1596年10月1日 空を飛んでみよう
三種の神器の完成に大きな功績のあったセッパヤ達サヴァン症候群の皆を労う為、梶原水軍に大量のチャーシュー麵の材料と秋の果実・梨などを搭載し、賄い婦5名を付けて利島に送り出した。俺自身も行きたかったが、夕が身重である事、仕事が立て込んでいる事などで見送るざるをえなかった。
長い間、試験航行を続けていたディーゼル船だが、結局、舵専用のエンジンを搭載する事に決着し実用化に目途をつけた。
さて、内燃機関それもレシプロエンジンが完成しているということは、乗り物に様々な革命をもたらす。その最たるものはやはり航空機だろう。
航空機があればセッパヤ達に上空から細密画を描いてもらい、伊能忠敬らにより写真測量により地図製作も可能になるだろう。
正史では航空機は気球とグライダーから始まった。その後、飛行機、飛行船、飛行艇が開発され、やがて、飛行機に淘汰されていった。一方、15世紀に既にレオナルド・ダ・ビンチがスケッチに描いていたヘリコプターは実用化されたのは第二次世界大戦後と以外に遅かった。これは、重量のわりに出力が小さいレシプロエンジンでは空中静止が上手くいかなかったからだと言われている。
では、この時代ではどうだろう?俺、というか重工マンであれば、機密に属する最先端の軍用機でない限り、航空機の基本構造は一通り知っている。
まず、グライダー。これはパイロット養成に欠かせない。当初は三半規管の発達した忍びが達がパイロット候補となるだろう。 もう一つは石川五右衛門一家だ。彼らは大凧で空を舞う事があり、波田家に頼んで若手を5名程パイロット候補として借りて来た。やはり、空に慣れているというアドバンテージは大きく現時点ではエースパイロット候補だ。
飛行船。正史では一時は飛行機と並ぶポピュラーな航空機で商用飛行の定期便も運航されていたという。ただ、船体の上の大きな気嚢に可燃性の水素を充填して運航するので火災に見舞われる危険がある事。船体強度が脆いので悪天候に弱いという欠点がある。
因みに現代で宣伝用に飛んでいる飛行船は水素ではなく不燃性のヘリウムを使用しているが、日ノ本では飛行船を飛ばせる程ヘリウムは確保できないのも問題点だ。
飛行艇。こちらも一時期は定期便が運航される花形航空機の時代があったそうだ。離着陸に滑走路など大規模設備を必要としないので、現状では一番有用だ。ただ、海、湖が無い地域には運航できないというのは将来的には大きな欠点になるだろう。
最後はやはりヘリコプターだ。実は1970年代からレシプロエンジン・ヘリコプターが開発されているのだ。R22と呼ばれる単発のレシプロエンジン機だ。民間機なので俺でも設計図を描ける程度の知識はある。現代では主に飛行訓練生の練習機として使用されている事が多い小型の機体だ。
一概にレシプロと言っても、この時代で実現したエンジンと現代のレシプロでは性能に差はあるだろうが、この時代は対空攻撃など考慮しなくて良いので機体は木と紙、ローターはお馴染み鯨の髭等で軽量化を測れば浮上できるのではないかと期待しているのだ。
問題は航空機全般に言える事だが、安全な運航には気象予報が欠かせない事だ。気象衛星による高度技術の気象予報に慣れ親しんできた俺より、この時代の人々の方が天気予報に関しては有識者ではないだろうか?
空を飛ぶと言うのは夢のある話ではあるが、困難な夢でもあるのだ。
さて、従来は職人と一括りにされてきた鍛冶師らだが、この時期になると、製造を専門とする製造業。研究開発を専門とする研究職に大別されるようになってきた。研究職は工科義塾を卒業した技師達で運営されている。三胴船用のトランスミッションを開発しているのも彼ら研究職だ。
実は彼らは既に大きな実績を上げている。それは溶接技術の飛躍的な向上だ。俗にガス溶接と言われる金属を高温にしてつなぎ合わせる技術だ。元々、ここ房総はガス田の宝庫であり、また、ガラス工芸によるバーナーワークでガスバーナーの開発運用実績はあったのだが、彼ら技師たちはプロパンガスボンベ、酸素ボンベ、圧力調整器、溶接器、点火用専用火付け具を次々と発明し、それまで鋳造しか手段がなかった金属製品の大型化に大いに貢献した。特にガスボンベは房総でガス採掘を始めた当初は甕に貯めていた事を思えば隔世の感がある。最もこれは技師の技能もさることながら高炉製鉄による品質の良い鉄が作られるようになった事と海洋発電が正式稼働し大規模電力が確保でき圧縮器が作れた事も大きいのだが。
ともあれ、船舶用のディーゼルエンジンが開発できたのは彼らの溶接技術の貢献が大きいのだ。
そんな頼もしい研究職たちにグライダー始め各航空機の設計図面と、もう一つホバークラフトの設計図面を渡し新たな研究プロジェクトを立ち上げさせた。ホバークラフトは船舶だがプロペラ推進であるので航空機開発の試作開発には向いていると判断した。それに水陸両用のホバークラフトは大きな川がなく運河が施設できない地域への荷運びにも利用できるのだ。船底部のスカートと呼ばれるゴム部分には聾唖様ゴムが活躍してくれるだろう。現代人としては航空機の試作品ならドローンやラジコン航空機を真っ先に思い付いたのだが無線に関する知識が俺にはないのでホバークラフトの採用となった。一人の人間のチート知識では色々大変なのである。
現代で実用化されたホバークラフトは登場当初は夢の乗り物と期待されていたそうですが、騒音が物凄い上、燃費が非常に悪く船賃が高いので現在は日本では運航されていないそうです。私も一度くらい乗ってみたかったので残念です。




