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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第8章 旭日昇天・ヌエバエスパーニャ編
246/272

1600年12月1日 シャスタの戦い

ロスアンヘレス周辺での先住民の日ノ本化が着々と進む頃、佐竹義宣を大将とする”さんふらんしすこ”を拠点とする鉱山部隊も先住民との交流に成功し、彼らを伴い山間の鉱山地帯に入っていた。ヤヒ族、オローニ族、サリナ族、ポモ族、ノムラキ族、シャスタ族という先住民凡そ千名と共に、大将軍から授かった地図を頼りに二手に分かれ、1隊はアメリカ川を遡上、もう一隊はサクラメント川を遡上して金の採掘を実施している。


尚、”さんふらんしすこ”という名も川の名前も大将軍が便宜的に付けた名前で先住民と接触後は彼らの呼び方に合わせるよう言われているのだが、彼らは川に名前など付けないようで、大将軍の付けた名をそのまま使用している。


ただ”さんふらんしすこ”という呼称は伴天連のフランシスコ会に繋がる呼び名だそうで絶対に変更せよと厳命されていたので、オローニ族の内、湾内に住んでいた一族の名を取って”イェラム”と呼ぶことになった。




*金採掘部隊北方隊長・相馬義胤*


儂にとっては先代・義重殿の頃からの同盟者である佐竹家の当代・義宣殿が総大将を務める此度の僻地での金山採掘任務、義宣殿は上役ではあるが儂は守役のような心境じゃ。幸い義宣殿は水野勝成という武勇の者や一癖も二癖もある忍びも上手く使い先住民とも友誼を結び、見事な総大将ぶりを見せておる。義重殿への土産話が今から楽しみじゃ。


じゃが、今はそんな呑気な事を考えている場合ではない。というのは、儂ら15名は今、大軍に取り囲まれているのからだ。といっても相手は人間ではない狼だ。群れは50頭近い。


総大将・義宣殿は本陣である”イェラム”に艦隊と共に待機、ハンググライダー隊を率いる水野勝成殿はアメリカ川を遡上する東方採掘任務に就いており、今、サクラメント川上流域にいる武将級は儂だけじゃ。


この北方地域は東方同様、金が豊富に採れ現在100か所の採掘場がある。儂等がいるのはその一つでシャスタ族の集落の側の採掘場じゃ。この採掘場は露店掘りができるので爆破具などはない。武器は儂と配下4名が持つ刀と弓があるだけだ。兎に角採掘と運搬を重視していたので、武器はあまり持ち込まなんだ。尚、先住民10名は粗末な木槍と弓が少しいるだけだ。彼らも採掘と運搬用の袋を多く抱えているので武器は少ないのだ。


儂は相馬領時代からの配下・堀内胤泰に尋ねる。


「この武力であの大きな50頭もの狼を撃退できると思うか?」


この地の狼は日ノ本のそれの二倍近い大きさじゃ。最初は熊の群れかと思ったほどじゃ。


『難しいでしょうな。金に眼を奪われ油断してしまいましたな』


「うむ、実際、昨日までは狼など見かけなかったからの」


『先住民に聞きましたが、冬が近いので餌を求めて南下してきたのではないか?とのことでした』


「奴らは狼の群れと遭遇したらどうするのじゃ?」


『この場の先住民は狼を神聖化しており戦った者はいないそうです。もし、遭遇したら木の上に登って狼が諦めるのを待つとのことでした』


露店堀で砂金が豊富に採れるこの付近には木はあまりない。休憩用の盲様布の”てんと”がいくつかあるだけじゃ。現在の時刻は大凡午後2時。暗くなったら間違いなく狼共は襲い掛かって来るじゃろう。


「狼共は夜になったら襲って来るじゃろう。明るいうちにこちらから攻撃すべきじゃ。一度追い払い、舟で脱出すべきと思うがどうじゃ?」


やはり譜代の臣・岡田宣胤が答える。


『某がしんがりを務めます。殿は皆を連れお逃げください』


『某も岡田殿にお供します。殿はとにかく先住民を連れ逃げて下さい。彼らに被害が出れば佐竹様が今まで築いて来た先住民との友好関係に罅が入るやもしれません。それだけは避けなければなりません』


もう一人の譜代の臣・泉胤政もそう告げた。


なんという忠臣ぶり。正直言えば儂は彼らを失いたくはない。じゃが、儂等5人で先住民10人を守りつつ狼50頭と戦うのは不可能じゃ。


「2人の身を呈した覚悟。儂は感謝の念で一杯じゃ。じゃが、相手は狼50頭、正直儂等10人全員で戦っても足止めにもならんじゃろう。ここは、何か打つ手がないか考えるべきじゃ」


『然らば朝顔チョウセンアサガオは如何ですかな?そこいらに生えております。朝顔は種子から根まで全てが麻痺毒と歩き巫女から聞きました。これを煎じた物で食事用の兎肉を煮込んでみては?』


『狼は非常に聡い動物だというが、無手勝流に立ち向かうより良いでしょう。取り敢えず試してみてはどうでしょう?』


堀内の意見に岡田も同調した。


さっそく、朝顔を摘み煮汁を作る。捌いた兎肉を入れ良く煮込む。


狼が人の手が入った肉を食うだろうか?それはわからぬ。じゃが煮汁に生肉を浸して朝顔の汁を浸みこませるには最低でも一晩は必要じゃ。そんな時間はない故仕方がないのじゃ。


さて、出来上がった兎肉は儂等には良い香りをしておる。何しろ、朝顔の匂い消しに香草も混ぜたからの。


岡田が、『兎を捌いた時の血が取ってあります。これを振りかけて狼の側に投げてみましょう』と言った。


「うむ。良かろう」と同意した。果たして、狼は投げた兎肉に殺到した。元々餌を求めて南下してきた奴らじゃ。よほど空腹だったのじゃろう。群れの序列を乱す奴もいるようで狼同士で争っておる。30頭もの狼の前では3匹の兎の肉などあっという間に平らげられてしもうたが、上手い具合に朝顔が効いたようじゃ。


いや、久々に腹が膨れて動きが鈍ってるだけかもしれん。じゃが、攻撃するなら今じゃ。先住民にも弓を使うよう頼んで朝顔の毒を付けた矢を射た。先住民は狼を神聖化しているそうじゃが、流石に自分達の命を優先したようじゃ。矢は次々と命中していく。先住民達も中々の弓の使い手じゃった。2頭襲い掛かって来た狼がいたが岡田と泉が気合一閃、下から喉笛を斬り割いた。暫く唸っていた2頭の狼だが元々毒で動きが緩慢になっていたのじゃ、夥しい出血に、ヨタヨタとし始めた。


儂は「今じゃにげるぞ!」と全員に叫び、小舟に分乗してサクラメント川を下った。追ってくる狼はいなかった。取り敢えず、命拾いしたようじゃ。何時何処でも油断大敵じゃな。この年になってまた学んだわい。


5日かけて命からがらアメリカ川との合流地点にある野営地に戻った儂は義宣殿に事の次第を伝え、明日の夜明けと共に他の採掘場に兵を派遣して貰う事になったのじゃ。野営地に戻っていた水野勝成殿のハンググライダー隊が同行してくれることになり頼もしい限りじゃわい。


また、共に戦った川沿いに住む先住民シャスタ族にちなんでサクラメント川はシャスタ川と呼ぶことに決った。大将軍様も川の名前を決められたので喜んでくださるじゃろう。

イェラム(サンフランシスコ)と主な金山地帯

挿絵(By みてみん)

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