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転機

その知らせがモンバサに入ったのは、1594年の初頭の事だった。2年前に千名にも及ぶ日本人を迎え入れて以降、日本人奴隷の新たな来航は激減し、ここ1年ほどは全くなかったのだ。


この2年、藤堂高虎率いる築城部隊の活躍は目覚ましかった。領内に狼煙台と野獣からの避難所を兼ねた砦を各所に建設するとともに、砦間をつなぐように戦像を使って道の整備も行った。所謂象道であるが、”トノ”の日本時代の先代が施設した”信玄の棒道”を彷彿させるものがある。


またモンバサからも近いキリマンジャロの麓の過ごしやすい野営地”タカト”(高遠)はスワ王国の首都として正式に遷都され街作りが行われ、諏訪大社も造営された。この新首都”タカト”と南部のカミ、テテがスワ王国の主要都市となる。最南部は農耕主体のバントゥー人、半遊牧民のサン人、コイコイ人が暮らしているが、大きな金山が発見されると鉱山街(現代のヨハネスブルグ付近)が形成された。


こうして、町、砦、交通網の整備が進んでいた中での急報である。その内容は、




『全ての日本人奴隷を日本に帰還させよ』




モンバサのスルタン(王)・ユースフを介して伝えられたポルトガルからの通達にスワ王国は激しく動揺した。


1588年にテテで蜂起して以来6年、アフリカ大陸の南半分程を実質的に支配下に置くまでに成長したスワ王国であるが、中心にいるのは日本の武将である。武将でない日本人も日本語指南役や和弓職人など要職に多くの者が付いている。現在、国内にいる日本人は凡そ6千人程。大部分は元々テテにいた日本人奴隷だが、2年前にモンバサに来た者もいる。女性もおりアフリカで日本人同士結婚し子をなした夫婦もいる。


スワ王国始まって以来の大評定が開かれた。


王都”タカト”には”トノ”諏訪勝頼、”タロ”武田信勝を始め、


”ゴロ”明智十五郎光慶、”サカ”酒井氏武、 ”ウン”森蘭丸、”ドイス”森棒丸、”トレス”森力丸、”カツ”尼子勝久、”シカ”山中鹿介、”マツ”松平信康、”モリ”仁科盛信、”ダイ”小山田大学助、”マサ”小山田昌成、”タツ”諏訪頼辰、 ”スエ”陶長房、”サダ”陶貞明、”ツル”陶鶴寿丸、”ノガ”野上房忠、高橋紹運、加藤嘉明、脇坂安治、菅達長、来島通総、小浜景隆、向井正綱、熊谷元直、益田元祥、三沢為虎、羽柴秀勝、福島正則、金森可重、藤堂高虎、計30名の大評定である。大賢者”イデ”こと明智光秀は高齢の為欠席だ。


”トノ”諏訪勝頼ら旧武田家の者と、大賢者”イデ”明智光秀ら旧織田家の者は事前に話し合い”帰国しない”という意思の一致は出来ている。ただ、多くの武将が帰国を希望した場合はスワ王国を彼らだけで維持するのは難しくなるだろう。


評定は大賢者”イデ”の嫡男”ゴロ” 明智十五郎光慶が中心となって始まる。


”ゴロ” 明智光慶『ポルトガルが全日本人奴隷を日本に帰還させるよう言ってきた』


事前に知らされていなかった武将達からどよめきが起こる。


其々、一族内で話し合いが始まった。本来、評定でこんなことは許されていないのだが、事が事だけに今回は黙認された。


やがて、藤堂高虎が発言する。


『その話、誠でしょうか?水軍衆がポルトガル船相手に大分暴れたと聞いております。ポルトガルは日本人を集め殺害する気では?』


水軍衆の長・加藤嘉明が直ぐに反応する。


『我らは日本人と知られないように十二分に工作して襲っていた。奴らは日本人がアフリカでこんな大きな国を作ってるなど知らない筈だ』


テテの実質的領主である”ウン”森蘭丸も頷きながら


『テテでも奴らは未だ日本人始めアジア人は奴隷だと信じています。たまに、ザンベジ川の上流に忍び込む奴らがいますが、全て忍びが始末しています』


次いでやはり水軍の脇坂安治が


『そもそも、ポルトガルなどという国は10年以上前に滅んでいるそうだ。我らをアフリカまで連れて来た、あの連中は本当はどこの誰かもわかったもんじゃねぇ。正体の分からない連中の言う事なんざ信用できねぇよ』


ンドンゴ王国の軍師を務める”ノガ”野上房忠が続く


『脇坂殿の話は事実です。ノストラダムスというコンゴにいたフランス人から聞きました。彼によるとアジアで活動していたのはポルトガルの支援を得ていたイエズス会。こいつらは伴天連の中の一宗派のようなものだそうです。仏教で言えば、法華宗とか浄土宗とかそんな存在です』


『じゃあ、ポルトガルという後ろ盾を失ったイエズス会は今や貿易で食いつないでる流浪の民。って事ですかね?』松平信康が誰に問うともなく呟く。


”ノガ”野上房忠は


『そうかもしれない。ただ、ポルトガルは隣のエスパーニャという国に併合されたそうだ。今はそのエスパーニャがイエズス会の後ろ盾になってるのかもしれん』


『いずれにしても、イエズス会ってのは宗教なのか商人なのかよくわからん怪しい奴らという所は変わらんけどな』”スエ”陶長房がそう言った。


”ゴロ” 明智光慶が纏めに入る。


『皆も落ち着いてきたようだし、そろそろ決を採りたいがどうだ?ポルトガルいやイエズス会を信用し彼らの意に従う者はいるか?』


答える者は誰もいなかった。


『高橋は如何する?』問うたのは”タロ”武田信勝だ。


高橋紹運は主家・大友家に殉じて討ち死にしようとした所を、家臣によって半ば強引に生きさせられアフリカまで落ち延びて来た身である。


『某がここまで来る間、身を挺して守ってくれた家臣たちの事を思うと、何の力も付けずおめおめと日ノ本に帰る気にはなれません。それに人間は平等などと説きながら、他国の人間を奴隷にしているイエズス会を信用できません。某も皆様同様、これまで通りスワ王国の末席に加えていただければと思います』


洗礼名メルシオルを持つキリシタン武将でもある熊谷元直も発言する。


『高橋殿の申される通りにございます。デウスの元で人間は平等などと説いておいて、ここまでたどり着くまで見て来たイエズス会の奴隷商人のような行動。とんだ詐欺師集団です』


これらの声を聞き、”タロ”武田信勝は改めて発言した。


『皆がスワ王国に留まってくれるとの意思を示してくれた事、誠に嬉しく思う。我らが将来日ノ本に戻るとしても、我ら自身の力で戻るべきと思う。今の我がスワ王国の勢いがあれば早晩アフリカの地を統一し、エスパーニャと敵対しているフランスやイングラテッラと結びイエズス会など滅ぼす事も可能であろう。また、東方でも艦隊を率いてゴアや澳門まで進軍することも可能となろう。アンゴラの西にはブラジルなる新たな土地もあると言う。日ノ本より遥かに大きな大地を束ね文字通り天下布武を果たし堂々日ノ本に帰還しようではないか!!』


『『おおぉ!!』』武将達は盛大に応じた。


実は”トノ”諏訪勝頼には嫡男にこんな発言をさせる程の自信があった。


武田家が滅ぼされたのは織田信長によってである。だが、その信長は既に死に後継の天下人となった羽柴秀吉という者も死んだ。しかも、羽柴を仕留めたのは北条であるという。つまり現在の日ノ本の天下人は北条の可能性が高いのだ。そして、武田は北条とは互角に渡り合っていた。日ノ本が北条の世であれば、取って代わる事も可能だと思っているのだ。


『すり寄って来たり、敵対したり、優柔不断なあの北条氏政なぞ、物の数ではないわ』勝頼は心中に笑みを浮かべ北条が治める日ノ本を思い浮かべ嘲った。




”ゴロ” 明智光慶は場を鎮めるように発言する。


『さて、新たな日本人がアフリカに来ることはもう無いだろう。つまり、ポルトガル、いやイエズス会に我が国の存在を隠し続ける必要はもうないという事だ。ついては軍を再編しようと思う。


1ブラジルを攻略する西方水軍


2アフリカを北上する北方陸軍


3アフリカ東海岸からイエズス会を追い払う東方陸水軍


また、エスパーニャ、イングラテッラ、フランスと接触するには我ら日本人やピグミー忍びでは肌の色が目立ちすぎる。スワヒリ商人からこれらの国に潜入しても目立たない奴隷を購入する事にする』


『『おぉ!!』』武将達は再び歓声を挙げた。


”ゴロ” 明智光慶は続けて、


『日本人の領民達には此度のイエズス会からの怪しげな通達は知らせないが良と考えるが、皆の意見は如何がだろうか?』


高橋紹運が真っ先に発言する。


『領民がイエズス会に騙され酷い目に合わされるかもしれませんからな。領民だけ船に載せたらそれこそ誰も守ってやれません』


一同も同意するように頷いた。


最後に”トノ”諏訪勝頼が場を締めるよう発言した。


『軍の再編について皆に希望があれば別途聞くこととする。アフリカ、ブラジルを統一し、フランスらと交易し、東方に向かい、小さき北条めが治める、小さき日ノ本に堂々と帰ろう!』

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― 新着の感想 ―
[一言] 領土が大きくなって気も大きくなっちゃったか…… みんなを逃がしてくれた忍者達を率いているのがその北条家にいたりするんだよね……
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