1590年5月2日・包囲下での猿楽見物
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包囲されているという閉塞感が城下に漂う事を懸念した親方様が、兵や領民向けに猿楽を開催してくれることになった。
猿楽というのは、物真似やお笑い芸、他に楽器を使った演劇もあり、現代でいうなら寄席とコンサートを一度に見るようなものだろう。
というわけで、俺も見物することにした。今回は風魔でも二曲輪でもない単なる町衆の装いで行く。
それは良いのだが、何故か一緒に行くのが夕なのである。
「お前は陰から護衛するんじゃなかったのかよ」
と言ったのだが、
『こういう見物は、男女一組が一番違和感なく周囲に溶け込めるのです』
とのこと。にしても、夕以外にも館には女はいるのに・・
さて、その猿楽見物だが、なかなか面白かった。
物真似は虫や動物の鳴き真似。そのレベルの高さは風魔の者に迫るものがある。
というか実際、風魔の者が何人か入っているらしい。
お笑いは、舞台上の能面を被った演者の動きに合わせ、弁士が快活な声を上げるので爆笑の渦である。
少し気になったのが、お笑い寸劇の中に旧武田家を揶揄するものがあったことだ。
夕達、歩き巫女は元は武田に仕えていた筈だ。その点はどうなのか聞いてみたが、
『もう慣れました』
とのこと。
北条は武田とは二回同盟を結んだことがあるという。
それも単なる不戦の約束ではなく、婚姻を結び親戚になる本格的な同盟である。
が、二度とも武田に不意に一方的に破られたのだそうだ。
その為か既に滅びた武田家に対して未だに怨嗟の念を持つものが多いという。
その内、鼓打ちと共に演者が現れ演舞が始まった。『人間五十年・・・』
これは俺でも聞いたことあるぞ。織田信長で有名な「敦盛」だよね。
夕によると、この演舞の形式は幸若舞と呼ぶそうだ。この時代でもかなり有名らしく、観衆大盛り上がりだった。
その後も、笛、尺八、琵琶などの演奏と、それに合わせた壇上の演舞が続き、この世界に来て、初めての娯楽に大満足した一日だった。これで、隣にいるのがもう少し可愛げのある女だったら、なんて思っていたら心を読まれたのか、
『お頭からは、女難の相が見受けられます』
ギクッ!現代で落ち武者になった黒歴史を思い出させるなよ。
『なので、私が変な虫からお守りします』
と夕に言われてしまった。
(史実での小田原陥落まで、あと65日)
職人達を馬車馬のように働かせておきながら自分は優雅に猿楽見物とは、なんとブラックな仕事のさせ方なんでしょう




