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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第8章 旭日昇天・ヌエバエスパーニャ編
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1599年1月10日 マヤ文明

*ガテマラ 和田正信*


和田一門の一人、正信はアカプルコで出会ったサジルという女性と共にアカプルコから南下しガテマラという町に来ていた。正信は神官ではない。明人の船員としてガレオン船に乗り込んで来た甲賀衆の一人である。このような甲賀衆は計20名程潜んでいる。


この町ガテマラもエスパーニャ人の支配下というかエスパーニャ人が作った町だが先住民も多く住んでいる上、シウダ・デ・メヒコ周辺の様にエスパーニャ人との混血もあまり進んでおらず、エスパーニャ語を話せない人々も多く、未だエスパーニャに抵抗している地域もあるという。因みにサジルはエスパーニャ語は話す。


「ザジル。今夜、その連中全員が一堂に会するのか?」


『はい、和田様。その様に取り計らいました』


「それは危険ではないか?エスパーニャ人に気付かれたら逃げきれないだろう?」


『大丈夫でございます、和田様。最近のエスパーニャ人は東の海賊に気を取られ兵隊は皆、あっちに行ってしまいました。今、ここガテマラにいる兵はエスパーニャに降伏したマヤ人達です。彼らの中にも内通者がおりますので、襲われる心配は御座いません』


元々マヤ人は一つの国を作っておらず集落ごとに一族を結成し互いに争っていたという。エスパーニャ人がやって来た当初は敵を討つためにエスパーニャ人を積極的に招き入れたり同盟を結んだりした一派もいたらしい。だが、そのような同盟は彼らの敵がエスパーニャに倒されると直ぐに破棄され次なるエスパーニャ人の矛先は元同盟者だったマヤ人に向いた。その結果、この70年余りで20を超えるマヤの一族がエスパーニャ人の支配下に入って行った。


だが、このガテマラ北方の低地には密林地帯が広がり、そこでは未だエスパーニャに抵抗を続けるマヤ人がいるという。彼らはケハチェ、コウォフ、ヤラインという3部族だと言う。


そして、この内、特にケハチェが支配している地域は頭領様(伊勢直光)から指示された臭水や金銀を産出する地帯であることが判明している。エスパーニャ人が未支配だというなら、先に日ノ本の傘下に入れてしまおうというのがお頭・和田惟長の策だった。その夜、サジルの案内でとある館の一室に赴いた正信は、総勢10人のマヤ人と対面する。皆、若者でエスパーニャ語を話すので会話に支障はなかった。


彼らはケハチェ、コウォフ、ヤラインという低地からの密偵の他、ガテマラ近郊の高原に嘗てあったキチェ、カクチケルという二つの王国の末裔だという者、その他、エスパーニャに降った各一族の者達だった。


キチェとカクチケルは元々敵同士でエスパーニャ人がやって来た時、カクチケルがエスパーニャと同盟しキチェを滅ぼしたが、その後カクチケルも滅ぼされたのだという。今は両者ともガテマラ近郊の小規模な集落を与えられ伴天連に改宗させられて暮らしているという。イッツェルというキチェ族の男が先祖から聞いた話を代表して話し出した。


『エスパーニャ人は鉄の武器を使ってて、我らの先祖は石の剣や槍だったのでまともにやり合うと分が悪かったそうです。おまけに奴らには銃もありましたから。ただ、奴らは鎧も重い鉄製だったのでそんなに速くは動けなかったそうです。先祖はやがて落とし穴を掘ったりして対抗していたそうです』


『エスパーニャ人で恐ろしいのは武器や騎馬兵もそうですが、最大の脅威は彼らが持ってきた疫病でした。元々、この地にはない病気だったらしく、奴らと接触した先祖の多くが発病して死んでいったそうです』


これにカクチケルの男も同調する。


『我らの先祖は当初はエスパーニャと同盟していたので奴らと接触する機会が多く、病気で死んでいく者が多くいたと聞いています』


正信は確認する。


「今、ここにいる者達はもうその病気への免疫は獲得しているのか?今でも其方らの里では病気に苦しむ者がいるのか?」


『いえ、流石にもう疫病は流行ってませんから今生きている者達は免疫を得ているのだと思います』イッツェルがそう答えた。


「では、ケハチェ、コウォフ、ヤラインといった密林地帯の者達はどうだ?まだエスパーニャに降っていないという事だが、疫病が流行ったりしていないか?」


これにはサジルが答えた。彼女はケハチェの出身だそうだ。


『感染の最大の原因は、マヤ人が倒したエスパーニャ人を囚人として生きたまま連れ帰った事だと思います。今、密林で抵抗している者達はエスパーニャ人自体を病原体と見なしていますから、例え死体でも近づいたりはしません。密林地帯なら石弓や罠で充分戦えますから。それに海賊のお陰で最近はエスパーニャ人の密林地帯への襲撃は激減しています』


「つまり、今が反撃の好機という訳だな。ところで、シウダ・デ・メヒコに聖母が降臨したという話は聞いているか?エスパーニャ人もアステカ人も今は毎日、跪いて聖母に祈りを捧げているが」


『はい、新聞が回って来ておりました。エスパーニャ人の女神でありアステカ人の女神でもあるとか。マヤの神にも女神はいます。イシュチェルという月の女神です。サレニという愛と支配の女神もいます』


「神については俺も詳しくはないが、其方らの女神とエスパーニャ人やアステカ人が祈ってる女神は同じ女神なのだろうな。人により話す言葉が違うように同じ女神でも姿や名前も変わってくるのかもしれん。


実は俺の地元は”日ノ本”というのだが、やはり女神が降りて来た事があるのだ。その際に女神は自分に仕ていた人間を神官、聖女として日ノ本に遣わされた。エスパーニャ人共はその事を知らず我が国日ノ本を占領しようと考えていたらしいのだが、日ノ本が女神に仕える人間が住む神聖な地だと知ると占領を諦め交易を求めるようになったのだ。


今、シウダ・デ・メヒコにその女神に仕える日ノ本の者が何人か来ているのだ。女神があの地に降臨したのは、その者達の前だったという噂だ。何でも元々アステカ人が女神を祀っていた場所でエスパーニャ人が破壊した所だとか。女神は、その破壊者は死後全員地獄に送ったと宣言したのだそうだ。


神官の一人は俺の友人でな。その友人から聞いた話だから間違いないと思う」


『なんと!新聞にはそんな話は書いてありませんでした!女神が降りてアステカに文明を齎したエスパーニャ人を祝福したとか何とか、そんな事しか書いてありませんでした』


「新聞を書いたのはエスパーニャ人だろうしな。自分の先祖が地獄に送られたとは書かんだろう。其方らの先達の土地や文明を奪ったエスパーニャ人も同様に地獄に送られたのかもしれんな」正信は少し時間を置いて再び話し出した。


「実は日ノ本で祀っている女神など神の神殿は木で作られているのだ。エスパーニャ人は建物を作るのに石しか使えないであろう。それにシウダ・デ・メヒコの周囲には柱サボテン位しか建物に使える木が取れないのだ。なので、密林地帯の木々は今後とても重宝される可能性がある。それが、エスパーニャ人の侵攻になるか、交易の申し込みになるかは分からんがな」


彼らはこう聞いて沈黙してしまった。エスパーニャの大侵攻が始まっては堪らない。


「今年の5月頃に日ノ本から神殿建設の専門家が来る。彼らはトゲだらけのサボテンなぞ神殿の素材には不適切と考えるだろう。さすれば、良質な木を求めてガテマラまで南下してくるはずだ。当然、神官や聖女も付いてくる。この地に派遣される人達だからエスパーニャ語は話す者ばかりだ。そこで、エスパーニャ人を介さず取引できるよう訴えてはどうだろう?さっきも言ったが俺には神官の友人がいる。手引きは可能だ。神に仕える者が住まう国日ノ本の神官達にはエスパーニャ人も手が出せない筈だが、万一に備えて今の内から密林地帯の周囲に落とし穴を敷き設しておくと良いかもしれん。其方らでなければ安全に密林地帯までたどり着けないようにな」正信はそう言って皆を見渡した。


『我らの集落の司祭も神殿を女神の命じた形に建て替えたいと言っておりました。木材を使うならワダサマの国と直接交易し庇護下に入ってしまうのが良いかもしれないですね』イッツェルはそう発言すると、皆も頷いていた。


折角手に入ったヌエバ・エスパーニャ攻略の手駒、エスパーニャ人司祭達。日ノ本は彼らを手放したくはない。それだけに、海賊に悩まされ南部地帯が手薄になっている今、先住民に蜂起されると困るのだ。正信は彼らの武力によるエスパーニャ人への反乱を抑えるだけでなく、交易による日ノ本とマヤ人との関係構築に彼らの意識を向ける事に成功し、内心胸を撫でおろしていた。

ガテマラ南部

挿絵(By みてみん)

ガテマラ北部・マヤ文明地域

挿絵(By みてみん)

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