表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第8章 旭日昇天・ヌエバエスパーニャ編
234/272

1598年9月5日 グアダルーペ

シウダ・デ・メヒコの北にある小さな町グアダルーペに住む先住民フアン・ディエゴは、1531年の12月9日、テペヤックと呼ばれる丘の上を朝のミサに向かう為、歩いてた。そんな彼の眼の前に、彼と同じ褐色の肌をした女性が現れた。

彼女は自らを聖母マリアと名乗り、この地に礼拝堂を建てることを司教に伝えて欲しいと告げる。

だがディエゴが司教にこのことを伝えたけれども信じてもらえなかった。

そんな彼の前に聖母は再び現れ、この季節には咲かないはずの薔薇の花をディエゴに手渡した。ディエゴが司教に薔薇の花を見せると、花を包んでいたマントに聖母の姿が浮かび上がった。この奇跡を見た司教は、聖母の話を信じ1556年にテペヤックの丘に礼拝堂を建設した。  ーーーグアダルペの聖母(1895年11月12日 ローマ法王庁承認)

聖母マリアが降臨した地としてエスパーニャ人からも先住民からも信仰を集める地グアダルーペをヌエバ・ヘルサレムことハポンから来た聖女と神官がこの日の早朝訪れるという話は、瞬く間にシウダ・デ・メヒコとその近郊のアシエンダ(大農園)に伝わり、小さな町に前夜から大勢の人が詰めかけ異様な雰囲気になっていた。


標高2000メートルを超えるシウダ・デ・メヒコ一帯はこの時期雨期であり、周囲をテスココ湖に囲まれていることも手伝って朝から深い霧に閉ざされていた。


テペヤックの丘には30年程前に聖母の要請に答え作られた小さな礼拝堂があった。


一向は神官・聖女計8名にハポンから付き従って来た司祭7名。そしてヌエバ・エスパーニャ副王・ガスパール・デ・スニガと護衛10名である。テスココ湖の外周にあるグアダルーペまで舟でやって来た一行は、霧にまみれた大勢の群衆に見守られながら、礼拝堂の前までやって来た。その時、


『ヌエバ・ヘルサレムから遥々訪れた者達よ。よくぞ参られた。聖母マリアとしてお願いする。この礼拝堂をヌエバ・ヘルサレムの様式に改修して欲しい。また、この地に元より暮らす民草が私の為に作ってくれたトナンツィン女神の神殿を破壊した肌の白い賊徒共は全員地獄に堕とした。トナンツィンとはこの地の先住民の言葉で聖母マリアの事である。今この場にいる人々よ。二度と破壊の賊徒が現れぬよう、神官や聖女が改修する礼拝堂を守って欲しい』


女性の声はそれっきり聞こえなくなった。気が付くと司祭7名を始め副王・ガスパール、それに大勢の群衆は全員大地に膝を付き手を合わせて涙を流していた。


この新たな奇跡が起きてしばらく経ち、漸く霧が晴れて来た。視界が開けた彼らエスパーニャ人、先住民インディオらの目に飛び込んできたのは礼拝堂に近いテスココ湖一帯に浮かぶ美しい大輪の花々である。


嘗ての奇跡で聖母が薔薇を出した事を知っている群衆は、前夜まで何もなかった湖面に浮かぶ大輪の花々に驚異し再び膝を付いて祈りを捧げた。この地にも大輪の花は存在するが水面に咲く花など一つとしてなかったので彼らは奇跡を信じたのである。


この時期、既に大きなニュースが起きた際には活版印刷によって記事が擦られ各地に伝えられる、所謂、不定期な新聞が始まっていた。この新たな奇跡のニュースも新聞に擦られ、ヌエバ・エスパーニャ中に知られていく事になる。



最早、説明自体不要だろう。言うまでもなくこの奇跡は甲賀衆と歩き巫女の仕業である。5月にシウダ・デ・メヒコに到着して以来、現地の気候について巧みに聞き込みを行い、一番霧の起きやすい時期を選んでグアダルーペを訪問したのだ。聖母の声は群衆に紛れて前日から潜んでいた歩き巫女がメガホンでだした物。湖面の花はこの地の人々には馴染みのない蓮の花、大将軍が新勝寺で開花させた古代蓮である。群衆が聖母の声に聞きほれている間に甲賀衆が霧に紛れて湖面に設置したのである。この古代蓮はその後10日間に渡って早朝に咲き続け、巡礼者の目を楽しませることになると共に、花見たさに夜の内にグアダルーペに渡りたがる者が続出し、テスココ湖の渡し船は夜便が頻発することになった。また、彼らの簡易宿泊施設・土産物屋もグアダルーペに出始め現代に続く観光地区の礎となっていった。


奇跡が起きた日の夜、副王の館でガスパールや司祭らと夕食を共にした和田惟長わだこれながらの神官こと甲賀衆は、


「聖母降臨の奇跡の地と聞いておりましたが、まさか本当に聖母の声を聞けるとは、我らも驚きましたぞ」と驚いてみせた。


『前回の聖母の登場は60年も前の事なのです。無論、私達も聖母の声は初めて聞きました。驚いたのは私達の方です。礼拝堂の改修は全面的に協力します。金に糸目は付けません故、何なりとお申し付けください』


副王は未だ興奮冷めやらぬようだ。エスパーニャ副王として9代目の彼は聖母の声を聞いた初めての副王となったのだ。聖母の声を聞いた者など例え皇帝でもいないだろう。


船内で船員や司祭を、アカプルコで出迎えの船員家族や医師を籠絡した甲賀衆と歩き巫女達は、この一件でこの地に更に大きな地盤を築いた事になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ