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マラヴィ王国

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”トレス”がコンゴのジャングルでピグミーと友誼を深めている頃、”ドイス”は配下の戦象兵50と共に友国・マラヴィ王国に赴任していた。参謀の”ゴロ”も随行している。”ゴロ”は大賢者”イデ”こと明智光秀の息子で日本名を明智十五郎 光慶という。”ゴロ”は五郎から来た通称である。彼もまた父に似て大変聡明な知将である。護衛は”コガ”3名が付いている。


現在、マラヴィ王国は領土の海岸線にあるモザンビーク島を占拠しているポルトガルと緊張状態にあり、”ドイス”達は援軍兼軍事顧問として赴任しているのである。


元々、マラヴィ王国とモザンビーク島のポルトガルは象牙、鉄、奴隷を交易していた。ポルトガルからは農産物、ガラス玉他インド、中東の品々がもたらされていた。この友好的な関係に亀裂が入ったのは、ポルトガル船の船員がマラヴィ王国の女性を頻繁に暴行したことに始まる。中でも、マラヴィ側の交易拠点であるルンボの領主の第一夫人、第二夫人が暴行された事で事態は一気に悪化した。ルンボ領主の第一夫人はマラヴィのカロンガ(皇帝)の娘だったからだ。マラヴィ側は再三にわたり犯人の引き渡しと謝罪を要求したが、ポルトガル側は応じず、緊張状態ももう限界というところまで来ていた。


ルンボに到着した”ドイス”一行は早速領主と面会、詳細を聞きだした。尚、マラヴィ王国には日本語の学び舎は展開されていないので、会話はポルトガル語である。


”ゴロ”は領主の話を聞いて、早速問題点を掘り出していた。というのも今までの交渉は全てモザンビーク島で行われていたというのである。これでは、交渉決裂の際、最悪マラヴィ側の交渉団が危険に晒されることになり、どうしても弱腰になってしまう。何とかルンボで交渉の場を設けられないだろうか?だが領主は


『交渉を要求しているのはこちらなので、どうしても、我らが出向く形になってしまうのです』


と悔しさを隠せない表情で答えた。


ここで”ゴロ”は口を開く。


『では、向こうから交渉に来てもらうようにしましょう。手始めに明日から象牙、鉄、奴隷の供出を全て停止します。ポルトガルとの交易がなくなってもスワヒリ商人との交易を再開すればマラヴィ側には損はないでしょう』


実はスワ王国北東攻略部隊は、既にインド洋海岸線まで達し、スワヒリ商人の拠点の島モンバサと交易を開始していたのである。


海路をポルトガルに抑えられていても陸路でマラヴィ領内までスワヒリ商人に来てもらう事は不可能ではないのだ。


『交易が出来なくなって困るのはポルトガルも同じです。いや、ポルトガルはスワヒリ商人と仲が悪いそうですから、彼らを通して交易すれば物価があがり大打撃を被るでしょう』


アフリカは豊かな大地である。その為かアフリカンはおっとりとした牧歌的な一面があり狡猾な商人のような人はあまりいない。ルンボ領主も”ゴロ”の話を半分も理解できたかどうか?である。だが、交易を止めて圧倒的に困るのはポルトガルだということは理解したようだ。


『では、明日から港を閉鎖しましょう』


マラヴィがポルトガルから得ているトウモロコシは美味だが、手に入らなくても既に栽培をしている農家が国内にいる上、いざとなれば従来の主食だったモロコシを食べれば何とかなるのだ。食でマラヴィ側が干上がる心配はない。またビーズなどガラス品も嗜好品でありスワ王国でも作成し始めているので、国が傾くほどの被害にはならない。対して、ポルトガルはアフリカで仕入れた象牙や鉄をインドやアジアで交易に使用し香辛料などを手にいれている。また、奴隷は広大なブラジルの労働力に欠かせないものだったのだ。




ルンボ港。ここではアフリカン始めアジア人奴隷など様々な人が働いている。


”コウガ”にとっては非常に仕事がしやすい環境だった。今回”ドイス”の護衛に付いているのは伴一族だ。”ドイス”の護衛に”タロザ”こと伴太郎左衛門ともたろうざえもんを残し、”ショウ”こと伴正林ともしょうりんと”ナガ”こと伴長信ともながのぶの2人が港に紛れ込んでいた。


今朝早くに突如告げられた港閉鎖命令にポルトガル人は大混乱だ。尊大に偉ぶる者、脅し声をあげる者、普段は比較的温厚なポルトガル人が大声で叫んでいる。


しかし、いくら怒っても港にはマラヴィの役人がいるだけで、象牙も鉄もどこにもない。後はポルトガルが使役しているアジア人奴隷がいるだけである。


やがて、止む無く一度荷揚げ仕掛けた品々を小舟に積み直しモザンビーク島に引き返していった。”ショウ””ナガ”がアジア人奴隷として紛れ込んだのは言うまでもない。


さて、このモザンビーク島であるが、港は島西部にあり、北の端にサン・セバスティアン砦がある。要は敵が来るとしたらスワヒリ商人やオスマン朝ら北からであり、大陸側からの侵攻など全く想定されていない事が分かる。


”ショウ”と”ナガ”は他のアジア人奴隷と共に品物を小舟から大型船に詰め替えていく。やがて、2人とも大型船内に姿を消した。


彼らの獲物はズバリ食料とワインである。モザンビーク島は農産業の島ではない。勿論、島にも備蓄はあるが、それは住んでいるポルトガル住民の物であり、船の食料は交易で手に入れるしかないのだ。鼻が利く”ナガ”はたちまち船倉の穀物庫を発見し荷袋を切り開くと持ち込んだ鼠数匹を放った。これで鼠算式に増えた鼠が穀物を食い尽くすか汚染して回る筈だ。一方、力自慢のショウ”はヴィーノ(ワイン)蔵を見つけると、次々と樽の栓を抜き押し倒し中身を床にぶちまけてしまった。結構な騒ぎを起こした筈だが港封鎖の影響で皆大忙しなせいか見つかることはなかった。こうして、”ナガ”と”ショウ”は大型船の船倉で次々と仕事をしていった。最後は夜間に島内の蔵にも鼠を放ち、ワインボトルをケースでいくつか港に運び中身は海に捨て、空き瓶だけを港に放置した。


これで、直に島民と船員の揉め事が起こる事だろう。




それから、一週間ほど経った頃、モザンビーク島総督はじめ島に停泊中の船長全員が従者を伴いルンボ領主館を訪れていた。交渉の為である。


館の周囲は50頭の戦象兵を始めマラヴィ王国の兵が警護・・している。


因みに領主館といってもポルトガル人が作るような石造りではない。通気性のよい、木壁にヤシの葉を敷いた屋根の大きいが素朴な館である。


彼ら交渉団の話はこうだ。


『女性を襲った犯人達は全員引き渡す。賠償も望みの物品で支払う。だから、食料と酒を売って欲しい』


象牙や鉄、奴隷でなく食料と酒である。”ナガ”と”ショウ”が船だけでなく島の蔵にも手を付けたので食料が足りなくなったのだろう。これに、ルンボ領主は呆れ気味に応じる。


『食料と仰るが、我らにあるのは貴国から買ったトウモロコシですぞ。酒もトウモロコシを発酵させたのしかありません。あなた方はトウモロコシを食べないんじゃなかったですかな?』


実際、ポルトガル人はトウモロコシを土人や家畜の餌とみなしており自分達では食べていなかったのだ。


モザンビーク島総督は苦渋をにじませた顔で答える。


『確かに我々は普段はトウモロコシは食べません。が、今は非常事態なのです。島や船の食料が足りなくなりまして、補給船が次に来るまでまだしばらく掛かります。魚と水だけはなんとか確保できますが、それだけでは持ちません。どうか、トウモロコシを譲ってください。トウモロコシ酒もお願いします』


ルンボ領主は内心の笑みを抑え憐れみの表情で答えた。


『そうまで言われるならお譲りしますが、トウモロコシも酒も数に限りがあります。犯人の引き渡しは勿論、それ相応の物を頂かなければ住民も納得しないでしょう。そうですな、賠償は金1000kg、ビーズ1000kgは最低でも頂きたい。皆の者、他には何かあるか?』


周囲のマラヴィ王国役人に尋ねる。すると、役人の一人が進み出て言った。


『我が国は南方の国と戦争状態にあります。ポルトガルの大砲10門、弾10万個、火薬10万kgは貰うべきと思います』


金1000kg、ビーズ1000kgと聞いて肝を冷やしていたモザンビーク島総督はその上大砲10門に大量の弾火薬と聞いて危うく失神するところだった。


『お待ちください。大砲10門も譲ったら島を守る術が無くなってしまいます。それに、弾10万発、火薬10万kgなぞ島にもそんなに大量にありません』


だが、役人は譲らない。


『島になくても、船に搭載している物を集めればそれくらい用意できるのではありませんか?』


土人の役人風情が!!船長たちは頭に血が上って倒れそうだ。一番冷静な船長が怒りを抑えて答える。


『船に積んである武器は航海中の身を守る為の物です。全部供出してしまったら航海できなくなってしまいます』


『では、食糧不足でも航海はできるのですか?』


この土人役人、こんな時でなければとっくに殺してるわ!船長は額に青筋を浮かべそう思ったが、モザンビーク島総督が船長たちに声をかけてきた。


『一旦、我らで話し合おう』


そして、ルンダ領主に断りを入れる。


『この場で、船長たちと話し合いをしたいと思います。しばらくお時間を下さい』


『でしたら、向かいの部屋をお使いください』


ルンボ領主も快く応じた。


モザンビーク島側の話し合いが始まる。最初に総督が


『皆、其々の船から大砲1問と弾1万発、火薬1000kgずつ供出できんか?』


これに対して、船長全員が驚きの声をあげる。


『『『まさか、要求に応じるつもりですか』』』


総督は


『一旦応じるだけだ。食料さえ確保できれば、皆、ゴアやアンゴラに向かえるだろう。私がゴア、アンゴラの総督に手紙を書いて食料と艦隊を派遣して貰う。そもそも土人達に大砲が使いこなせるとは思えん。大砲の指導を要求して来たら、砲手は持ち場を離れられないから島に指導を受けに来るように言う。島に連れ込んでしまえばどうにでもなる。一旦、大砲を預け、後日、艦隊が来たら取り戻すのだ。我らに実害はないと思わんか?』


『『『成程、確かに土人共が大砲を扱える筈ありませんな』』』


船長達も一気に気が晴れたのか笑みを浮かべて応じた。


『ですが、我らは商船であって、軍艦ではありません。大砲1問ならともかく、弾1万発、火薬1000kgなど搭載していません』


その後、話し合いを続けたが、これからインドに向かう船はオスマン朝に備えて、そこそこの装備をしているが、ポルトガルに帰国予定の船は弾薬とも不足している事がわかった。結局、全船あわせて供出できるのは大砲5門、弾1万発、火薬3


000kgだった。島のサン・セバスティアン砦には予備の大砲3門があり、艦隊が来るまでなら弾3万発、火薬1万kgまでなら出せるだろうとなった。


合わせて、大砲8門、弾4万発、火薬1万3千kgである。


『ところで、金1000kg、ビーズ1000kgは用意できるのですか?』


船長の一人が問う。


『金はジャポニス土人からいくらでも手に入るから、一旦手放しても問題なかろうが、ビーズはどうだ?』


別の船長も心配する。


だが、総督は


『金もビーズもそれくらいなら備蓄はある。ここは交易の島だからな。それに一度預けるだけだ。艦隊が来たら取り戻せばよいのだ。心配はいらんよ』


『では、当座は大砲8門、弾4万発、火薬1万3千kgで何とか話をつけましょう。足りない分は増援が着次第払うということで』


『は、は、その増援は我らへの増援だがな』


『土人は耳が良いからその辺にしておけ!』総督の一言で話し合いは終わった。


ルンボ領主の元に戻った彼らは事情を説明し、


・女性暴行の犯人達の引き渡し


・賠償として、


金1000kg、ビーズ1000kg、大砲8門、弾4万発、火薬1万3千kgの即引き渡し。


・残りの大砲2門、弾6万発、火薬8万7千kgは増援が着次第支払う事を伝えた。


ルンボ側もこれを了承し


・トウモロコシ5千kg、トウモロコシ酒3千リットルの提供を約束した。


契約は直ぐに実行され、暴行犯15名が手足を縛られ移送されてきた。


被害者に面通しさせると間違いなく犯人とのことで即捕らえられ収監された。


また、食料酒と金ビーズ大砲弾火薬の交換もピストン輸送で行われた。




今回の交渉の表舞台に出ていた日本人は”ショウ”一人である。マラヴィ側の役人として大砲を要求したのが変装した彼だったのだ。他の者は背が小さくマラヴィ人に扮するのが難しく、また、日本人が暗躍していることをポルトガル人に知られたくなかったのである。ともあれ、スワ王国は念願の大筒を手にすることが出来た。


大筒の扱いは”サイカ”が熟知しているので問題ないし、なにしろ象が引くのだから陸戦でも充分に使用可能だ。


また、ポルトガル人が言った増援が、艦隊であることも彼らは知っていた。忍びの聞き耳などポルトガル人には人知の及ばない技術だったのだ。アンゴラからの艦隊はこれから冬を迎え荒波になるので来るまでに半年は掛かる。ゴアからの艦隊はオスマン朝に迎撃して貰うよう北東攻略軍に連絡を出し、トウモロコシ酒で祝杯をあげた。


実は”ドイス”ら三兄弟と”ショウ””ナガ”は日本時代からの旧知の仲である。本能寺で明智勢と共に戦った間柄なのである。本能寺から三兄弟を救い出し都を出た所で彼らと別れた。あの時点ではどこか安全地なのか分からなかったので、三兄弟には毛利領に向かってもらい、”ショウ””ナガ”の甲賀衆は一度里に戻ったのだ。そんな彼らが何の因果かアフリカの地で再開、しかも敵だった明智勢まで一緒に居るのだから人生万事塞翁が馬である。

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