。


幸い苦無はまだ幾つか残っている。一休みしたら、これを使って滝沿いの崖を登り、とりあえず地上に出ようと決意するのだった。


(史実での小田原陥落まで、あと28日)

挿絵(By みてみん)

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