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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第9章 旭日昇天・女直編
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1599年9月15日 海西女直・ウラ使節団

津軽為信がホイファ使節団と面会している頃、秋田実季もウラの使節団と会見していた。こちらは、既に協力関係にあるグワルチャ族、シベ族に伴われての来訪なので特に警戒することなく出迎えた。運河建設も既に5㎞程進み、そろそろ拠点を運河上流に移そうかと考えている頃だった。


ウラの一行は川を遡上して僅か2週間余りの地に噂の棘の堅城を発見し大いに驚いていた。しかも城内ではモンゴル族が馬市を開催している。更に驚いたのは噂の怪鳥をこの眼でみた事だった。地上に降り立った怪鳥は腹を開け、モンゴル人が持ち込んだ食用と思われる駄馬を次々と飲み込んでいく。その様を見て失神する者もいた。




*同日 ネン川(嫩江)畔 秋田実季*


私は側近・赤尾津長保と珍客の来訪目的を話し合っていた。


「普通に考えれば偵察だよな」


『左様にございまするな』


献上品だという人参や馬を眺めながら、長保も同意した。


マンジュのフルハ族への威圧的な狩猟強要は今年も行われた。モンゴル族から馬を得た我らはフルハ族救援の為、先月、騎馬鉄砲隊を派遣したばかりだ。


今後はマンジュ等南の地域からの干渉も気を付けつつ工事を進めなければならなくなるだろう。その意味では、海西女直の一部であるウラと関りを持つのは悪い事ではない。出来ればこちらが上位の存在として交流したいところだ。


そこで、一計を案じ、使節団と称する偵察隊が来ている間にチャハル族に馬市を開いて貰った。更に、ウェジに連絡しタンデム型ヘリを飛ばして貰った。痘付の馬でも走る事は出来る。チャハル族にこの拠点まで連れてきて貰い、ここからは2日程絶飲食させた後ヘリで日ノ本まで運んでいるが、偵察団の前でヘリを着陸させ見せつけるように馬を大勢の載せて飛び立たせたのだ。2日絶飲食させるのはヘリ内で排泄させない為だ。


因みに野分シーズンのこの時期、天候状況は小笠原諸島、八丈島、琉球等南部から狼煙で日ノ本内各地と日本海の船を経由してウェジまで伝えられる。野分の規模も速度も何処に向かうかも予想できない現状では、現地からの目視情報が全てだ。


野分に遭遇してヘリを失う事、取分け育成に時間が掛かるパイロットを失う事は日ノ本にとって絶対に避けなければならない事項だったのだ。


痘付の馬は天候に恵まれれば、この地からウェジ→新津→比叡山のヘリポートに向かい、そこで降ろされた後、旧清水寺跡地に建設中の防務省技術研究所に送られる。この時点では研究所は仮設だが既に疱瘡ワクチンの研究は始まっている。


馬市に出ている商品馬は、日ノ本の兵らによって買い取られていくが、この商品の馬も女直には卸していない高級馬で、ここでも彼ら偵察隊の目を釘付けにした。


こうした示威行動を充分に見せつけた後、私と長保は歩き巫女の通訳を従え、”使節団”と面会した。


予め歩き巫女から作法を聞いていた彼らは茣蓙の上に平伏して待機していた。


「苦しゅうない。面をあげよ」


歩き巫女の通訳で使者3名全員が顔を上げた。皆、明らかに緊張と青ざめた表情だ。示威行動の効き目は充分だ。


『”アキタサマ”、この度は御目通しが叶い。恐悦至極に御座います。私共の献上の品はお気に入りいただけましたでしょうか?』


通訳に確認したが、使者長は確かにこのようなへりくだった言い回しをしているという。歩き巫女も少し驚いたそうだ。


「うむ、馬と人参だったな。人参はわが国でも栽培しているが其方らの持ってきた品も見事な物であった。馬は其方らも見たであろうがチャハル族から買っておる。コルチン族からは朝貢を受けておる。だが、其方らも今後ともあれらを朝貢するというのであれば、受け入れても良い。明国と違い、我ら日ノ本は朝貢の対価に勅書や称号などという形だけの物を授けたりはしないぞ」


女直人にこんな持って廻った言い回しが通じるか分からないが、暗に軍事支援の用意を仄めかしたのである。


使者達はざわつき、話し合いを始めた。


『静まれ!秋田様の御前である。私語は控えよ』


歩き巫女の怒声が飛ぶ。


『大変失礼いたしました。本件は国に持ち帰り首長に報告致します。必ずや”アキタサマ”の御意に叶うよう進言致します』


使者長はどう見ても壮年の男だ。それが、若干20際過ぎの小男の私に平伏している様は他所からはどう見えるだろう?私は想像すると少し可笑しくなってしまった。


「うむ。良きに計らってくれ。して、その方、名は何と申す?」


『は、私はウラのべイレ(貴族)、チャンジュと申します』


「チャンジュよ。ウラではマンジュはどう見ている?脅威か?」


『マンジュ等、我らウラの敵ではありません。ただ、マンジュのヌルハチ、シュルガチ兄弟は大変な無法者と聞いております』


「具体的には何か知っているか?」


『あくまでも噂で聞いた程度ですが、占領した地では男は皆殺し、女子供は奴隷としてマンジュに連れ帰っているとか』


「ふむ。男は皆殺しか・・」


女子供を人質に男を奴隷使役せず殺してしまうとは、ヌルハチ兄弟、案外知恵の回らない男かも知れないな。


ウラの偵察隊を充分に威圧できたと判断し、これで会見は終了した。

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