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1592年10月15日 これが恋?

コシャマイン:かつてのアイヌの英雄コシャマインの子孫?

ヤウカイン:石狩川で攫われた少年。十三湊で保護され探索隊に同行している

アッチャシクル:ヤウカインの父

クネキラタ:ヤウカインと一緒に攫われた少年。所在不明。

ハウカセ:ウラユㇱナイコタンのコタンコㇿクㇽ(コタン長)

ウラユㇱナイコタンのコタンコㇿクㇽ・ハウカセは未だ独身だった。周囲の事情で16歳の若さでコタンコㇿクㇽになったので、恋などしている暇がなかったというのが正直なところだ。アイヌ人は恋愛結婚が基本なのである。


他地域の長と漁場の境界を決める為に丁々発止で話し合ったり、時には戦争寸前までいったこともあった。南のシャムクルは和人との交易が活発で鉄で武装しており厄介な交渉相手だった。それでもハウカセの頑張りで石狩川流域の漁場は維持され、今では彼の影響力は、西の山を越え海辺のマシュケまで及ぶようになった。


そんな仕事一筋の彼が、最近、変な気分になる事が増えだした。なにかソワソワして仕事が手に付かないとか。人と話していても上の空というか・・


「もしかして、これが恋ってやつ?」


自問自答しつつも気が付けば彼女の事を考えてしまう、交渉事には百戦錬磨な彼も恋路となると全くどうして良いか分からなかった。


そんな彼にいや彼の治めるコタンに自然の猛威が訪れた。和人の言う野分による川の氾濫である。普段であれば、天候が荒れた段階で厠を塞ぎ、重要な品だけ持って山に避難するよう指示するだけで良かった。後は水が引いた後に魚の大漁とコタンの再建をするだけで良い。が、今回は和人が逗留していたのだ。しかも身重の女が2人もいる。アイヌの女も1人身重で計3人を介助して避難しなければならなかった。彼は念のため部下一人と和人達に付き添い避難を手伝っていた。


当初は丘部分にあるチャシ(城)で凌ごうと考えていたのだが、身重の女性がいるので念のため、もう少し西の高台を目指す事にした。強風と豪雨の中の行進である。事件はその避難の途中で起きた。足利氏姫が『忘れ物をした!』と叫んでチセに戻ろうとしたのである。


流石に今から戻っては危険だと説得したのだが、”家宝の扇子”だから流される訳にはいかないと言ってきかない。ついには彼女の従者と戻ろうとしたのでそれを制し、ハウカセが彼女に同行することにした。というのも彼であればいざとなれば筏を出して水を凌ぐこともできる。


やがて氏姫はチセにたどり着き扇子を探し始めた。だが、なかなか見つからない。家宝だから大事にしていたのが仇となったようだ。だが、扇子とやらの形も知らないハウカセは、心配しながらも水の状況に確認する。氾濫は一度たどり着いたらあっという間に水浸しになって逃げる事は叶わない。既に筏と櫂をチセの前に持って来てあるが・・・


ようやく氏姫が『見つかりました』と言ってきた。まだ水は来ていない。ハウカセは今なら走って皆に追いつけるかもしれないと判断し、筏は捨てて2人で走り始めた。


だが、気が付けば途中で足元に水が来ていた。もう皆に追いつくのは無理だ。


仕方ないので南にある晩生内(おそきない)チャシに向かう。そこは小さな丘に築いたチャシで周囲に堀もあるので多少は水を防げるだろう。


ハウカセは氏姫の手を引き、漸くチャシにたどり着いた。既に水は彼の膝上まで来ている。氏姫は腰まで浸かってしまい動くのも大変そうだ。


道を登りチャシの中に入る。ここは定期的に手入れをしているが、幸か不幸かハウカセの代になってからは戦は起きていないので暫く使われていない。せめて濡れた服を乾かしたいところだが、油はあるものの火種がない。蝦夷では布は高級品なので雑巾などもない。唯一水を拭える物としては木の外皮を薄く剥がした皮布だ。


時刻は夕刻を過ぎ辺りは暗くなってきた。


外は相変わらずの風と豪雨だ。いつ水がここまでくるかわからない。しかも、木の皮布だけでは体は吹ききれない。暗い中梯子を登りチャシの最上階に移動し、どちらからともなく頷き合った。最早互いの体温で互いを温めるしかないのだ。


2人は濡れた服を脱ぎ捨て互いに抱き合い。冷えた体を少しでも温める為闇夜の中体を動かしあった。


翌朝、明るくなった外を見ると風も雨も収まり水も引き始めている。


『『助かった』』


と声を揃えた途端に二人とも昨夜何をしていたか、思い出した。


男女が抱き合って夜通し体を動かし続けていたら、それはどんな運動か?最早言うまでもないだろう。


ハウカセは顔を赤くしながら氏姫に告げた。


『君と会って以来、いつも君のことを考えてたり思い描いていた。君がいつか去ってしまうと考えると、どうしようもない程不安になった。俺は君が好きだ。君なしの人生なんてもう考えられないんだ。どうかずっと一緒に居て欲しい』


氏姫も照れながらも持ち前の明るさで答えた。


『あたしも、ハウカセさんの優しさと頼もしさに憧れてたわ。地元では名門の御姫様で人形のような扱われ方ばっかりだったから、初めて一人の女としてあたしを見てくれる人がハウカセさんでとても嬉しいわ。


本当はね、チセで扇子見つからなかったの。一通り調べて直ぐにここにはないと確信したわ。きっと、雨竜川で落としたんでしょうね。


でも、ハウカセさんと二人で過ごす時間が愛おしくてなかなか言い出せなくて、あんなに遅くまでチセで過ごしちゃった。もっと早く言ってたら皆と合流できたかもしれなかったのに。我儘でごめんなさいね。』


そう聞いて、ハウカセはもう我慢できなかった。


『君の我儘のお陰でとても素敵な夜を過ごすことができた。謝る必要なんてないよ。どうかこれからもずっと一緒に・つ、つまり、結婚して欲しい』


そう言って氏姫の額に口づけした。


氏姫もハウカセの頬に口づけを返してくる。


『ありがとう。あたしもあなたと結婚したい。でも、和人との結婚なんてアイヌの皆は許してくれるの?』


少なくとも、アイヌと和人の結婚はこの時代では聞いたことがない話だった。公になれば、どこでどんな騒ぎが起きるか分からない。


しかし、ハウカセは決意を込めて言う。


『心配ないよ。もし、どうしても皆が聞き届けてくれないなら、私もコタンコㇿクㇽの地位を、いやアイヌ人であることを捨てよう』

本話を書いてて自分には恋愛小説は無理だと痛感しました。最後は大好きだったアニメからの引用だし

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