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1596年12月17日 資部大臣・前田利長

新制幕府の新たな大臣の内、最後の引継ぎ相手がこの前田利長だ。というのも利長は総州にいたからだ。既に都から先触れが出ているので利長も事情は知っているが、直接顔を合わせての引継ぎは重要だ。


利長は化学肥料製造奉行という要職の傍ら佐倉工科義塾で近代技術を学び昨年無事に卒業した俊英である。当初は10年計画と思っていた海流発電がこれほど早く実用化に漕ぎつけ、更に旋盤機器類を開発したのは利長の功績が大きいのだ。


利長はアンモニア合成で爆弾の原料である硝安が作れることをもう知っている。当初は二曲輪己助に任せた極秘プロジェクトだったが、利長は工科義塾で得た知識で自分でこの事実にたどり着いたそうだ。


利長は今では”エンジン”とか”エタノール”他現代用語をそのまま使って話せる貴重な家臣だ。


『大将軍就任、おめでとうございます。殿。”殿”とお呼びすることはもうないのかと思うと寂しゅうございますが・・』


「俺も寂しいぞ。そちとは資部省でまた一緒に仕事出来るとばかり思っていたからな。まさか軍務省を任せられるとはな」


『この場では”殿”とお呼びしてもよろしいでしょうか?』


「うむ。二人だけ故かまわんぞ」


『では殿、これからの伊勢家はどうなってしまうのでしょう?公地公民が導入され人々は等しく土地を失いました。殿が進めて来た畜産はどうなるのでしょう?他領でも畑や耕して来た農民、稲作をしてきた農民達が動揺していると聞きます』


「いや、そこは心配する必要はない。農民は今まで通りの土地で畑作、稲作をやればよいし、総州の畜産もこれまで通り我が伊勢家が差配して発展させていく。公地公民とは土地も民も全ては帝に属すということだ。これまでは、大名や公家が土地を支配し領内にいる農民を徴兵して戦を始めたりしたであろう。今後は土地も民も帝のものだから勝手に徴兵は出来ないということだ。領民は安心して生産業に従事できるだろう」


『なるほど、そう考えると民にとってはより有難い世になりますな』


「うむ、それにそちも知っての通り、これからの戦は農民を徴兵し槍や刀を持たせて何万人揃えようと関係ない時代になる。兵の人数は勝敗を左右する切り札とはならなくなるのだよ」


『確かに、ティルトローター機が稼働すれば上から爆弾を投下できますからな。何万の兵がいようが的でしかないでしょう。兵はおろか城や壁も無用の長物になりますな』


利長は少しゾッとしたような顔で笑った。


『ところで殿、資部省の件ですが軍務省と分ける必要あったのでしょうか?』


「ん?どういうことだ?」


『いえ、資部省の業務内容の大半が軍関係ではないかと思いまして。例えば鉱山ですが現在、日ノ本の資源保護ということで金山銀山は採掘をほぼ停止しているそうです。稼働しているのは鉄山ですがこれらは高炉製鉄にまわされます。そして高炉で作られた鉄は大部分が軍事物質です。例外は堤防に使われる鉄筋コンクリートの材料くらいでしょうか?草水、ガス田についても同様です。ナイロン、ポリエステル始め化学繊維やゴムの大半が軍事物質です。これらの技術開発も軍関係が主体となるでしょう。衣類としての繊維は泰平の世になって品質の良い絹麻が出回り始めましたし、最近では綿や毛皮も出まわっております』


ここまで聞いて俺は考え込んでしまった。利長の言う通りだと思ったからだ。総州で稼働している直接還元製鉄も含め近代製鉄で作成している鋼は全て軍事物資である。


『それに、廃刀令も発令されました。今後は刀鍛冶の多くは農具や調理道具などを作るようになるでしょう。高炉や直接還元製鉄で作られた鉄が民の生活用品として出回ったら刀鍛冶達が仕事を失ってしまいます』


引継ぎの筈が利長に諭されている感じになってきたよ。


「確かにそちの言う通りだな」


現代で防衛省の傘下に防衛施設庁というのがあるが、資部省は防衛施設庁のような物なのだ。あの素案は現代の政府体制を参考にしようとしたから俺一人で作ったのだが、利長にも参加してもらえば良かった。


『幕府が正式に発布している以上今更訂正は難しいのでしょうが・・』


利長の言うとおりである。幕府の決定しかも幕府の体制をそう簡単に修正できるものではない。


「実は大評定では俺が利長を大臣の器に相応しいよう育成することになったのだ。なので当面は軍務省と資部省は一体となって動くことになる。その中で軍務省と資部省は一本化した方が効率的ということになればその旨具申できるかもしれん」


『なるほど、殿のお話では越後や駿河に新たなガス田もあると伺いました。それらを造営省に任せ民需用施設にすれば良いかもしれません』


そう、現代の静岡県焼津地方、新潟県長岡地方は大きなガス田があるのだ。


「造営省の北条直定は中々の傑物だ。領民の為に色々と差配してくれるだろう」


『以前、殿が仰っていた電信など如何ですか?現在の電線ケーブルなら海中に沈めても十二分に耐久性があります。都と各探題の領都を結べばモールス信号通信が可能になります。従来の伝書鳩通信とは比較にならない情報量を天候に関係なく送受信可能になります。中央集権を進める幕府には大きな武器となるでしょう』


暫く合わない間に利長本当に立派になったな。もう引継ぎ要らないんじゃないか?というか、絶対に手放したくなくなってきたよ。


「モールス信号の送受信装置の開発にどれくらい掛かるかにもよるが、時機を見て造営省に提案しよう。モールス信号手の育成も必要だしな。それに信号設備は軍務にも有用だ」


『ところで、軍務省の本部は何処に置くのです?軍の本拠は十三湊と伺いましたが幕臣である殿は都周辺にいないと不味いのでは?』


「いや、俺の軍務大臣就任は上様直々の命令でな。現在の伊勢家の主力である船や大砲がそのまま日ノ本軍の主力となるのだ、指揮を取れるのは俺しかいないと仰せだった。従って俺は現場に赴任、塀和あたりを名代として都に常駐させようかと考えている」


『そうでしたか。もう一つの拠点は長崎と伺いましたが、そちらはどなたが?直雷様が?』


「うむ。当初は明・朝鮮への抑えとして長崎を考えていたのだが、よく考えるとあそこは異国人が多い地だ。機密が多い軍港としてはどうかと思って今は思ってる。理想は野分被害も少なそうな瀬戸内の内海に設けるべきなのだろうが、毛利領、長宗我部領には詳しくなくてな。幕府には長崎のことは話しておらんから変更は可能なのだが、代替地が見つからなければな・・」


『それでしたら、伊予は如何でしょう?豊臣時代までは瀬戸内の水軍といえば村上水軍でした。豊臣方として小田原に参陣したのは来島村上氏の来島通総だったと聞いております。当時は安国寺恵瓊殿が伊予を治めていましたが、軍港として整備可能か氏親様にお尋ねしては如何でしょう?最も伊予では付近に油田がないので軽油は輸送する必要がありますな』


う~む。村上水軍は現代で書籍にもなってたくらいだから知っているし良いかもしれない。それにしても、利長見事な補佐役ぶりだ。ますます失いたくなってきた。


村上水軍の拠点の現状は氏親に尋ねる事にし、軍務省と資部省の合併については時間をかけて進め幕府に働きかける事にし、引継ぎ?を終えた。


ーーーーーーーーーーー 第6章 慶長維新編 (完) ーーーーーーーーーーーーーー

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