1599年10月11日 ハダ滅亡
本章・主人公初登場です。
*ウェジ 征西将軍・伊勢直雷*
明の支援を受け、海西女直の中では最強と思われたハダが最初に滅亡するとは。
「詳しく話せ」俺は先を促した。
羽黒党の話によると、ハダが滅亡したのは先月。首長メンゲブルは捕らえられマンジュに連れていかれたという。
そもそも、当初はイェヘがハダを攻め、ハダがマンジュに救援を求めたという。マンジュはそれに答え兵2千を派遣したが、イェヘが明国を通じてハダに和議を申し入れ、これを受け入れたハダが救援に来てくれたマンジュの兵を斬ってしまった。
マンジュのヌルハチはこれを知って怒り狂い自ら兵を率いハダ城を襲い、首長メンゲブルを捕らえてしまったという。その後ヌルハチはハダ領内の支城を攻略し続けると共に領民をマンジュに連行しているという。
「フルン3部が相次いで我らに使いを寄越したのは、これが原因か?」
『恐らくそうでしょうな。ホイファの使節に聞いてまいります』
為信はそう言うと出て行った。
「マンジュがあまり大きくなりすぎると厄介だよな」
『誠でございます。あなた。今のうちに残るフルン3部を従え朝鮮や明国とも誼を通じて四方からマンジュをすり潰すのが良ろしいかと』甲斐がそう言った。
「明や朝鮮も巻き込むとなると、兄者に相談する必要があるな。至急、鳩を出そう。それにしても、ハダは明国の支援を受けていた筈だ。明はどうするつもりだろう?」
『推測ですが、ヌルハチがハダの首長を殺さずに連れ帰ったのも明に配慮したからではと思いますわ。あなた』
甲斐は2人きりの時は、俺を”あなた”と呼ぶのだ。兄者が妻たちにそう呼ばせているから真似しているのだとか。
「マンジュがハダ仕置きを終え体制を整える前に、ワルカを従えフルン3部には一つになって貰いたい所だな。これは、大陸の冬は寒いなどと言っておれんな」
『為信殿の話によれば、ホイファは我らを女神の降臨と思っているようです。これを最大限に利用しましょう』
甲斐はらしくない悪い笑みを浮かべた。
やがて為信が戻って来た。
『ホイファの奴らはやはり知っていました。このままでは、マンジュに滅ぼされると恐れての今回の使節来訪だそうです。ホイファ首長は我らに首長の座を譲る覚悟まであるようです』
「そこまで追い込まれているのか。大陸の冬は寒いが野分の季節からは外れる。ヘリコプターを使用するには良い時期だな。兎に角、一度兄者に判断を仰ごう」
俺は事情を書いた文を竹筒に入れ伝書鳩を放った。
*十三湊 伊勢直光*
学生時代は世界史>>日本史だった俺だが、中国史には全く興味がなかった。なので、マンジュなんて国は知らないし、ヌルハチとかいう人物もそうだ。高校時代に試験の為に覚えた事があるかもしれないが、当に忘れている。
伝書鳩は200㎞の距離を超えウェジから十三湊に到着した。
「ハンググライダー隊は全隊ヌエバ・エスパーニャに出払っているしな。ヘリコプターを出すしかないか?昌幸」
今や、すっかり信頼できる相談役となった真田昌幸に問う。
尚、もう一人の相談役・蒲生氏郷は畜産関係でどうしてもお知恵を借りたいと内務省に泣きつかれ、今は出向中である。
『冬は冬で風は強うございます。ヘリコプターを出すなら地元の天気に明るい者を見つけねばなりませぬな』
『真田衆は皆、寒さに強うございます。モンゴルの駿馬が手に入ったのなら、五右衛門殿の大凧に真田衆を載せてという手も御座います』
成程、馬に牽引させて大凧で上空にあがり上から炮烙玉で攻撃か。
「その方法、城攻めなら有効そうだが、野戦でも使えると思うか?」
『それは地形次第でしょうな。平原では相手に騎兵に距離を詰められて上手く機能しないでしょう。ある程度起伏のある地で山を駆け下りながら騎馬から銃撃、上から炮烙玉なら有効でしょうが』
「いずれにしても、かの地のあり様を詳しく知らなければ戦略を立てるにも限界があるか。年内は羽黒党と真田衆に地形把握に務めさせ、年初に戦略の詳細を決定して動く。という感じかな。それまでにマンジュとやらが大きくなりすぎていた場合はヘリコプターを総動員して焼き尽くそう」
『ほっ、ほっ、ほっ!マンジュにはどう転んでも地獄の未来しかありませんな』
昌幸はすっかり俺を信頼したのか、最近は良く笑うようになった。
知将・昌幸だが既に齢50を超えておりできるなら極寒の冬の大陸には連れて行きたくはない。
『時に、世鬼からは情報は入っておりませぬか?明国が支援するハダとやらが倒れたとあれば、かの国にも何かしら動きがあると考えるのが普通なのですが』
「確かにな。明国には歩き巫女を結構な数入れているが、今の所、報告はないな」
且つての毛利の忍び世鬼一族だが、現在は主に黄海で倭寇を率いて明、朝鮮の攪乱を担っている。明国の歩き巫女からの情報を日ノ本に運ぶのも世鬼の仕事だ。
「世鬼と言えば、例の裏帳簿を使ってマンジュから貂皮の取引と引き換えに奴隷を大勢連れ帰ってきている。あれで、マンジュの国力を削げるかと思ったのだが、ハダ領から大勢民を引き入れているというから、マンジュの兵力に衰えはないだろうな」
『全く、厄介な相手ですなマンジュ。大将軍様はやはり”ろしあ”とやらと対峙するまで戦力は極力温存したいのですな?であれば、諸々、情報が揃った後は某をお使い下さい。寡兵で大軍を相手にするのは慣れております故』
「うむ。頼りにしておるぞ」
俺は、年内は羽黒党と真田衆を中心に戦地の地形や天候の情報を集めるよう雄二宛てに文を書き、食料とともにガレオン船で送り出した。あと少ししたら、日ノ本の船大工達は19世紀のイギリスの快速帆船カティーサーク号を建造できるようになりそうだが、この時期はまだガレオン船が現役なのである。まあ、十三湊からウェジは然程遠くないから、不自由してはいないが。
*ウェジ 征西将軍・伊勢直雷*
伝書鳩を日ノ本に送って半月後、兄者から指示が来た。どうやら、冬は強風が吹く故、ヘリコプターは使いたくないようだ。その代わり、馬に引かせた大凧による投擲攻撃の案の提示があった。これは愉快だ。
それには、何にも増して、現地の地形の状況が重要だ。既にホイファの使節団には帰るときに羽黒党10名を付けて送り出した。その他、秋田実季の拠点経由で真田衆にイェヘとウラに潜入してもらっている。ワラカ部にも羽黒党と真田衆が入り地形把握に務めている。ロトゥンなる盗賊は洞穴にでも身を潜めているのかと思ったら、ワラカ部に堂々と城を構えて住んでいるということが分かった。
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