1592年8月28日 ハウカセ
コシャマイン:かつてのアイヌの英雄コシャマインの子孫?
ヤウカイン:石狩川で攫われた少年。十三湊で保護され探索隊に同行している
アッチャシクル:ヤウカインの父
クネキラタ:ヤウカインと一緒に攫われた少年。所在不明。
ハウカセ:ウラユㇱナイコタンのコタンコㇿクㇽ(コタン長)
羽黒党から連絡が帰って来たのは、八月も後半の28日だった。
塀和からの連絡事項として、
・ラーニャとザワティの懐妊を十三湊から房総に伝え、元歩き巫女の助産婦に来て貰う様手配した。
・佐倉では甲斐姫も懐妊しているので、助産婦が何人来るかはわからない。
・炭団など冬を超すための品は手配して送る。
・道南の蠣崎家領周囲のアイヌ人領は東西ともに仕置きを終え、伊勢家領民として差配を受けたいと言っている。が認可してよいか?
・領民になりたがっているアイヌ人領地が広いので、蠣崎家を警戒するためこちらからは人は出せない。
・逗留地の野分への対策をアイヌ人に詳しく聞いておいて欲しい。
が伝えられた。
元歩き巫女が来てくれるのは助かる。しかし、甲斐姫また妊娠かよ。仕事してんのか直雷、って人の事は言えないが。
道南のアイヌ人の領民化の件は了解したと返事した。人を送れない事も了承した。既に十三湊に大勢いるとはいえ、蝦夷本土のアイヌ人が領民となってくれれば長期的にはかなり良い事だ。その為、塾の開校やら代官の派遣やらで九戸の家臣達が大活躍だそうだ。後で恩賞を与えなければ。
また、宇野屋にチヨマカタに店を出すよう連絡を依頼した。主力商品は塩、鉄製品、陶器の日用品で良いと添えた。
そして、最後の塀和の懸念、当地の野分対策だ。流石は塀和、良い所に気付いてくれた。
その前にまずはハウカセに滞在許可を貰わなければ。
かれこれもう二週間以上滞在してしまったが、このままここで出産となると、最悪来年の春まで滞在しなければならない。当然その間の食料はこの地のアイヌに面倒見て貰うことになる。
尚、立花夫妻と怨は今不在だ。この間に真田の忍びがチヨマカタから追尾して見つけた夕張に言って貰っている。
すでに石炭の交渉はここで一度経験してるし、アイヌ語を話す怨とコミュ力高い立花夫妻であれば、現地のアイヌ人ときっと話を纏めてくれるだろう。炭鉱探査要員に羽黒党と真田衆の一部も帯同した。
ハウカセの所には、俺、弥助、ラーニャ、ザワティ、足利氏姫で向かった。
こちらから話を切り出す前にハウカセが話し出した。
『伊勢様、話は聞いています。私達は皆さんを客人として歓迎しています。是非、私達の地で、子供を産んで下さい。我らの女達も全力で協力します』
『私達にとってコタン内の子供はコタン全員の子供なのです。つまりヤウカインを助けてくれた皆さんは私達全員にとって恩人なのです』
なんと嬉しい言葉だろう。真のリーダーというのはハウカセのような人を言うんだろうな。
「本当に有難う。私達にとってもこのコタンの皆さんは恩人になった。かなり長期の滞在になるがよろしくお願いします」
もう見栄を張る必要もないので敬語で言った。上手く変換されるかな?
『そんなにかしこまらないで下さい。皆さんがいつ帰ってしまうのか心配して寂しがっていた者もいたのです。出産となれば本当に長期滞在でしょう。皆も喜びますよ』
どうやら敬語に訳されたようだ。
「では、ハウカセも俺達に敬語は不要だ。これからは友人として接してくれ」
弥助は『えっ?』という顔をしたが、もう良いだろう。彼らは元より対等な交易相手だったのだ。それが、長期滞在の面倒まで見てくれるのだ。遠慮して貰う必要はない。
「ところで知りたいのだが、この地で川が氾濫した際はどうしているのだ?」
北海道は梅雨はないが台風は来る筈だ。堤防もなにもない石狩川はさぞ酷い事になるだろう。
『川が溢れた場合は絶好の漁場になるよ。至る所に魚が打ち上げられるからね。コタンは流されてしまうが、水が引いたら下流に落っこちてるから、皆で拾ってきてまた建てればよいのさ。でも、皆は慣れてないだろうから、川が溢れそうな時は城に上がってくれて構わないよ。川が溢れるなんで年に2、3回だからね』
なんとも大らかな話だった。
それもその筈、ここより上流にはコタンはない。つまり下水が流れてくる心配はないという事だ。なので各コタンの厠を土で塞いで汚染を防ぎ山に避難する。
その後、水が引いたら陸に上がった魚が取り放題の大イベントになるそうだ。
いや川の民、逞しい。それに城に上がって避難して良いといのも有難い。野分のシーズン中ならラーニャもザワティもまだ産気づく前だろうから何とかなりそうだ。




