アンゴラ調略・インバンガラ
マサンガノ砦は水を抜いて乾かせばそのまま使えたので、今後はンドンゴ王国側の砦としてインバンガラ制圧の拠点として使用することになった。
既にピグミー忍びの手でインバンガラの主な拠点、活動範囲や彼らの残虐非道ぶりが王都カバサに伝わっていたので、瞬く間に1万を超える討伐軍が組織された。中には堤防造りで功績のあった元貧民もいる。貧民の中にはインバンガラの脅威に曝されてきた者が大勢いるのだ。
ンドンゴ王国軍は隊を5つに分けた。
第1部隊:総大将ンゴラ(王)・ンジンガ、軍師”スエ” 陶長房、槍兵900、弓兵1000、”スエ”の指導で戦象に乗れるようになった戦像兵100。ピグミー忍び3名が斥候・道案内役
第2部隊:大将”ツル” 陶鶴寿丸、槍兵900、弓兵1000、戦象兵50。ピグミー忍び3名が斥候・道案内役
第3部隊:大将”ノガ” 野上房忠、槍兵900、弓兵1000、戦象兵50。ピグミー忍び3名が斥候・道案内役
第4部隊:大将”コガ”衆の”クロ” 黒川、槍兵900、弓兵1000、戦象兵50。ピグミー忍び3名が斥候・道案内役
第5部隊:大将”コガ衆の”トン” 頓宮、槍兵900、弓兵1000、戦象兵50。ピグミー忍び3名が斥候・道案内役
全部隊、ほぼ同じ兵種構成だ。これは、インバンガラが民間人の襲撃を主としており、軍隊としての組織だった統率は取れていないという情報からきている。
ンドンゴ兵を怒りに駆り立てたインバンガラの残虐非道ぶりは大凡次の通りである。
・魔術を実践した恐ろしい人食い人種である。血の欲望、利己主義、そして貪欲に捧げられた準宗教的なカルト集団。
・彼らはひどい戦闘中毒であり、いつでも移動ができるように、彼らのキャンプで生まれた乳児を生き埋めにし殺した。
・インバンガラは、略奪し殺戮した村の子供たちを戦士になるように訓練することによって、数を維持している。
インバンガラの戦闘スタイルは、
・収穫時期の集落に現れ、付近に大規模な野営地を作る。
・彼らは集落に彼らと戦うか、収穫前の畑を放棄して撤退することを強要する。
・相手が戦闘や食糧不足によって弱体化すると、問答無用に攻撃し住民を捕え、大人の男はポルトガルに奴隷として売ったり、酷い時には食人まで侵す。女は慰み者になり、ある程度の年齢の子供は前述のように戦士として訓練する。
そして現在、彼らが構えている野営地は5つ。脅されている集落にはピグミー忍びが入り込み、間もなく救援軍が来るからインバンガラを野営地に留めるよう説得させている。
インバンガラが縄張りとしているクアンザ川南には大きな河川もなく、移動は徒歩である。森があれば戦象が切り開き、草原に出れば象に遅れるなとばかり全軍で疾駆し各隊とも早々に野営地付近まで到達した。彼らの強行軍を支えたのは戦象に大量に乗せたマニオク(キャッサバ)である。
第1部隊
戦象の後部に乗せられ安全の為縄で腰を象と固定された総大将ンゴラ(王)・ンジンガは、軍師”スエ”の助言どおり夜間に野営地を包囲し弓兵主体で夜襲を駆ける事にした。インバンガラが千人程いるこの野営地は5つの中で最大規模であり、ここを落とせば、戦況は大きくンドンゴ王国に有利に傾くだろうと思われた。
集落では村長が脅しに来たインバンガラに、『畑の収穫まで行い全て献上するので作物が熟すまで一週間待って欲しい』と伝え、マサンガノ砦から接収したワインを献上したり、野営地のテント設営を手伝ったりと散々インバンガラに媚びを売り時間稼ぎをしていた。女を差し出せと要求されたので止む無く妻を差し出した者も多くいた。
野営地の女達は夜襲をピグミー忍びから知らされており、飲みなれないワインで大いに酔ったインバンガラの男達を焦らし、体を舐めさせた。彼女達の体にはアフリカ眠り病の毒液が塗られており、自分自身も眠り病にかかる危険を冒しながら、気丈にインバンガラの男達を罠にはめて行った。
やがて、ンゴラ(王)・ンジンガの命を受けた”スエ”の号令のもと、一斉に野営地に火矢が射かけられた。野営地のテントの屋根は藁だが集落の者により避蚊液と称した油が塗り込まれており非常に燃えやすくなっていた。
ワインと毒薬で眠りこけたインバンガラは屋根が燃えても中々起きない。集落から来ていた女達も毒の影響を受けていたが、濡らした鰐革のシートをピグミー忍びから渡され互いに助け合いながら火矢の飛び交う中を野営地外に避難した。
ピグミー忍びから報告を受けた”スエ”が総大将ンゴラ(王)・ンジンガに言う。
「総大将、全ての準備が整いました」
ンゴラ(王)・ンジンガが号令を発する。
『戦象隊突撃せよ!槍隊はテントからはい出してきたインバンガラを狙え!皆殺しにせよ。ネ・ギ・リ始め!』
全ての荷を下ろし兵だけを乗せた100頭の戦象が突進していく。既に大半のテントは燃え落ちているがそこに戦象が踏みつぶしにかかる。ワインと毒液を受けインバンガラ達は日頃の残虐さを発揮する間もなく次々と踏み殺されていく。やがて、追い付いてきた900の槍兵が、生き残りのインバンガラを求めて野営地内を歩き回る。テントだった藁についた火はまだ各所に灯っているから探すのは苦にならない。獲物を求める肉食獣のような彼らに見つかったインバンガラの生き残りはディアマンテの先端を付けた槍で串刺しにされていった。こうして、インバンガラ最大野営地は全滅した。
第2部隊
”ツル”陶鶴寿丸を大将とする第2部隊は、インバンガラの野営地となっている洞窟を見下ろしていた。洞窟に籠られては戦象の突進は使えない。おびき出すか、或いは。この野営地にもワインと女があてがわれていたが、女は日中はインバンガラの食事を作る為として集落に戻っていた。ピグミー忍びによって集落に持ち込まれたマニオク(キャッサバ)を主体とした彼女達の料理はそれほどまでに美味だったのだ。やがて、女達が洞窟を後にしたのを確認した”ツル”は告げる。
「岩を落とせ」
この辺りは崖地で大岩などそこら中にあったのだ。戦象によって洞窟上に集められた大岩が次々と落とされていく。インバンガラの窒息死を狙った作戦である。
ここでは眠り病の毒液は使用していないが、夜通しワインと女を楽しんだインバンガラ達はよく眠っており洞窟からはい出した者は中々出ない。出てきたら岩陰に潜んだ弓兵が射抜く手筈なのだが。
結局、洞窟の入り口がほぼ埋まる直前、数名のインバンガラがはい出してきただけだった。それらは勿論、弓兵に射殺された。
やがて、洞窟は完全に封鎖された。インバンガラが如何に体力があろうとこの大岩を削りはい出すには酸素がもたないだろう。因みにこの洞窟の奥には地底湖があり鰐、大蛇、大蜥蜴らが潜んでおり、湖底はクアンザ川の支流と繋がっている。インバンガラが出口を求めて奥に来たら、湖底に出るより先に彼らの餌食になるだろう。”ツル”は戦象数頭と弓兵数名でインバンガラの野営地一つ潰すことに成功したのだ。
第4部隊
”コガ”衆の”クロ” を大将とする第4部隊も洞窟を野営地とするインバンガラに直面していた。だが、第2部隊が対した洞窟と違い、この洞窟には細い筋状の空洞が何本か開いており、入り口を封鎖しても窒息死させることは無理だった。細い空洞は人間が通れるサイズではないので閉じ込める事は可能だが、閉じ込めて餓死させるとなると相当に時間がかかる。何しろ食人も厭わない連中なのだ。追い詰められたら共食いを始めるかもしれない。
その時、ピグミー忍びから報告が入った。
『軍隊アリの大軍が近づいてきています』
軍隊アリに襲われたら例え象でも危ないという程の危険生物である。人間に撃退する手段はない。連中の進路から外れるよう避難するのが精いっぱいだ。
だが、”クロ”はこれを好機と捕らえた。軍隊アリは獲物とりわけ弱った動物や血に敏感なのだ。アリに臭覚があるかは不明だがとにかく血は軍隊アリを呼び寄せるのである。
”クロ”はピグミー忍びに相談する。
「動物の血を垂らして、軍隊アリを奴らの洞窟まで誘導出来ないか?」
「軍隊アリが近づいてきたら、あらかじめ捕まえておいたインパラの喉を切って出血させ洞窟に放り込む」
ピグミー忍びは暫く考えた後答えた。
『わかりました。やってみます。皆さんは避難してください』
小動物の血を撒いて誘導するのも、洞窟にインパラを投げ入れるのもピグミー忍びの役目である。俊敏な彼らも無傷では済まないだろう。
だが、一般兵や象が近くにいたら完全に巻き添えになってしまう。軍隊アリは進路上の動く者には何にだって襲い掛かるのだ。
”クロ”はおよそ2千の兵を安全な場所まで避難させた。あの洞窟にいるインバンガラは200を下るまい。軍隊アリが入ってしまえば日頃奴らがやっているような凄惨な地獄絵図が展開される事だろう。
予め象がひき殺したインパラ3頭をピグミー忍びに渡してある。同時に洞窟入り口が見える200メートル程離れた大木の樹上に弓兵4名を配置した。洞窟から逃げ出してきたインバンガラに止めをさすためだ。距離200メートルからの弓での射撃。アフリカンの強靭な背筋力と和弓の威力が合わさって初めて可能となる長距離射撃だ。後は彼らの仕事の結果を待つだけだ。
待つ事凡そ一日、ピグミー忍びが帰って来た。皆、あちこち噛まれたらしく痛々しい有様だ。彼らによると、巧みに血を撒きつつ洞窟まで軍隊アリを誘導、インパラの喉を切って血を出させ投げ込もうとしたところで、洞窟から出て来たインバンガラ達と遭遇、戦闘になったという。最初に出て来たインバンガラ数名は素早く後ろに回り頸動脈を刺し仕留めたが、騒ぎを聞きつけ更に洞窟から仲間が出てきてしまったそうだ。拙い事に仕留めたインバンガラの返り血も浴びてしまっている。そこに軍隊アリが到着、インバンガラの死体もインパラも洞窟の中のインバンガラも、そして血を浴びた自分達も全て飲み込む様に襲われたと言う。
ピグミー忍びは持ち前の俊敏さで素早く洞窟を出たが返り血を浴びてる以上軍隊アリからは逃げられない。結局、あちこち噛まれたまま付近の沼に飛び込み水中に身を隠してなんとかやり過ごしたそうだ。
『沼に鰐や河馬がいなかったのはスワ大明神のご加護です』
とピグミー忍び3名は気丈に笑った。
翌日、樹上に配備した弓兵4名も帰って来た。幸い彼らは無傷で時折洞窟から逃げ出てくるインバンガラを射撃、軍隊アリの餌食にしていったという。軍隊アリの狩は夜間から夜明けが多いが日差しが届かない洞窟内では昼夜を問わず行われたようだ。
『一日見張っても誰も出てこなかったので、全滅と判断し戻ってきました』
と言った。
インバンガラを全滅させた軍隊アリは何処に向かうのか?ピグミー忍びを斥候に出したいところだが、傷ついた彼らには無理である。”クロ”はインバンガラに脅されていた集落に向かう可能性もあると考え、警告の伝令を出した。地元民も軍隊アリの怖さは良く知っている。事前に警告を受けていれば進路を見極め集落を通ると分かれば自主避難するだろう。
インバンガラの全滅を目視で確認できないのは気がかりだが、軍隊アリに襲われて無傷の者などいない。例え命があったとしても、今後は狩られる側になることは間違いない。”クロ”は一旦2千の兵を帰還させる事にした。
第3、第5部隊はインバンガラに酷い目に合わされた元貧民が多くいたのと、敵の野営地が草原だったため、力攻めで攻略、生き残り命乞いするインバンガラの残党に共食いを強要。最後まで生き残った10名を裸にし木に逆さ磔にして、被害者全員で代わる代わる槍で刺し恨みを晴らして帰還した。
こうして、長年ンドンゴ王国を悩ませてきたインバンガラは全滅した。




