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1598年2月28日 軍港

日ノ本軍の第一本拠は大陸を望む十三湊である。武将を選択した者の大半はこの地で内燃機関駆動の軍船・軍用機、雷矢・無音銃などこれまでなじみのなかった各種兵器の講習を受ける。


将級の立場の者がこれらを直接扱うことは稀だが、軍略を練るに当たって兵器の長所・短所を知る事は極めて重要だ。


この十三湊に続く第二の拠点選びは難航した。太平洋側に設ける事は確定なのだが、太平洋側ということは野分による高波を考慮しなければならない。必然的に瀬戸内か江戸湾となる。長宗我部氏親に調べて貰った旧村上水軍の拠点は皆瀬戸内海に浮かぶ島々だった。白花虫除菊の生産拠点にした因島もあった。結局、これらの島々の湊では規模が小さい上、商船も行き交う瀬戸内は軍事機密の保持にも懸念があるということで、旧伊勢家の領港だった江戸湾の木更津湊を第二拠点とした。何しろ旧伊勢領だから設備は整っているし製鉄所も近いので造船の拠点でもある。


将来は木更津の更に北、現代での千葉港あたりまで軍港として整備していく計画だ。釜石の鉄に択捉島のチタン砂鉄、黒潮の恩恵である大規模海流発電と豊富な南関東ガス田のお陰で総州の直接還元製鉄所は既に4か所稼働している。石油は相良油田と新津油田から供給を受けている。


石狩、申川油田を始めとした秋田の油田群から石油が集まる十三湊と並んで二大軍港となる。


ただ、これだけでは不安が残る。幕府以外の徴兵権を認めていない以上、西日本が非武装地帯となってしまうのだ。明・朝鮮が攻めて来た場合木更津や十三湊から迎撃ではどうしてもタイムラグが生じるし、彼らに備えて長期停泊するにはエネルギー補給基地が必要になる。


そこで第三拠点として開設されたのが近現代でも軍港として有名な佐世保港である。佐世保湾は西彼杵半島と俵ケ浦半島によって閉じられており外海に出るには両半島の間、僅か850m程の水路を通るしかないという正に天然の軍港なのである。日ノ本以外に航空機を所持していないこの時代、平戸や長崎にやって来る異人もこの湾内への侵入は不可能だろう。しかも佐世保の山間部には炭鉱がある。その他近代の八幡製鉄所で有名な北九州地域でも炭鉱と鉄鉱石の採掘は可能だ。九州の地震の震源となっている豊州からも距離があり高炉建設も可能な地である。


九州にも軍の拠点が出来ると知って博多にいる九州探題・北条氏隆は大喜びだった。やはり守りに不安を感じていたのだろう。幕府は釜石高炉の建設を差配した相馬秀胤を佐世保に派遣し佐世保高炉の建設に着手させた。また、資部省大臣・前田利長は八幡近郊の炭鉱・鉄鉱探査を風魔の山師に依頼した。九州は世鬼の支配域だが世鬼には山師はいなかったのだ。炭鉱・鉄鋼が発見された折には小倉城下の冒険者義浪党に採掘を発注することになるだろう。


十三湊、木更津、佐世保。この三湊が日ノ本の攻守の要となっていくことになる。


ところで、九州探題・北条氏隆にはこれら軍務の円滑な施工とは別に、もう一つ幕府から勅命を受けていた。それは、朝鮮通信使の取り扱いである。既に150年近く途絶えている朝鮮通信使だが、近年の倭寇の勃興により再び朝鮮から使者が派遣される可能性があるので対応を明確に手順化することになったのである。嘗ての朝鮮通信使は対馬にやってくると、その後、博多・赤間関(現代の下関市)等で止め置かれ、都からの使者による入国・入京の許可を得てから先に進んでいた。つまり、対馬までは朝鮮にとって自由往来地域だったのだ。これが、現代・韓国で”対馬は韓国領”という誤認を与える一助になってしまっている。というのが俺が呉の資料館で榎本館長から聞いた話だった。


そこで九州探題・北条氏隆は対馬に使者が来た際は朝鮮側から来日の意向がある事を受け取り、使者自体は対馬から送り返すよう勅命を受けていた。対馬を治めていた宗氏は文官を希望し代官として引き続き留まっているが、長年にわたり日朝双方の間で上手く立ち回り日朝貿易の利を受けていただけに余り信用されず、対馬には世鬼が重点配置されるようになっていた。そして、この対馬に配置された世鬼こそが俗に後期倭寇と呼ばれる明国、朝鮮の沿岸部で暴れ回る明人を主体とした海賊を裏から支配していくことになるのである。佐世保の軍港は稼働までに時間がかかるので、それまで明国や朝鮮をかく乱するのが目的だ。無論、この世鬼の暗躍は忍びの頭領である俺、伊勢直光の計略の一環であり、幕府も九州探題・北条氏隆も宗氏も何も知らない。

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