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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第8章 旭日昇天・ヌエバエスパーニャ編
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1600年3月1日 ポポカテペトル山大噴火

南部のエンコメンデーロ達が武装蜂起しシウダ・デ・メヒコに迫っているという情報はいち早く首都にも齎されていた。途中で共鳴した農園から食料と増援を得て兵は増え続けシウダ・デ・メヒコに迫るころには1万を超える大軍になっていた。またカンプチェ等、沿岸で真珠漁をしているンコメンデーロも次々に船を出してベラクルス等の港を襲い少なくない被害が出ていた。一部には教会に侵入して宝物を奪おうとする者までいたという。


だが、シウダ・デ・メヒコではあまり危機感を抱いていなかった。というのはこの街は四方をテスココ湖に囲まれた島であり陸路での到達は二か所しかない橋を通るしかないからだ。湖の船は反乱軍が来る前に島に引き上げてしまっている。食料も充分に備蓄し、いざとなれば湖で魚も採れ水の供給も問題ない。ヌエバ・エスパーニャ副王・ガスパール・デ・スニガは余裕たっぷりに構えていた。


何しろ相手は奴隷兵だ。エンコメンデーロ達は奴隷兵の反乱を恐れ銃やクロスボウは兵に持たせず与えたのは槍だけだったのだ。


一方、シウダ・デ・メヒコの兵は僅か千人余りだが、船で湖上に出て銃撃が可能だ。勝算は充分と考えていた。


そして、何よりも彼を安心させていたのは、神の国ヌエバ・ヘルサレムから来た神官・ワダサマが『この蜂起はこの地域に巣くう膿を吐き出す良い機会です』と勝利に太鼓判を押してくれた事だった。


「神は我らにあり。奴らはサタンなり」副王はそう確信していた。


実際、1512年の段階で先住民へのキリスト教への自発的な改宗を促すお触れに先住民に対する侮辱や虐待を禁止する法律が出来ていたのである。首都から遠いのを良い事にエンコメンデーロがやらせている奴隷労働など100年近い違法行為なのだ。


やがて、シウダ・デ・メヒコからも姿を確認する事が出来る距離まで反乱軍は近づいて来た。副王は予定通り銃武装の兵を船に乗せ迎撃に送り出した。


彼我の距離が100メートルを切った辺りで銃撃が開始された。一方、アフリカン兵も強靭な背筋力で槍を投擲して対抗してきた。


古い悪癖であるエンコメンデーロを倒し奴隷を解放する為に、その奴隷を銃撃する。この矛盾を抱えながら兵達は銃撃を続ける。彼らが行っているのは、ヌエバ・ヘルサレムで用いられている神から授かった”サンダンウチ”という銃撃方法だ。


3人一組で銃撃、銃の準備をテンポよく行うことで先込め式銃の弱点である銃撃までの時間間隔を補う射撃法だ。ワダサマの指導でこれまで十分に訓練してきた兵達は揺れる船上でも神の教えに忠実に射撃を続けていた。


結局、初日は双方に大きな戦果もなく終了した。


その夜、エンコメンデーロ達は明日以降の優位を確信し夕食を楽しんだ。


何しろ湖上にある首都には補給はない。銃の弾はいつか尽きるだろう。一方、奴隷兵に投擲させている槍は木製だ。南部の森林地帯からいくらでも補給されてくるのだ。彼らもまた勝利を確信していた。


エンコメンデーロ達は奴隷兵とは食事を共にしない。実はオアハカ辺りから合流した先住民女性が大変料理が上手で最近はすっかり食事が楽しみになっていたのだ。


彼女らはオアハカのエンコメンデーロの使用人で料理の腕を買われて軍に帯同しているのである。全員美しく食事以外も楽しみたかったが、従軍しているオアハカのエンコメンデーロから、


『そういう事は勝利してからにしましょう』


と釘を刺されてしまっていた。


今夜も貴重な香辛料をふんだんに使った肉料理に野菜の盛り合わせ、スープにワインが供された。勿論ナイフとフォークもある。とても戦場とは思えないメニューだ。


彼らは高級な香辛料に慣れたのか最近は余り味を感じなくなってきていた。今宵は鶏肉の中に香草を詰めた手の込んだ料理だった。


凡そ20名のエンコメンデーロとその側近達が鶏肉を食べて暫くすると、一部の者が苦しみだした。オアハカのエンコメンデーロが


『初戦の後だからって興奮するのは分かりますが、ゆっくり食べて下さい。敵兵と違って料理は逃げませんよ』


と笑いながら彼らのグラスに水を差して廻る。給仕の女性達も心配そうにグラスを手にし彼らの口に近づけ水を飲むのを補助して廻った。


初戦の後の微笑ましい光景である。他の者も笑いながら料理を食べ続けた。


結局、ディナーが終わった時、意識が、いや命があったエンコメンデーロはオアハカから来た一人だけだった。


オアハカのエンコメンデーロは和田正信であり、彼が注いだ水にはこの地に生えるブラックポイズンウッドという木の樹液が混ざっていた。この木の樹皮と樹液は大変強い毒性があるのだ。


そして、鶏肉の中に入っていた香草は朝顔の葉をこの地に生えるマンチニールという木から取った樹液に浸した物だ。どちらも猛毒である。


言うまでもないが賄いの使用人は全員歩き巫女である。彼女らはマンチニールに大変興味を示し、使用するのを楽しみにしていたのだ。彼女らのヌエバ・エスパーニャ土産はマンチニールの果実と株に決定だろう。


そして、その翌朝、まるで全ての証拠を消し去るかのように、ポポカテペトル山が大噴火した。統率者を失った奴隷兵達は四方八方に逃げて行った。また、シウダ・デ・メヒコの街も火山岩や火山灰の被害を受けた。


神官・ワダサマから反乱軍エンコメンデーロ達の運命を聞いたエバ・エスパーニャ副王・ガスパール・デ・スニガは


『この噴火は恐ろしいが、サタンを倒した事に対する神の祝福と思えば復興に力が湧いてくるな』


と気丈に答えた。


陸上の蜂起軍が一掃されたと知るや、港を荒らしていた真珠漁のエンコメンデーロ達はメヒコ湾内から逃げ出して行った。


こうして、シウダ・デ・メヒコ管内のエンコメンデーロは一掃され農園に残っていたアフリカンやモヒート(混血)らは保護された。彼らは、神の国ヌエバ・ヘルサレムの神民とされ、日本語教育を受けつつ、南部の金銀山開発に従事していく事になる。

ヌエバエスパーニャの主な油田とメヒコ湾

挿絵(By みてみん)

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