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1596年3月11日 ハネムーンpart2

八丈島は本土からおよそ300キロ。木馬型ヨットで15時間ほどで到着した。


かつて旧型ヨットでは十三湊から石狩川まで300キロを2日掛かっていたことを考えると物凄いスピードアップだが、これはウオータージェットの威力というより、海域に岩礁が少なかったこと、あと、風向きが一定で安定していたことも関係あるのかな?北の海で体験したあの荒波は全く感じなかった。


既に伊勢家の領地となって暫く経つので港にはしっかりとした桟橋が設置されており快適に下船できた。夜間の航行を頑張ってくれた正木水軍の皆には警備を兼ねて船で休んでもらう。ソナとソナオは世話人によって車いすで移動だ。この島の奉行は長門路七郎左衛門という。まだ若い青年だ。彼は家臣を連れて港に迎えに来てくれていた。


『伊勢様お初にお目にかかります。八丈島の代官を仰せつかる長門路七郎左衛門にございます』


若いがしっかりとした挨拶だ。そして、もう一人


『伊勢様、お初にお目にかかります。屋良先江門の家臣、喜屋武太郎衛門きゃんたろえもんと申します。伊勢様の御計らいにより青ヶ島でサトウキビ農家を営んでおります』


おぉ、あの琉球出身のサトウキビ農家の人か!なかなかイケメンの若者だ。


太郎衛門たろえもん、サトウキビ栽培を成功させた功、大義である。此度は其方に褒美を持ってきた。後で下賜致す故、楽しみにしておれ」


『はっ、有難き幸せにござります』


その後、代官屋敷に俺、夕、立花夫妻、小笠原秀政、ソナ・ソナオとその世話人、護衛の弥助という集団で移動した。


代官屋敷は新しくはないが中々大きく手入れも行き届いており綺麗だった。


広間の上座に俺と夕が座り、立花夫妻以下の面々が左右に座る。地元民でこの場に居るのは代官の長門路七郎左衛門と喜屋武太郎衛門きゃんたろえもんだけだ。


「先ずは長戸路、本土から遠いこの八丈島をよく治めてくれている。これは俺からの褒美だ」


俺がそう言うと、弥助が箱を一つ抱えて入って来て、長戸路の前に置いた。


「開けてみよ」


長戸路は言われるままに箱の蓋を取ると『こっ、これは!なんと美しい』と感嘆した。


長戸路に下賜したのは飛び鉋の技法を用いた大壺だった。商人連中にはかなり良い値で降ろしている品である。


『このような美しい物を頂き、誠に有難うございます』長戸路は平伏した。正木水軍や雄二・甲斐姫から八丈島では陶器は作っていないと情報を仕入れていたのだ。ならば陶器の大壺は非常に珍しいに違いないと思ったのだが、当たりだったようだ。


「次に太郎衛門たろえもん、其方にはこれだ」


弥助に目配せすると彼は長くて平らな箱を持って来て太郎衛門たろえもんの前に置いた。


「開けてみよ」


蓋を取った太郎衛門たろえもんは中に入っている物が何か分からない様子だった。「それは樺太で採れた黒貂の毛皮だ。外での野良仕事は寒いであろう。その毛皮は大変温かいぞ。樺太でもそう多くは採れぬ品だ。それを着てこれからもサトウキビ栽培に励んで欲しい」


八丈島は本土からは遥か南だが緯度で言えば大分県と同じくらい、決して常夏の地ではないのだ。実際、この地で冬を越した雄二と甲斐姫は”かなり寒かった”と言っていた。


太郎衛門たろえもんは、


『殿の御配慮誠に有難うございます。大切に使わせて頂きます』と感激していた。


結局この日は八丈島に一泊し翌日、太郎衛門たろえもんの案内で青ヶ島のサトウキビ畑を見学する事になった。


翌日、木馬ヨット一隻で青ヶ島に出発する。行くのは俺、夕、立花夫妻、小笠原秀政、弥助だ。ソナー員はソナオ。ソナは八丈島に残る。


これは、非常通信の為だ。はっきり言えば伝書鳩だ。普通、伝書鳩は鳩の帰巣本能を利用するが、これを場所から人へと切り替える事に成功したのである。つまり、いざと言う時、ソナの所に帰巣する鳩を非常通信に使用するという訳だ。


現代の人からしたら、内燃機関が完成しエンジンの実用化まであと一歩という時代に何で伝書鳩?と思うだろうが、化学者の俺には電気通信の知識は殆どないのである。発電や電磁石は作れても、それをどう応用すれば通信が可能になるのか分からないのだ。化学者一人のチートの限界でもある。


さて、青ヶ島には4時間程で到着した。


だが、来てみて驚いた。この青ヶ島、入り江が見当たらない。島の外周全てが断崖絶壁なのである。絶壁は海中にも続いているらしく桟橋の設置もできないという。やがて断崖の一か所から人と小舟が出てきてこちらに向かってきた。


太郎衛門たろえもんが『父のウミトゥクです』と言った。小舟数艘従えてやってきたウミトゥクに乗船を許可し挨拶を交す。


『お初にお目にかかります伊勢様。屋良先江門の家臣ウミトゥクと申します。先江門様より伊勢様は琉球語も達者と伺っておりますので琉球語で失礼します。このような見事なサトウキビ畑を任せていただき誠に有難うございます。このウミトゥク、サトウキビ栽培を再び行う事ができるとは夢の様にございます』と泣きださんばかりに言った。彼の琉球語は俺のスキルで標準語に変換されているが他の皆はチンプンカンプンだろう。


太郎衛門たろえもん、皆に通訳を頼む」言った後、


「ウミトゥク殿、其方が齎す砂糖は日ノ本で大変珍重されておる。今日はサトウキビ畑の見物楽しみにしておるぞ。その前に渡しておこう。弥助」昨日、太郎衛門たろえもんに下賜した黒貂の毛皮と同じものをウミトゥクにも贈った。現代風に言えばダウンジャケットである。今日のような強風の日でも大いに役に立つだろう。ウミトゥクは丁寧に礼を述べ、正木水軍とソナオをヨットに残し、俺達は島に向かった。


予想していたが崖を登るのは一苦労である。ウミトゥクによると断崖の中に偶然空洞を発見しそれが島の奥まで続いていたので高台までたどり着けたのだという。おそらく且つて火山が噴火した際の溶岩流の後なのだろう。天然のトンネルになっているわけだ。


やがて、高台に着く。大海原をバックに一面のサトウキビ畑である。見事な景色だ。皆、登頂の疲れを忘れ見惚れていた。夕も立花誾千代も北の海とは違う青い海原に目が蕩けそうだ。


暫くするとウミトゥクが『寒くありませんか?そろそろ中をご案内します』と言ってきた。サトウキビ畑は高台北の比較的平らな土地に広がっており、南の斜面に沿って小屋がいくつか立ち並んでいる。農夫の集落なのだろう。


ウミトゥクが笑顔で『今年の絞りはもう終わった所ですから、出来立ての砂糖をお楽しみいただけます』と言った。サトウキビは春植え栽培と夏植え栽培があり今回終わったのは昨年夏に植えた分の搾汁だそうだ。絞った汁を蒸留器で煮詰め水分を飛ばし不純物を取り除いたのが砂糖になり、不純物の残留度合いにより黒糖、白糖になるのだそうだ。蒸留器は小田原の泡盛屋にあったのと同じ物だった。きっと先エ門さんが融通したのだろう。


八丈島で採れる八丈草の茶に砂糖を入れて頂く。八丈草は匂いが少々きついが砂糖を入れると円やかな飲み心地になる。非常に美味だ。次いで俺が大豆コーヒーを手ずから淹れやはり砂糖を入れて飲む。コーヒーはブラック派の俺だが出来立ての砂糖を入れてると思うと甘いコーヒーも良いなと思った。最後にもう一度、春植えが終わった所だと言うサトウキビ畑と青い海の景色を堪能し青ヶ島を後にした。

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