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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
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1590年5月5日・小田原の幽霊

4月に包囲が始まった当初は、夜になるとお互いの睡眠を妨害するかのように松明を掲げ、鉄砲を撃ちあっていた両軍であるが、やがて、無駄弾を撃ち合う無益さに気づいたのか、いつしか、夜は静けさを取り戻していたのである。


が、この頃小田原城内では、幽霊・怪異の噂が広がっていた。


最初は三日前、城内北西部を守る佐野氏忠隊の夜間警備兵が、聞いたこともない呻き声を聞いたという。


その後、城内西部守護隊・松田憲秀・(笠原)政晴父子が夜間に酒を飲み交わしている時にやはり奇妙な唸り声を聞いたという。


千葉直重、垪和康忠、壬生義雄といった城内に詰めている将やその将兵らから、同じような報告が相次ぎ、ついに、親方様・北条氏直も夜間の調査を命じる事態となっていた。


曰く、伴天連の読経だ!いや、全く聞いたこともない言葉だ。


数年前に猿族の長が伴天連追放令を出していたことから、あれは猿への伴天連の神の呪詛の唸りであり、我らの味方だ!等々


様々な憶測を呼びながら、氏直の側近・北条氏隆が50名程の兵を率い城内巡回に赴いた。




北条氏隆隊が夜間巡回に出向いた同夜・草木も眠る丑三つ時、小田原城内・八幡山の頂上やや下の空き地に孝太郎がいた。


「フハハハハハ!はーーーははは!今夜こそ魔法を習得するぞ、何しろ今の俺は強力なアイテムをゲットしたからな」


手には一本の杖を手にしている。


「こんなことに今まで気が付かないなんて、何と俺はバカだったんだ、魔法といえば杖じゃないか」 


この杖は城下に残り少ない黒檀の銘木に頭部に珊瑚と真珠を使用した逸品中の逸品である。木工師に協力してバリスタや新型銃の制作に勤しんでいる仏具師にイラストを見せて作らせた、孝太郎特製の杖である。


そして詠唱もラノベやゲームに着想を得た中二病っぽいモノから、自分らしい呪文に改めた。


今日で深夜の魔法練習三日目である。


「魔素だ、大気やこの体に流れている魔素を感じ取るんだ!」


心を落ち着かせ、杖を掲げ、腹の底から声を出し唸るように呪文を唱える。


「ハイドロ、ヘリオス、リチオス、ベリウム、ボロン、カボン、ニトロジェン、オキシジェン、フローライト、ネオン。  ファイアーボール!」


お?やったか?空き地の向こうの林から灯がともったのだ。もう一度だ!


「ハイドロ、ヘリオス、リチオス、ベリウム、ボロン、カボン、ニトロジェン、オキシジェン、フローライト、ネオン。  ファイアーボール!」


すると灯は二つ、三つと増えていった。やった成功だ!ついに魔法習得だ!大喜びの孝太郎だが、直ぐに現実を知ることになる、徐々に大きくなる灯と共に人の声が聞こえてきたのだ。


『あの辺りからではないか?』


『そうだな』 


現れたのは北条氏隆率いる夜間巡回隊の一行である。


「!!あれは松明か!なんでこんな時間に見回りしてるんだ?」


自分のせいで、夜間警邏が始まったことなど、つゆ知らぬ孝太郎は、焦りと恥ずかしさで大慌てで身を隠し館に引き返したのだった。


一部始終を目撃していた護衛の夕の盛大な溜息に気づいた者は誰もいなかった。


(史実での小田原陥落まで、あと62日)

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