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1596年10月23日 将軍家大評定5

評価を付けて下さった方、有難うございます。

後はどの省の大臣に誰を据えるかだ。何しろ、トップである摂政は上様、その補佐の関白は氏規さんの留任で決まりだろうからだ。


だが、ここでいきなり大きな爆弾発言が投下された。それは上様の一言から始まった。


『余が摂政として幕府の長の任にあたる。世の相談役として関白・氏規叔父、引き続きよろしく頼むぞ』


と言ったところ、氏規さんが、


『誠に申し訳ありませんが、某は今一度、武将として生きさせていただきたく存じます』


と関白継続を断ってしまったのである。


氏規さんは、現在51歳。戦乱の世ならそろそろ余命僅かな年齢だ。この時代は肉など食事の改善による体力の向上、戦がなくなった事等で寿命は延びたが、6年ものブランクを超えて武将に戻りたいとは驚いた。評定衆も騒然としている。場の混乱を感じた氏照さんが、


『氏規は若いころから外交役とか武者仕事とは違う仕事ばかり任されてきたからな。一度は武将として腕を振るいたいって気持ちはわかるぞ』


と氏規を擁護した。確かに、氏規さん自身は津久井城の戦い等を見る限り一軍の将としても優秀なお人だ。温厚で聡明な人柄が外交役として重宝され、実力の割にこれまで武者働きの機会が少なかったのも事実なのだ。


『しかし、氏規殿が関白でないとなると、どなたが関白に相応しいのでしょう?』


こう問うたのはこれまで殆ど発言してなかった氏光さんだ。


『それについては上様の御舎弟でもある氏房殿が適任ではないかと考えます。年長の某より御舎弟殿の方が相談もしやすいのではありませんか?』


氏規さん直々の推薦に氏房さんも驚いている。


『某は関東探題になるものとばかり思っておりました。畿内については何もわかりませんが果たして務まりますでしょうか?』


困惑顔でそう答える氏房さん。対して氏規さんは、


『関白の役割は畿内の事ではない。幕府の長・上様の相談役だ。つまり日ノ本全体への理解が必要となるが、そのような傑物は誰もいない。気負わず上様の相談役として経験を積んで行けば良い。某の時とは違い煩い公家衆はもういない。氏房殿なら大丈夫だ』


と励ました。というか氏規さん公家との間で相当苦労したんだね。


これは断れないと観念したような氏房さんを見て慌てて氏勝さんが声をあげる。


『では、関東探題はどなたのなるのでしょうか?氏忠殿でしょうか?実は某も今一度、武将としてやり直させて頂きたいと考えています』


あぁ、沈黙してて関東探題にさせられちゃ叶わんというわけか。氏勝さんもまた武将としては活躍の場に恵まれなかった人だ。武将として戦場に未練があるのもやむを得ない。


『氏忠でよいんじゃないか?氏忠は元々関東の名族佐野家を継いだ身だ。探題として関東に復帰しても不思議ではない。それに、暴れ天竜の運河が完成して東海道と信濃は大分行き来しやすくなったろう。氏光が東海信濃探題を名乗ってもやっていけるだろう?なっ!氏光?』


氏照さんの強引だが最もな発言に氏光さんも同意する。


しかし、なんだか、省の大臣を誰にするか決める前に探題を決める事になってきたぞ。


氏光は、


『東海3国と信濃なら差配できるでしょう。ですが甲斐は遠すぎます。それと一つ、尾張や伊勢はどうするのですか?古の時代の東海道と言えば伊勢や尾張も入っていた筈です。あまり担当範囲が広くなりすぎると差配に支障がでるかもしれません』


これには板部岡さんが答えた。


『琵琶湖ー伊勢湾運河が開通したので、美濃、尾張は都から非常に近くなったので今後は畿内とする。直光のお陰で船の性能も向上しているので紀伊、伊勢も畿内に加える事にする。甲斐は確かに浜松からは遠いであろうから関東に組み入れる。逆に伊豆は東海に組み入れる。関東から伊豆に入るには箱根を超える必要があるからな。なので氏光殿は東海信濃の探題、東信探題として差配してもらいたい。氏照殿は越前から越後まで、これらの地方は古の時代は北陸道と言われていたそうだ。氏照殿には北陸探題としてこれらの地を差配して頂きたい』


『四国探題・長宗我部氏親殿、中国探題・毛利輝元殿、奥州探題・伊達政宗殿は留任、九州探題には小早川氏隆殿に就任いただくよう打診中です。また、新設する蝦夷探題は伊勢殿の推薦で九戸実親殿に打診し内諾を得ております』


ここで、伊達政宗が口を開く。


『上様以下幕府の皆様には申し訳ございませんが、某も武将としてやり直させて頂きたく伏してお願い申し上げます』


またしても、探題辞退者が出てしまった。幕府側は探題を辞退する者がいるとは思っておらず事前に根回しをしていなかったようだ。政宗は続いて、


『奥州探題をどなたにするかは幕府の専権事項ですから某が何か言うべきではないでしょうが、前任者としてもしどなたか推薦せよと仰るならば我が伯父上・最上義光殿を推薦させて頂きます』


後任まで用意している周到振りだ。政宗はまだ29歳。奥州統一の途中で戦国時代が終わってしまったのだ、武将として名を成したいという気持ちが残っていても不思議はないだろう。ここまで周到に準備されていては慰留は難しいと判断したのだろう、上様は


『伊達殿の希望招致した。奥州探題の後任は幕府内で話し合うが適任がいなければ最上殿に打診する事にする故、事前に推薦状を認めておいてくれ』


政宗は


『有難き幸せにございます。推薦状は直ちに用意させていただきます』


と応じた。


これで漸く各省の大臣の人選である。


既に最高位の摂政・上様、二位の関白が氏房さんまでは決まっている。上様の直轄省となる内務省大臣は小田原時代から上様の近習を務めていた北条氏資に決まった。他、


文部省は知識豊富な板部岡さん、


防務省は上様の忠臣・松田直秀、


造営省はやはり上様の忠臣・北条直定(北条氏邦の養子)


財務省もやはり上様の忠臣・山角直繁(隠居した小田原時代からの勘定方・山角定勝の一門で幕府の財務を補佐していた)


異変が起きたのは軍務省である。何と俺が指名されてしまった。


「恐れながら、某は今まで通り、旧技開家老の業務を引き継ぐ資部省と思っていたのですが・・・軍務省とは即ち日ノ本国軍の総大将、大将軍にございます。忍びの出の某には荷が重いかと・・」


だが上様は


『何を言う。数々の新兵器を生み出したのは其方だ。臭水を使用した船の性能向上も其方が齎した事だ。あれら新兵器を備えた日ノ本国軍を率いられるのは其方しかおらん。他の武士は精々種子島と従来の鉄球を打ち出す大筒が常識なのだ。あれら新兵器を運用できるのは其方以外おらんのだよ』


続いて、氏勝さんが


『直光殿、いや大将軍様は船のみならず、空を飛ぼうと研究を重ねていると伺っております。某も是非空を飛んでみとう御座います』


と暴露してしまったので、本日一番のどよめきが評定の場を支配した。これはもう観念するしかなさそうだ。


「分かりました。この直光、日ノ本のため誠心誠意努めさせていただきます」


「ただ、資部省はどなたが担当するのでしょう?恐れながら某が軍務省と兼務するのは無理でございます。何しろ新制日ノ本軍は国外に領土を拡大すべく軍を動かすのです。国内で鉱山や研究を続ける資部省とは任地自体が大きく離れてしまう恐れがあります」


これには、一同困り顔だ。何しろ日ノ本軍の新兵器の大半は俺が設計した物なのだ。俺以外の者を資部省大臣にして新兵器、新商品の研究が続けられるだろうか?暫く思案した後上様が


『新制軍の国外進出の話は以前より聞いておる。ただ、今すぐ出陣するわけではなかろう?新たに仕官する武将に新型船の操舵や新兵器の使い方を指導しなければならぬ筈だ。空を飛ぶのも急には実現できまい。その間を利用して資部省大臣を務められる者を育成できぬか?これはと思う者はいないか?直光』


実を言うと一人いる。アンモニア合成を差配し海流発電の実用化にも関わった男・前田利長だ。元秀吉の家臣だが父利家は故郷尾張で隠居しており、利長を重用しても今更秀吉に義理立てして騒ぎを起こすことはないだろう。


「某の家臣、前田利長は新しい物事への理解も早く研究現場の者への差配力もかなりのものです。某が時間の限り仕込めば資部省大臣も務められるかと思います。それに専門知識については工科義塾学長が相談役になってくれるでしょう」


武将復帰を表明して以降すっかり黙ってしまった氏規さんに代わり、板部岡さんが答える。


『前田殿か。元秀吉の家臣達も今では北条家内で実績を上げている者が結構いる。内務省には大谷吉継、財務省には長束正家に次官すけとして入って貰う予定だ。また元前田家家臣だった篠原一孝という者には造営省に入って貰う。聚楽第の造営奉行だった前野長康が昨年亡くなってしまっての。あやつなら造営省の次官すけも務まりそうだったのだが残念な事よ。まあそんな訳で、これからの幕府には元秀吉の家臣であっても有能であれば登用していく。直光、利長を資部省大臣として相応しい男に育てて行ってくれ』


どうやら、利長で決まりのようだ。まあ、俺の推薦だしね。しかし、大臣となれば幕府の評定衆だ。本人が知ったら驚くだろうな。


ともあれ、長かった大評定は無事に全ての議事を終えお開きとなった。

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