1593年5月20日 帰還(佐倉城)2
次は俺が不在だった間の房総の状況だ。
最も驚かされたのは、安房の船大工である。
何とウオータージェット推進器の完全実用化に成功していた。俺達が航海に使用していたヨットについているウオータージェット推進器はあくまで非常時用でソナとソナオのおかげで結局出番はなかったが、新型は標準推進器として装備されている。構造はこうだ。
まず、双胴船の二つの船体の中央部をぶった切り、二隻縦列の胴体を二つ並べたような形になっている。つまり双胴船といいながら胴体は都合4つある事になる。そして各胴体の後部にウオータージェット推進器が取り付けてある。しかも旧型は人力による手押しポンプ式だったが、新型は各胴上に設置された風車による自動推進なのである。実はこの風車はダリウス風車といい現代では主には風力発電に使用されている垂直軸風車だ。この時代では元々、化学肥料製造の為に風車が必要になり、細工師、木工師らに構造を教え製造させた経緯がある。この風車群は巨大で目立つので安房の船大工の目にも止まったようだ。船に設置するので山頂にある風車とは比較にならない程小型だが、垂直軸風車の良い所は風向きに関係なく稼働する事にある。三枚の羽が60度の角度でらせん状に捻じれて回転する様は美しい。
しかも、この風車、ただ風が吹いただけでは起動しないのだ。回転軸の起動は人力で行う必要がある。一度起動してしまえばあとは風力で軸が回転する方向に力を加える仕組みである。つまりウオータージェット推進器を設置した本来の目的である無風時の人力航行にも対応しているのだ。無風時は人力で軸を回し続ければ同様の効果を得られるわけだからね。実際、どれ位効果があるかは風任せだが、従来は非常時以外は出番がなかった機能だから補助動力として機能してくれるだけで充分有難い。それに、非常用の道具というのは日常のメインテナンスが重要だ。普段、放置しておいていざ非常時に動かそうとしても動かないということは良くある。その意味でも普段から動かしてくれる風車式ウオータージェット推進装置は有難い存在だ。
それにこの船の形、子供の頃に観たアニメに出てくる宇宙戦艦に似ている。白く塗ったらいよいよ似てきそうだ。あの宇宙戦艦の仇名は”木馬”だったな。この船も木馬と命名しようか。
心配していた野分については、堤防の効果で房総では全く洪水被害が無かったそうだ。そして、その状況を知った、氏房さんと氏勝さんが自領でも堤防を作りたいと言い出したので、技術指導に三つ者施設部隊から何名か派遣したそうだ。残りの施設部隊は真田信繁の元に向かい、本州横断運河建設に加わってると言う。彼らが加わったお陰で工期が短縮できるかもしれないとの事だった。俺は彼らに文を出し、数名釜石に赴き相馬と中山が取り組んでいる高炉建設の技術サポートするよう命じた。
また、俺が不在中に密貿易船が木更津に来航したという。例によって硝石、家畜、農産品、奴隷を置いていったそうだが、凶によると、何やら澳門に神社が出来てるとか耳を疑う話があったという。は、は、伴天連洗脳作戦は順調なようだ。
もう一つの懸案だった北条札の大陸への浸透状況だが、南蛮の貿易船というか海賊が唯一略奪ではなく交易に使用する通貨なので海辺の領民を中心にかなり広まっているという。一部、大陸の裏社会の組織は偽札作りをしている模様だというからかなりの浸透ぶりだ。しかし、未だ北京の明国政府は気付いていないようなので、少々危険だが、今後は珠江を遡上して北条札の流通を図ってみると言っていたそうだ。
因みにこの北条札だが、金本位制でも銀本位制でもない。元々、北条領内で広まった、言ってみれば北条家本位制だったが、今は北条が幕府を開いているので、謂わば日ノ本本位制とでも言うべきか、何だか現代の通貨みたいな感じだ。
最も為替マーケットも無いし、レートは海賊の気分次第という恐ろしい相場だが。
最後に子供達だ。甲斐姫が八丈島で産んだ双子にラーニャとザワティが産んだ双子は1歳になり元気に走り回っている。更にラーニャとザワティが蝦夷で産んだ子供達3人に、つい3月に産まれたという甲斐姫のあらたな乳児、ラーニャとザワティの初代世話役だった金髪美女クメール美女達が産んだ俺の子供が13人。彼女達は全部で9人だから、内4人が双子を産んだことになる。双子は遺伝すると言われるが、こうまで双子が続くときっと俺も双子だったのだろう。いつどこで風魔に拾われたか最早誰も知らないそうだが、どこかで、俺そっくりの人が生きてるのかもしれない。
そんな訳で、今、城内には子供赤子が計23人。最早、城と言うより託児所である。




