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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
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1590年5月1日・新型種子島銃

蒸留器の量産開始に伴い、鯨の油脂からグリセリンの抽出も始まり徐々にではあるが新型炮烙玉の開発が軌道に乗り始めた一方、


小田原の支城だった玉縄城、下田城陥落の報も入ってきて城内は重苦しい雰囲気になっていた。


特に下田城が落ちたことで、相模湾内には大筒を小田原に向けた敵方安宅船が姿を現し、いよいよ城内領民を不安にさせていた。


そんな中での新型種子島銃試作品完成の連絡である。


こんな極秘情報を、領民に知らせるわけにはいかないが、それでも、久々の明るいニュースに雄二と共に視察に赴いた。


場所は細工師長・又次の工房である。白木の美しい銃が数丁並んでいる。


『銃ってことで、硬さと細工のし易さを勘案して、これらになりました。右から、


ブナ、桑、楢、梅、山桜になります。』


『それと弾ですが、こいつらには銅が向いてます。本物の種子島のように鉛を打つと、あまり飛んでいきません。何しろ鉛は重いですからね』


一通りの説明が終わった後、鉄砲鍛冶が使用している試射場に移動した。


『それじゃあ、これから、本物の種子島との威力比較を行います。一口に種子島といっても色々種類はありますが、今回は足軽が一番多く使用するやつとの比較です。あっ、この人は鉄砲職人の善兵衛さん。国友出身の凄い腕の職人です』


どうやら、善兵衛さんが種子島を撃ってくれるらしい。


『二曲輪の皆様、お初にお目にかかります。善兵衛です。本日はよろしくお願いいたします』


「うむ、よろしく頼む。又次にも色々と助言してくれたそうだな。こんなに早く新型を見られるとは、我らも正直思っていなかったぞ!感謝いたす」


又治によると、この善兵衛のアドバイスが非常に大きかったそうだ。何しろ善兵衛は鉄砲のプロだからね。


『いえいえ、小田原に勝ってもらう為なら、我ら鍛冶衆なんでもいたします。今後も何なりとお申し付けください』


頼もしいぜ善兵衛さん。


続いて又二から試射の説明が始まる。


『見ての通り、的は50mの距離にあります。最初は普通の麻布の的に、次いで甲冑を的に試射を行います』


『弾は種子島は鉛、新型は銅を使用します』


やがて、双方準備が整い発砲する。


パ~ン!


初めて聞く鉄砲の発射音に耳がどうにかなりそうだ。


双方とも見事的に命中した。善兵衛のは中央やや右上に命中している。余程の腕前なんだろう。一方又二が撃った新型の方は、なんと的のど真ん中!


「二人とも見事!又次、お前は鉄砲の腕前も凄いのだな」


『いえいえ、あっしは今回、善兵衛さんに手ほどきを受けただけで、素人に毛が生えたようなもんですよ。ただ、新型はとにかく軽いので扱い易いですね』


試しに、善兵衛から本物を持たせて貰った。重い!確かに重い!こりゃあ歩兵銃の重さじゃないよ!


次に、又次に新型銃を借りてみた。軽い!重さに関しては雲泥の差だ!


銃を又次に返すと、


『それじゃあ、次は甲冑を的に撃ってみます』


又次はカートリッジを手で回して準備完了。一方、善兵衛は先込め式だからなんだか大変そうだが、それでも手際よく1分程度で準備を終えた。


ぱ~ん!


また、発砲音を轟かせ、両者とも甲冑に命中、見事、打ち抜いた。


『この鎧はどちらも皮鎧ですが、この威力なら、例え南蛮鎧でも打ち抜けるかと思います。南蛮鎧は高価で貴重なんで試射に使うなんて出来ませんがね』


又次が自信ありげに言うが、確かに、威力はどちらも遜色ないように見えた。


『次はあっちに移動します』


善兵衛に促され、場所を移動する。どうやらまだ試射は続くようだ。


今度の場所はさっきより広い場所だった


又次の説明が始まる。


『ここは、距離100mの試射場です。さっきと同じように麻布の的に撃ち込みます』


準備が出来発砲!何度聞いても種子島の発砲音には慣れないわ。


で、結果は?


さすがは善兵衛、的の外れギリギリではあるが見事に命中させている。


一方、又次のは?


『すいません、バネの力が足らず、ここまでは届かないんでさぁ』


『バネの強度を上げるべく、研究中なんですが、こればかりは、暫く時間を頂くことになりそうです』


『ですが、次はこいつを見てくだせぇ』


そう言って、又次は一本の白木の銃を取り出した。


試射位置に戻り、発砲する。


すると、今度は的が大きく揺らめいたのが分かった。


『こいつぁ銃身は山桜、弾は檜でさぁ。以前、二曲輪様から龍掘りの説明をしてもらった時、砲腔の大きさと弾の大きさが同じだと龍掘りの効果が一番高いと伺ったもんで、試しにこいつを作ってみたんです。砲身の山桜の方が弾の檜より硬いんで、いけるかと思って作ってみたら見ての通りです』


「つまり、その山桜の銃には龍掘りがしてあると?」


『その通りです。その効果で弾に回転がかかり100mの距離まで到達したという訳です。流石に的を撃ちぬく威力はありませんが、どうです?使い物になりますかい?』


判断できないので雄二にふった。


が、うーーーむ、雄二も考え込んでしまった。


雄二によれば、従来の種子島でもそうだが、距離100mでの射撃では数を揃えて発砲する必要がある。


狙いを定めて目標を正確に撃ち抜くなんて無理なことなのだそうだ。


雄二が問う。


『この銃も最低でも100丁くらいあれば、役には立つだろうが、実際のところ、100丁作るのにどれくらいかかる?龍掘りも鋳物のように型をとってやるわけではないだろう?それに、龍掘りしてしまえば銅弾は使えなくなるんだよな?』


又次は首肯して答えた。


『丙助様の仰る通りです。龍掘りをした銃してない銃で弾も分けなければなりやせん。製作期間ですが、龍掘り銃100丁となると木工師、細工師総動員しても、二か月はかかるでしょうな。


それと檜弾も手作業なので、型で大量生産できる銅弾より手間がかかります』


ちょっと気になったので俺も質問する。


「その山桜銃、距離50mでの威力はどうだ?」


『えぇ、距離50なら的は貫通しました。ただ、南蛮鎧とか金属鎧を貫通させるのは無理だと思います。』


となると


「人数に限りのある職人を手分けさせるのも勿体ない。残念だが今回は龍掘り銃は不採用としよう。その分、さっき見せてくれた銅弾を使用する銃を生産してもらいたい。どうだ、ゆ、丙助?」


『そうですな、銃はとにかく数揃えることが重要です。それにバネの改良が進めば射程も伸びるのだろう?それとバネの素材だが鯨の髭はどうだ?結構用意できそうだが?』


又次は新素材に喜色満面だ。


『是非、鯨の髭も試したいので、私の工房までお持ち、あ、いや、場所を教えていただければ、若い者に取りに行かせます!』


その後、鯨の髭が用意出来たら又次の工房に連絡することにし、彼らと別れた。


(史実での小田原陥落まで、あと66日)

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