1601年4月15日 テキサス
一気に春に飛びます。
昨年からテキサスの開拓を続けていた酒井家次隊だが、一年の任期を終え後任部隊との交代引継ぎを行っていた。後任部隊を率いているのは河窪信俊。副将に若干20歳の松平忠吉が付いてきている。
後任部隊の特徴は施設部隊の人数の多さと測量隊の充実ぶりだ。何と測量のスペシャリスト伊能忠敬が弟子を率い直接乗り込んんで来ていたからだ。
また、施設部隊には大陸で野人女真と言われている人々が多くいる。その数凡そ1万。全員日本語を話す。何れも大慶油田までの運河建設に携わっていた者達だ。野人女真の地の運河は既に完成しているが、キツイが待遇の良い運河建設の仕事を辞められなくて、遥々テキサスまで被官した者達である。
野人女真は他にもヌエバ・エスパーニャ内の鉄鉱石や金銀等鉱山労働に従事している者が多くいる。
*リオグランデ川下流域の拠点(現代のシウダ・フアレス)河窪信俊*
「酒井殿、改めて申し上げる。一年間の任務ご苦労で御座った。日ノ本に帰ってごゆるりと寛がれるがよい。この広大で木々の少ない地を治めるのはさぞかし大変だったことであろう」
『痛み入る、河窪殿。正直、最初はどうなることかと思ったが、先住民と友誼を結べたのでな。彼らの案内が無ければここまで、やってこれたかわからん。というのが本音だ。某は、油田やガス田を発見し記録するだけが任務だったが、其処許は精製施設を造るのであろう。その上、運河建設に炭鉱や鉄鋼石の採掘まで・・某以上に大変な任務だろうが、充分に励まれよ』
「うむ、大陸から運河建設の経験者を大勢連れてきておるがな。大陸での建設地は湿地。ここでは乾燥した地域だ。経験者であろうとも勝手が違うであろうな。その意味では酒井殿が石灰層を見つけてくれたのは大いに助かる。石灰があれば砂と混ぜてコンクリートが作れるからな」
『あそこを見つけてくれたのは、正に其処許が運河を造ろうとしている地に住むナバホ族の者達だ。美しい織物を織る。とても高い文化の持ち主だ。毛織物しか作れないエスパーニャ人より文明度は上かもしれん。日本語が上手な者もいるし、大いに頼ってくれ』
「そうか、それは頼もしいな。あの船からの荷揚げを手伝ってくれた巨人の人達か?」
『いや、あの者達はカランカワ族だ。彼らの集落は海岸沿いで半農半漁の生活をしているのだが、気の優しい連中でな。今では力仕事を請け負って貰っているのだ。この広大なテキサスには他にも多くの部族がいるぞ』
「流石は酒井殿。それだけ多くの部族と良く友誼を結べたな。部族同士の対立とか戦いはなかったのか?合わせてはいけない部族同士とか」
『某の任期中には戦いは無かったな。そもそも広大な土地に点在して住んでいるんだ。ヌエバ・エスパーニャ国境沿いに住んでいる者は馬を持つ者もいるが、その他は徒歩が移動手段だ。争いどころか接触自体稀だろうな』
「そうか。それは一安心だが。労働の対価は変わらず砂糖で良いのか?他に何か欲しがったりしていないか?」
『嫌、引きつづき砂糖で大丈夫だろう。一度、ジュマノ族の若者に我ら日ノ本の弓を欲しいと言われたがな。武器の供与は認められていない故、部族の年長者を通じて断った。以来、欲しいとは言って来なくなったが、念のため武器の管理は厳重にした方が良いだろう』
「わかった、気を付けよう。日ノ本の弓は質が良い故欲しがられるのも分かるがな」
『うむ。ただ、先住民の中には貰ったのか奪ったのか知らんが、クロスボウというエスパーニャ人の弓を使う者がいる。万一、戦いになった際には充分、注意なされよ河窪殿』
「クロスボウ?ヌエバ・エスパーニャで見たが、あんな小さい弓で狩猟に仕えるのか?対人用の武器にしか見えなかったな。いずれにしても気を付けよう」
『それはそうと、ガスから”へりうむ”とやらを取り出して空を飛ぼうとしているらしいの。流石に大将軍様は考える事が壮大だわ』
「今回の施設部隊には工科大の俊英の技師が10人以上同行している。大将軍様は本気で空を飛ぶ気らしい」
『それは凄いな。某も空を飛んでみたいものだ』
「そのうち、空を飛んで日ノ本とテキサスを移動できるようになるかもしれんぞ」
徳川時代からの付き合いである同い年の酒井殿と久しぶりに大いに語り合って、引継ぎは終わった。土産に持参した濁り酒に泣きだしそうな位喜んでいたわ、酒井殿。この地ではエスパーニャ人が持ってきた葡萄酒しかないらしい。あれはあれで美味いがやはり日本酒が恋しくなるからな。
翌日、早くも弟子を連れて運河建設の測量にいくという伊能殿、”へりうむ”精製施設の建設に向かう技師たちに其々護衛兵を付けて送り出した。




