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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
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1590年6月8日・箱根湯本の戦い2

石垣神社でカラスの襲撃が起きてから2時間程後。


箱根街道東寄りの民家でも、密かな襲撃が始まろうとしていた。


ここは伊賀者五人が家主一家を処理し占拠した民家だ。


ここの目的は、小田原から夜会に向かう三家の一行が無事に通過したか見張る為のアジトである。何しろ天下人主催の夜会だ。最低でも一時間前には到着してるのが通常であり、もし一家でも通らなかったら、異常発生と見なし頭領に連絡する手はずになっていた。


幸い三家とも近習と共に30分程前に無事に通過を確認し、そろそろ後方からの隠密警備に出ようと5人とも家を出たところだった。


音もなく暗闇から現れた何者かに襲われ地面に組み伏せられた。


彼らも藤林党同様、三つ者対策に肌の露出は最小限にしていたが、野獣の襲撃となれば、単なる厚手の衣類など意味を成さない。


組み伏せられた際に後頭部を石に打ち付け死亡した者一人


防具毎喉を噛み切られ死亡した者が二人


一方的な殺戮現場と化していた。


だが、一人、幸運にも懐に手を入れる事ができた者がいた。


彼は苦無を取り出し、野獣の目を突き拘束から脱出することに成功する。


目を攻撃された野獣のせり声に一瞬全体の攻撃が止まる。


ようやく闇に眼が慣れてきた彼が見た野獣は狼だった。


隣で仲間を組み伏せている狼の腹を蹴上げる。素早く体制を整えた仲間と共に有りっ丈の撒菱を巻いて湯本方面に逃げ出した。


峠の方で夜間に狼が出るとは聞いていたが、この家での6日間の潜伏中に狼が出たことは一度もなかった。


なので、二人はこれを敵襲と判断、先行する主一行に異常を知らせに向かおうとしたのだが、一人が突然後頭部から血を流し崩れ落ちた。倒れたのはもう一人に狼から助けられた方である。


音もなく後頭部を射抜いたのは、新型種子島と呼ばれるエアガンから発射された銅弾である。頭巾しかしていない忍びの頭では即死は間違いない。


残りの一人は素早く身を竦め急ぎ足で立ち去ろうとした。が、彼の前方から二人の浮浪者風の男がどこからともなく現れた。


彼は何事もないかのようにすれ違おうとする。


その刹那、鉄拳が飛んできた!


慌てて身を屈め躱すが二対一では勝負は明らか。しかも彼は先ほど狼に体数か所を噛まれ万全ではない。程なくして彼も制圧されてしまった。


「一人逃がしたか」


風魔の男・鳶沢甚内は狼使い達と共に舌打ちした。だが全く焦りはない。前方の早雲寺に至る角の周囲には石垣神社を襲ったカラス使いを配しているからだ。


が!小さくなっていく敵の背中を見送っていると突然、見知らぬ男から敵が襲撃を受けているのが分かった。


「誰だ?世鬼か?」


暗闇の中、懸命に撒菱を除去している狼使い達を置いて、鳶沢は謎の襲撃者二人に慎重に近づいていった。


手には新型種子島がある。コッキングは必要だが通常の種子島より圧倒的に早く連射が可能なのだ。いざとなれば狼達の元に逃げることは可能だろう。


やがて二人も鳶沢に気付き近づいてきた。


「どちらさん?」


鳶沢の問いにリーダーらしき一人が答える。


『我らは黒川の者だ』


黒川と聞いて、鳶沢は直ぐにピンときた。


足元の黒い皮の脛当は、彼らが伊達の忍び・黒脛巾組である事を示している。


「伊達様は、猿に恭順しに来たという聞いていたが、何故、このようなことをしている?」


『其方の言う通りだったのだが、猿は遥々やって来た御屋形様を底倉に幽閉したのだ。伊賀者一人始末しても罰は当たるまいよ風魔殿』


「それは何とも酷いな。猿と言われるだけあって野蛮極まりない」


鳶沢は伊達の主が底倉に閉じ込められていることは知っていたが、あえて知らぬ振りをした。


『確かにな。しかし、風魔殿こそこんなところに居て良いのか?小田原は最早孤立無援だろう?』


「あぁ、猿が今夜茶会をすると聞いたので覗きに来たのだが、思った以上に警戒厳重なので、もう帰ることにするよ。そちらも他の伊賀者に見つかる前に帰った方が良いぞ」


『うむ、こいつ(死んだ伊賀者)を見つけなければもう帰ってる所だった。最後に名を伺ってもよろしいか?俺は世瀬蔵人、こいつは太宰金助だ』


鳶沢は名乗るか否か躊躇したが、世瀬も太宰も聞き覚えのある名だったので答えることにした


「俺は鳶沢甚内だ」


『仕官先に困ったら、是非内に来てくれ鳶沢殿』


「勝負はまだ決まってないぜ」


じゃあ!


どちらともなく双方もと来た道を引き返した。


(史実での小田原陥落まで、あと28日)

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