1596年11月24日 造営大臣・北条直定
評価を付けて下さった方、有難うございます。
直定と会うのは、北条氏邦の乱で加賀で会って以来だから、昨年12月以来だ。
造営省の大きな仕事といえばやはり運河建設と堤防工事だろう。梁に鉄筋が使用できるようになった事で堤防にもコンクリートが採用できるようになった。
もう一つは街づくりだ。幸か不幸か群発地震で西日本の多くの街が被害を受けている。これらの再建を統括する造営省だが、折角、復興するのなら火災に強い街づくりをして欲しかった。ガス田からの火付け具の普及によって火おこしは昔とは比較にならない程簡単になったのだ。ということは、火災が起きる可能性も増大するという事である。この時代日ノ本の建物は木と紙が主体だ。屋根は瓦も普及していたが今回の群発地震で屋根瓦の重さの弊害が大きく認識される事態となっていた。事実、瓦屋根の寺は多くが倒壊したが、軽い茅葺屋根の民家は倒壊を免れたというケースが数多く報告されていた。今後は茅葺屋根が見直されていく事だろう。となると火災には危険要因の追加材料が増えるという事になる。
なので、街の中央路には水路を設け、冬の乾ききった時期でも町から水が絶えないように設計すべきだと提案した。幸い風水だの鬼門だのという馬鹿げたものは廃止されたから、水の確保を第一とした街づくりは可能となる筈だ。もう一つは道路舗装だ。これまでは雨期の街は道路は泥濘になり、あっという間に洪水になることが多かった。道路を水はけの良い砂利を敷きその上に石畳を敷けば泥濘は防げるし、あふれた水は水路に注ぐよう溝を設置すれば水害の発生も抑えられるだろうと説明した。
『伊勢様、茅葺は野分には弱くありませぬか?』
直定、大臣に任命されてから必死に勉強したのだろうか。良く知っている。
「確かに。茅葺は野分、より詳しくいうなら強風には弱いな。何しろ軽いからな」
地震被害の軽減を重視すれば野分に弱くなる。野分被害の軽減を重視すれば地震に弱くなる。日ノ本での建築は本当に大変なのだ。
「ただ、最近、製造に成功した炭素鋼なる金属がある。これは金属だが加工が容易でな。撚りをかけて縄にすることが可能なのだ。従来の麻縄や棕櫚縄とは比較にならない程強靭な縄になる。これを使って茅葺を地面と固定させれば野分被害も大きく減らせると思うぞ。詳しくは資部省に相談してくれ」
海流発電という大電力が用意できたことで、本当に作れる品の幅が広がったのだ。
現在では石炭を使用した高炉製鉄の釜石、中小坂鉄山、群馬鉄山で採れた鉄鉱石を使用した直接還元製鉄の房総が二大製鉄地だ。日本の太平洋岸はほぼ全て大きな海流が覆っているから、海流発電は今後国内各地に普及していくだろう。この時代の川は運河として交通物流の要でありダムなどは作れないから、海流発電の役割は極めて大きいのだ。
「都をみても分かる通り、多くの仏寺がペシャンコになっているだろう。あれらは再建せず、民家や役所を再建する際に建物が密集しないよう、建物と建物の間隔を広く採ってくれ。さすれば火災が起きても延焼の危険は軽減されるだろう」
直定も養父・氏邦が教如の換言によって心を壊されてしまったので仏教を良く思っていないようで、
『はい。寺の跡地は伊勢様が仰るように有効に活用していきます』
と答えた。
「実は三つ者という元は忍びだった堤防や運河他、あらゆる施設の優秀な集団がいるのだ。当面は軍港の整備があるから軍部省の管轄下に入るが、一部は造営省に貸し出すので大いに頼ってくれ。設計から施工まで本当に優秀な者達だ」
『伊勢様の格別のご配慮。誠に痛み入ります』
直定は恐縮気味にそう答えた。若くて真面目だが、猛将・氏邦に育てられた武威もある直定なら現場の荒くれ共にも舐められることなく幕府を代表して統括していってくれるだろう。俺は頼もし気に直定を見つめ、引継ぎの終了とした。




