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幕間・コンスタンティニエの研究所

評価を付けて下さった方、有難うございます。

東ローマ帝国の首都として千年余りに渡って繁栄したコンスタンティノープルがオスマン帝国によって陥落したのは1453年のことである。以来、町はオスマン語でコンスタンティニエと呼ばれオスマン朝の首都として機能していく。


一方、シルクロードの大きな要だったコンスタンティノープルを失ったヨーロッパの国々はオスマン朝に香辛料など東方交易の実権を握られることを嫌い、大航海時代へと向かっていく。




これは、そんな歴史を大きく動かしたオスマン帝国の首都コンスタンティニエにある研究所のとある日の話である。


研究所の所長はタキ・アルジンという。オスマン帝国、いやイスラム世界でも稀有な大発明家であり天文台の創設者兼所長も務める大人物である。


彼は、イスラム教の重要な日課であるサラート(祈り)の時を告げるアザーンの時刻を正確に示す時計を作成するようよう時の大宰相から依頼され部下と共に時計の品質向上に明け暮れていた。


そんな部下の中に時計制作に不満を持つ者がいた。タキ・アルジンの一番弟子ともいうべき男で名をアブドゥル・ハサンというエジプト人だ。彼はアルジンの最古参の弟子でエジプトやダマスカスに居る頃から研究助手を務めてきた人物だ。


この議論というか言葉の応酬ももう何回目になるか分からない。


「師匠、いつまで時計の研究を続けるのですか?もう十二分の品質ではありませんか?天文台の為に開発した機器だって、既にティコ・ブラーエの物より品質は上なんです。そろそろ、切をつけ蒸気ポンプの研究を再開しましょうよ」


アルジンはやれやれといった感じで応ずる。


『そうは言っても、これは大宰相直々の依頼なのだ。より一層の品質向上を目指すのが当然ではないか!それに正確な時計は天体観測にも多いに寄与するのだぞ。何度言ったら分かるんだ!』


「時計の研究は他の弟子達でもできるでしょう?師匠が発明した蒸気ポンプは単なるポンプの域を超えた可能性を秘めているんです。例えば水車の代わりにあの蒸気機関を取り付けたら、水車を上回る威力の仕事をするのは確実なんです。なのに、何故、あれ程の物を放置するんですか?」


『ハサン、何度も言ってるが、蒸気を生み出すには木炭が必要だ。このオスマン帝国の領内で木炭を産している土地がどれほどある?大半が輸入なのだぞ。例え蒸気機関が凄い仕事するとしても、蒸気を作るコストがそれを上回っては何の意味もないし、支援者も現れないんだ。それくらい、子供でも分かる事だろ?』


「それはそうですが、私には師匠が大宰相達の政争の道具にされているようにしか見えないんですよ」


『馬鹿者!!滅多な事を言うもんじゃない!何処で誰が聞いてるか分からんのだぞ。そんな、物騒な事をこれ以上言うなら破門するぞ!!』


「分かりました。私は師匠と違ってまだ若いんです。このままコンスタンティニエでいつまでも燻っていたくありません。破門で結構です。いえ、こちらから辞めさせて頂きます」


ハサンは最早これまでとばかり、半ば自棄になり研究所を出た。とはいえ、師匠の言う事に一理あるのは分かっていた。オスマン帝国では木炭は高級品なのだ。自分の研究を続けるには木炭を産している国に移動するしかない。だが、ヨーロッパはオスマン帝国の敵国でありうっかり入り込めばどんな目に合わされるか分からない。「やはりインドか・・」


オスマン帝国の木炭の輸入元はインドが圧倒的に多かったのだ。ただ、そんな遠くの国に向かうのなら一度、故郷エジプトに戻り親戚に挨拶をしておくことにした。


コンスタンティニエからエジプトのアレキサンドリアまでは船で数日の距離である。だが、今はヨーロッパとの戦局が流動的で民間人が乗る客船は全て運休している。ハサンは止む無く荷物を纏め陸路でエジプトを目指すことにした。


コンスタンティニエからアナトリア半島中央部のカイセリを通りアレッポ、ダマスカス、エルサレムを経てカイロに至る。二か月は掛かる旅程だ。


今迄、タキ・アルジンという大物としか旅をしてこなかったハサンにとって初めての一人旅だ。金を払って隊商に混ぜてもらったりしながら、漸くダマスカスに到着した。ここで、ハサンは古い知人と再会した。話してみると、その知人はダマスカスからカイロに向かう隊商の人間で昔の縁で格安でカイロまで馬車に載せてくれると言う。ハサンはこの話に飛びついた。


知人の隊商はダマスカスを出るとエルサムレムを経由し順調に進んで行く。ハサンは安心しきっていた。だが、シナイ半島を通って陸路でカイロまで到達できるはずなのに、とある日、港町に出た。この町はアカバといい、ここから馬車毎船に乗り対岸のエジプト側に渡るのだと言う。


何故、そんなルートを取るのかわからないハサンだったが、既に船の甲板には多くの馬車が乗っており、隊商に任せる事にした。


この船こそが、海賊が運営する奴隷船であり、ハサンは船に乗った途端、身ぐるみはがされ船倉の牢のような雑居部屋に押し込められた。


その後、奴隷商人達によりハサンは売買され、最終的にマリンディに買われ、スワ王国に解放されるまで奴隷労働を強いられるのである。

ハサンの旅ルート

挿絵(By みてみん)

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