表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第9章 旭日昇天・女直編
250/272

1598年5月31日 明国・遼陽Part1

後に清朝を建国した民族は女真族だと思ってましたが、女直という字を充てる事もあるようです。本章では、「女直」を使用します。


中国史は御詳しそうな人もいそうなので緊張しながら書いてます。

ここ遼陽は明国最北部の交易都市である。朝鮮、モンゴル、女直ら異民族の地域に近く、朝鮮から人参が、モンゴルから馬が、女直から貂皮が齎される地である。町には競うように大きな商家が建ち並び活気に満ちた地である。


だが、この地の明人の商家にとっては明るい話題ばかりではなかった。というのも、ここ数年、女直から齎される貂皮が質・量ともに減少し、更に価格が高騰し続けていたからである。


明人は女直人が更に北方の人々と交易し貂皮を得ている事は知っていたが、それ以上、具体的なことは把握していなかった。明朝では永楽帝が帝位していた最盛期には奴児干都司ぬるがんとしという軍事機関を女直人地域から更に北のアムール川流域に設置し直接支配していたが、国力の衰退と共に奴児干都司ぬるがんとしは廃棄され、もう100年以上、女直地域以北には関与していなかった。


この遼陽に一軒の女直人の商家がある。その名は烏拉うら会館。


烏拉うらとは海西女直地域の最北部を治める部族の名であり、烏拉うらと明国との交易の拠点がこの烏拉うら会館である。


この会館に一人の女直人歩き巫女がいた。様々な民族が集まるこの遼陽は大陸内各地の情勢も集まってくるので情報収集には格好の場所だったのだ。彼女がこの地に赴任してもう4年になる。今では会館に務める女直人の男と夫婦になり子供も一人設けている。彼女が日ノ本に送っている情報は各民族内の勢力事情、大きな戦いの話、貂皮、人参の明へ卸す際の価格の推移、更には各民族の要人の私的事情、とりわけ女絡みの醜聞は噂レベルの話でも必ず伝えていた。勿論、夫は何も知らない。


この夜、子供が寝静まるっているのを確認した彼女は一人、誰も歩いていない夜の道を歩き出した。夫は仕事で先週から烏拉うら本領に帰省中だ。


彼女が向かったのは遼陽にある明国の役所である。昨年から太監たいかんが代わり税の取り立てが厳しくなっており、彼女が務める会館にも何度か、まるで押し込み強盗のような勢いで徴税官が現れ館内にある銀を奪い去っていったのだ。


「あれは、普通の徴税じゃない」


彼女はそう確信していた。連中が奪っていった銀の内、北京に納めているのはほんの一部で大部分は自分達の私腹を肥やしているに違いない。


一般に女直人はモンゴル系の言葉・文字を使用するが、歩き巫女である彼女は明語の読み書きも堪能である。野盗と違い組織だって事に及んでいる以上、必ず裏帳簿が存在する筈だと考えていた。


明国の役人のそのような秘匿物を入手し、脅迫でもすればこの交易の町・遼陽を裏から操作する事も可能になるかも知れない。尤も、そういった仕事は別の忍びの管轄だ。歩き巫女である彼女は裏帳簿の入手までが仕事である。


果たして周囲に気を付け遠回りをし、一時間弱で役所の敷地内に到着した。無論、警備の兵はいるが深夜であり、忍びの気配遮断力の前には彼らはいないも同然である。簪を起用に使い鍵を開け静かに役所内に侵入した。彼女は仕事でこの役所には何度も来たことがあり、凡その館内配置は把握している。日ノ本で言う勘定方の部室の位置も割り出しているが、そんなところにあるのは表帳簿である。裏帳簿があるとしたら太監たいかん室など高官の部屋に違いない。夜目の聞く彼女には夜闇など関係ない。日ノ本の建物と違い明り取りの窓が多くある明国の建物は月明りに照らされ、彼女には夕暮れのような明るさに感じられた。闇よりむしろ自身が人影を造らないよう注意して館内を音を出さずに移動していく。所長室、太監たいかん室、巡撫じゅんぶ室と高官の部屋を次々と暴いていく。


彼女が一番目を付けていたのは巡撫じゅんぶ室だ。というのも巡撫じゅんぶは各省に一人しかいない省の最高位の人物であり、遼陽に常駐している訳ではなかったからだ。つまり、巡撫じゅんぶ室は普段は人の出入りがない。彼女は巡撫じゅんぶ室に入ると、真っ先に書棚を確認した。明では本型の隠し金庫が多いのである。人の出入りがない部屋の書棚。その中に他の本よりも手に取られた回数が多い本がすぐに見つかった。普通の人間では気が付かないだろうが忍びの5感の前にはこの程度の細工は意味を成さない。手拭いを手に巻きその本を抜き取る。やはり軽い。この本は隠し金庫の鍵を入れてある金庫なのだ。簪で直ぐに開錠し鍵を取り出す。隠し金庫は書棚の奥、もしくわ裏側だろう。


果たして書棚の奥に鍵穴は見つかった。鍵を持った手を入れ開錠する。開いた金庫は先程の隠し金庫の本とほぼ同じ大きさだった。中は紐で閉じた3枚の書類束だ。取り出して月明りに照らして見る。やはり裏帳簿だ。遼東の高官の名前が多く乗っている。裏帳簿だけに頻繁には更新していないようだが、それでも昨年から半期に一度の割合で誰に何がどれくらい渡ったかが記されている。だが、この部屋の主である巡撫じゅんぶの名はない。彼女は裏帳簿を小さく畳むと竹筒に入れ懐に仕舞い。金庫は全て元通り施錠して部屋を出、役所の敷地からも脱出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ