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1592年8月10日 石炭

コシャマイン:かつてのアイヌの英雄コシャマインの子孫?

ヤウカイン:石狩川で攫われた少年。十三湊で保護され探索隊に同行している

シリコフツネ:チヨマカタのコタンコㇿクㇽ(コタン長)

アッチャシクル:ヤウカインの父

クネキラタ:ヤウカインと一緒に攫われた少年。所在不明。

ハウカセ:ウラユㇱナイコタンのコタンコㇿクㇽ(コタン長)

食事の後はハウカセと仕事の話をする。アッチャシクルはじめ周囲のコタン長も参加した。


まずは俺から説明を始めた。


・自分の名は伊勢直光といい、蠣崎という和人より上位の存在である事

・今後のアイヌ人との交易は蠣崎家にかわり伊勢家が和人代表として取り仕切る事

・蠣崎家のような無法行為や人攫いは絶対にしない事


をまず話した。


次いで、来訪の理由と仕事の話だ。


・この周辺の山間部には石炭という燃える黒石が大量にあり、自分達がそれを欲している事

・採集には人手がいるので、アイヌの皆で石炭を集めて貰い、私達に売って欲しい事

・交易地はチヨマカタでも、ここに新たに築いても良いので皆で決めて欲しい


と伝えた。


早速に羽黒党と真田衆から炭鉱発見の報告が相次いで上がっていた。さすが山伏達である。山中を移動するのは慣れているのは助かる。彼らによると、この時代では何れも未採掘なので露天堀可能だそうだ。


アイヌ側からはいくつか質問がでた。


・冬は仕事できないが構わないのか?

・報酬は何でくれるのか?

・女でも出来る仕事か?


俺の回答はこうだ。


・冬は採掘しなくて良い。

・当面はアイヌ人が望む物品と交換(金工品、陶器などだ)するが、チヨマカタに和人の店を出す計画があり、実現したらその店で様々な商品と交換できる北条札という紙の貨幣を報酬として交換する。

・黒石を拾い集めるだけだから女でも可能だが、道中や採集場に獣が出る可能性があるので護衛は必要。


話だけでは分かりづらいだろうとのことで、実際に炭鉱の一つに行き作業をして見せる事になった。


そして、翌日、現代では浅野炭鉱と呼ばれるこの地域最大の炭鉱にきている。


和人は俺、弥助、立花夫妻、えん


アイヌ側はハウカセ他男5人女5人。あとコシャマインとヤウカインも付いてきた。ハウカセ配下の10名は皆背に籠を背負っている。


案内人は真田衆である。羽黒党は陰の護衛に徹して姿を現さない。


確かに、これは露天掘り可能だ。何しろ全く未採掘なのだから。


俺は早速、苦無で採掘を始めてしまった。慌てて立花宗茂が口添えしてきた。


『殿、そんな作業は私達でやります。殿はアイヌの皆さんに説明をされては?』


恥ずかし!確かにそうだった。


「そうだな。頼む」


何とも威厳のない殿様だな俺。


気を取り直して、採掘する皆を説明する。


「あの黒い石全てが石炭だ。女がやっているように砕いて小さくして採集しても良いし、男のように大きめの石をそのまま持ってきてくれても構わない。いくらもってきてくれても値が下がる事はないから安心して欲しい」


これは実際その通りだ。食物と違い豊作も凶作もない。腐る心配もないのであればあるだけ使うのだ。やがてハウカセの配下も作業に加わりだした。


ハウカセは、


『これなら確かに女衆でも出来る仕事だな。男衆もこの辺りで狩猟を行うし護衛を兼ねる事もできる。それに、この辺りまでは元々山菜取りに女衆も出入りしていたんだ。この仕事の長は女衆から出して貰うとしよう』


どうやら、仕事は受けて貰えるようだ。


その後は、羽黒党や真田衆に各地の炭鉱の案内を任せ、俺達一行はウラユㇱナイコタンに戻った。


そこで立花夫妻やえんと相談する。


「問題は石炭のレートだがどのくらいが適当だと思う?」


宗茂は


『作業自体は猟や山菜取りの片手間みたいだし、あまり高くしなくても良いのではないでしょうか?』


一方、妻の誾千代は


『馬鹿ね。片手間だからこそ良い値で買わなければ採ってくれなくなってしまうわよ!』


誾千代の言う事にも一理ある。次いでえんが発言する。


『石炭は鉄造りに使うのでしたよね?買う側としては最終的にいくらくらいなら採算があうのでしょう?』


あぁお金の話は苦手な分野だ。塀和や~い。


「それは一旦、塀和達と合流して相談しよう」


情けないがそう答えるしかない。鋼が出来たらお金では表せない効果があるのは間違いないが、日ノ本の戦乱はもう終わっているのだ。軽々には決めない方が良いだろう。そこに、足利氏姫が顔を出した。


『殿!少しよろしいでしょうか!』


「かまわん。入れ」


『さっき、アイヌの女の子から聞いたのですが、今度の石炭の仕事。アイヌの女仕事になるそうですね?』


「あぁ、ハウカセはそうすると言ってたな」


『であれば、彼女たちの為に少し色を付けて買ってあげて欲しいんです。アイヌでも日ノ本と同じく女の立場は弱いらしくて。せめて交易の仕事で男と同じ成果を出せれば彼女たちの立場も良くなると思うんです』


これは意外な話だった。コタンでは厠の男女別が普通になっていたり、女性の立場が配慮されてるなと思っていたからだ。


しかし、氏姫によると伝統行事などで女が排除されてたり等、日ノ本と同じような事があるそうだ。しかし、氏姫もうアイヌ語でそんなに会話できるようなってたのか!


「なるほど、では具体的には何かあるか?例えば男の採取物で和人との交易品になる物だ。それと同じレートにしたらどうだろう?」


交易品と言えばやはり石狩川で取れる鮭だろうか?海が無い以上昆布など海藻類は取れない。


『女の子の話では、やはり鮭や干し肉をチヨマカタに売りに行くと言ってました。そこで、塩と交換すのだそうです』


「なるほど、鮭と塩の交換比率は聞いたかい?」


『聞いてきます!」氏姫は元気よく飛び出して行った。なんだが彼女一番ここに馴染んでない?


程なく氏姫は戻って来た。


『鮭1キロに対して、塩500グラムが相場だそうです』『獣肉だと1キロに対して塩200グラムだそうです』


「では石炭も鮭と同じ交換比率にしよう」


氏姫はそう聞いてとても嬉しそうにしていた。その後ハウカセとも話、石炭を鮭と同一の交換比率にすることで合意した。


ただ、気になる事もあった。


「この辺りでは鉄製品は買っていないのか?」


かつて起きたコシャマインの戦いの発端はアイヌ人が和人から買った鉄の短刀が切っ掛けだったと聞いた。そういえば、この辺りではあまり鉄製品見かけないな。


『鉄器も欲しいですが、まず塩です。よほど豊漁の時にチヨマカタで古い鉄器を買うくらいです』


「そうか、昨日も言ったが、チヨマカタに和人の店を開く計画がある。そうなれば北条札を交易に使用して塩でも鉄器でも漆でも買えるようになるぞ」


そう聞いてハウカセは心底嬉しそうだった。

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