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1596年11月24日 防務大臣・松田直秀

この日は午前の北条直定への引継ぎに続き、午後は防務大臣・松田直秀と面会だ。


直秀とは9月にサンフェリペ号の件で土佐で会って以来の再開である。彼こそは上様がもっとも信頼を置く側近中の側近である。といっても、引継ぎ事項はそう多くはない。


既に、微生物の殺虫に用いる酸化カルシウムは北条領内で広く普及していたし、井戸の殺菌に使用する次亜塩素酸ナトリウム液も電気分解の導入で結構な備蓄を用意できている。


且つてフイさんに教わった、シラミ殺しのクララの根、蛆殺しの蠅毒草の根も北条領内では切らさぬよう確保することが徹底されている。あとはこれらを全国展開するだけなのだ。


また、日常の衛生状況の向上をはかるアルコール消毒液の作り方も書面で渡した。以前、伊勢領内でベビーブームを起こしたあれだ。


その他、昨年、エスパーニャ人女性が持ち込んだ蚊取線香の原料、白花虫除菊の話をした。幸いにも栽培は順調であり株分けで大きく数を増やしているという。現代では白花虫除菊は瀬戸内海の因島の特産だった事を思い出し、因島で本格的に栽培してはどうかと提案した。


書記を伴って現れた直秀は適宜俺に質問したりしながら、全て書記に記録を取らせている。本当に優秀な文官と言う感じだ。これで武の才もあると言うのだから軍務省に欲しい位だよ。最後は消防の話をした。


既に造営省に街づくりの際に主な通りには水路を通し水を絶やさぬよう依頼したことを告げると共に、水槽に手押しポンプを付けた消火器の設計図も手渡した。


以上で引継ぎは終了なのだが、最後に直秀が質問してきた。


『蝦夷や樺太それに八丈島・小笠原諸島の状況を教えてください。某はいずれも行った事がないので』


八丈島はともかく新たな日ノ本領となった地域まで心配してくれるとは流石だ。


「八丈島と小笠原も野分は来るだろうな。ただ、島だから高波の被害があるのではないか?野分の時期に島に近づくのは船にとっても危険だから。詳しいことはわからんが・・」

「蝦夷は野分の時期に滞在したことがあるが、人口が少ないので汚染被害は殆どないようだった。野分が来ると知ると厠を潰して高台に避難するのだが、野分がさった後は陸に打ちあがった魚の収穫で祭りのようだったぞ」

「樺太は流石に北過ぎて野分も届かないのではないかな。伊勢家では樺太に油田を二か所設置しているが野分も地震も起きたという報告はないな」


『では千島は如何です?千島の北に”かむちゃつか”という大きな島があると耳にしましたが、”かむちゃつか”とは樺太とは別の島なのでしょうか?』


「某もカムチャツカには行ったことが無いが、樺太とは別の島だ。カムチャツカの更に北に行くと大陸と繋がっているらしくてな。そういう意味では島ではなく半島だな。アイヌ人が住んでいるそうだが詳しいことは分からない」

「カムチャツカの東にはアリューシャン列島という小さな島々があってな。此度の日ノ本に仇なした逆賊の公家共はカムチャツカとアリューシャンの島々に流したのだ。日ノ本の高家としての意識が残っているなら、かの地に日ノ本の言葉・文化を根付かせて見せよと申し付けてな」


公家と聞いて直秀が顔を顰めた。沈着冷静な役人の印象だった男が初めて感情を見せた。


上様の最側近を務めている直秀も、公家とは色々と因縁があるのだろう。


「そんなわけでこれらの島々は何があっても公家共の責任範囲と考えて貰って差し支えない。それが彼らに与えた刑罰なわけだからな」


そう言うと、直秀はこの日初めて微笑を見せた。


急にお大臣様に成れ!と言われて緊張していたんだろう。土佐であった時とは明らかに雰囲気違ったからね。俺は


「大臣だからと過度に気負い過ぎず、堅実に仕事をしていけば良い。直秀殿ならきっと大丈夫!」


そう言葉をかけ、防務省への引継ぎは以上で終わった。

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