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1592年8月9日 石狩川探索隊

アイヌ人の名前が多く出てきて分かりにくいので、一覧にしておきます。

コシャマイン:かつてのアイヌの英雄コシャマインの子孫?

ヤウカイン:石狩川で攫われた少年。十三湊で保護され探索隊に同行している

シリコフツネ:チヨマカタのコタンコㇿクㇽ(コタン長)

アッチャシクル:ヤウカインの父

クネキラタ:ヤウカインと一緒に攫われた少年。所在不明。

ハウカセ:ウラユㇱナイコタンのコタンコㇿクㇽ(コタン長)

石狩川までの航海は極めて順調だった。流石はソナ、ソナオ。海面に出ていない岩礁もたちどころに発見してくれるので、全くトラブルなく航行できた。


それにしても、このヨットの速度の速い事速い事、北の海は波が荒いというが本当だった。最高時速は10ノットを遥かに超えていたのではないか?強風もあり体感だと凄い速さで甲板にはいられず皆、船室に籠っていたが・・


お陰で石狩川までは二日で到着した。途中、セタナイ、ヨイチのコタンが沿岸に見えたので立ち寄り、交易取次ぎ役が蠣崎家から伊勢家に代わったので、これからは交易の際には十三湊かネタナイに行くよう伝えた。


因みにどちらのコタンでもコシャマインの名は伝わっていて歓迎された。


そして、今、石狩川河口である。今、小舟を出して水深を測っているところだ。


キールを傷めずどこまで遡上できるだろうか?夕張は無理でも札幌あたりまでは行き拠点を築きたいところである。


この艇の喫水線は1.5メートルだという。水深が2メートルは欲しいところだが・・


やがて小舟が戻ってきた。川上20キロ位までなら水深水量とも問題なさそうだという。また、そこにはチヨマカタというコタンがあるという。


到着したチヨマカタはチセ10を超える大きなコタンだった。このような大河沿いにある集落だからきっと、この辺りの中心なのだろう。


ヤウカイン君はこのコタンを知っていた。自分の故郷まではもう一人でも帰れるくらいだと言うが、単独行動は危険なので自重してもたった。


チヨマカタの長が挨拶に出て来た。小舟に乗って斥候役をやっていたのは、立花夫妻、コシャマイン、ヤウカインだったのだが、既にこのコタンと友誼を結べてるらしい。やはりコミュ力高い人いると助かるわ。尚、立花夫妻も大分アイヌ語できるようになってきたらしい。


『ようこそ御出でくださいました。和人のお殿様。この度は我らの隣人の子供を助けていただいたそうで、有難うございます。ヤウカインの両親を今迎えに人をやっております』


さすが長だけあって丁寧な挨拶だ。長の名はシリコフツネという壮年の男だ。


ヤウカインの両親とは彼自身面識があり、両親のコタンはここから20キロ程上流にあるという。


やはり河川がいくつか合流しているチヨマカタはアイヌ人の一大交易地だそうだ。中でもここから川で南下したところにあるシコツというところは鮭の大漁場だという。


俺は早速、


・和人の交易取次ぎ家が蠣崎家から我ら伊勢家に代わった事

・コシャマインから聞いた蠣崎家のアイヌ人への仕打ちに皆憤ってる事

・和人との交易の湊は今後はネタナイと十三湊になる事


を伝えた。


シリコフツネも蠣崎家を良く思ってなかったようで、交易家の交代を喜んでいた。


そんなわけで今夜はここに錨を降ろし、陸に上がって休ませてもらう事にした。


交易地らしく旅籠とまではいかないが、客用のチセがいくつかあり、今夜はかなり空いているというのでご厄介になる事にしたのだ。


供された鮭やイクラはやはり絶品だった。無論、帯同している三つ者の毒使いが炊事場を監視していたのは言うまでもないのだが・・


この世界で初めて寿司が食いたくなった。蝦夷に米ないので炊事場を借りて持ってきた米を炊く。ついでに十三湊で取れた海魚や鹿肉も出して久しぶりに皆で宴会だ。酒はイチイの実を濁り酒に付けた果実酒である。イチイの実は種は猛毒だが果肉だけなら美味なのである。


立花誾千代、足利氏姫といった女性陣にも果実酒は好評である。


中でも初めて食べる鮭とイクラの美味しさに一同頬が零れ落ちそうでだ。


やがて、シリコフツネら地元の人も匂いに吊られたのか集まって来た。俺達の食事に興味津々の様子である。


折角なので、彼らにも肉と飯を提供し一緒に楽しむことにした。


しかし、ヤウカイン君の両親は一向にくる気配がない。


一応、シリコフツネに尋ねたら、『直ぐに来ますよ』だって。


俺もこの世界に来て2年、この世界この時代の時間感覚、距離の感覚には慣れたよ。現代の『直ぐ』とは全く別物と思って間違いない。しかもここは広大な蝦夷だ。一週間や二週間の距離を直ぐそこと言ったとしても不思議ではない。


一通りチヨマカタの有力者と仲良くなり、チセに分散して就寝した。


警備は正木水軍はヨットを守っているので、羽黒党と真田衆に任せた。


翌日は情報収集だ。北海道の炭鉱と言えば大きいのは夕張と留萌。だが留萌という地は湊町だから炭鉱なら沼田町だろう。問題は世界言語で変換可能なのかとう事だ。留萌炭鉱の周辺都市は他に滝川市とかもあった筈だが、順次口にしていき土地勘のある者がいないか探していく。


さすがここは交易の中心地だけある、夕張や滝川から来たという人がすぐに見つかった。というかヤウカイン君の故郷は滝川だそうだ。


因みにえんにアイヌ語で夕張や滝川は何て言うのか聞いたが、彼女の口を通しても夕張や滝川としか聞こえなかった。世界言語のお陰なのだろうが俺にはアイヌ語の習得は無理と分かった。


さて、問題はどちらに先に向かうかである。目的が炭鉱である以上俺は外せない。何しろこの世界の人はまだ石炭を見たことが無いのだ。現地に着いたら木炭に似た燃える黒い石を探せと命じて羽黒党と真田衆を総動員するつもりだが・・・


どうせ、ここから先はヨットは使えないので皆で滝川を目指すことになった。真田の忍び3名には夕張に帰るアイヌ人を尾行させ航路を覚えてもらう事とし、無音銃と銃弾を携帯させた。無論、ヒグマ対策である。真田衆程の忍びであれば野獣の気配に気づかない筈はないので問題はないだろう。


正木頼忠以下正木水軍にはこのままチヨマカタに留まって貰い、ヨットとソナ、ソナオの警備をして貰う事にした。


残りの俺、弥助、えん、立花夫妻、足利氏姫、ラーニャ、ザワティ、九鬼嘉隆、梶原景宗、コシャマイン、ヤウカインで滝川に向かう。羽黒党と真田衆は川辺から影に徹し警護を行う。心配していたのはヤウカインの両親との行き違いだが、途中の舟着き場で無事で会う事が出来た。大泣きの三人を見て皆もらい泣きしてしまった。やがて父親が挨拶に来た


『和人のお殿様、この度は息子を助けていただいき有難うございます。私はヤウカインの父アッチャシクルと申します。ウラユㇱナイコタンに住んでおります。是非、皆さまを我がコタンにお迎えしたいと思います』


と言ってくれた。


「ヤウカインはとても勇敢で強い男だ。正にアイヌの誉。かような男の育った場所、是非訪ねたいと思う。よろしく頼む」


と応じたら、アッチャシクルは誇らしそうに、ヤウカインは恥ずかしそうにしていた。


それからは、互いに舟に分乗し語らいながら、おそらく現代の滝川の近くだろうウラユㇱナイコタンに向かう。


道中、ヤウカインと一緒に攫われた子供(クネキラタという名前らしい)の話も出たが残念ながら誰も行方を知らないと言うと、アッチャシクルはとても残念がった。クネキラタ少年の家は母子家庭で、母一人子一人なのだそうだ。母親は女だてらに狩猟にでたり、山で山菜取りなどして暮らしているらしい。確かにヤウカインだけ戻ったと聞いたら落胆することだろう。


結局、交代で夜通し船を漕いだのでチヨマカタからウラユㇱナイコタンへは一日で到着した。漕ぎ手は九鬼嘉隆配下の者達である。さすがは九鬼水軍、途中からはアッチャシクルの舟も漕いでくれ、余りの速さにアイヌ人達も驚いていた。


ウラユㇱナイコタンは石狩川左岸に広がるチセ10戸を超える大規模コタンが幾つか点在する大きな集落だ。その上、集落を守る様にアイヌ式の砦が四方に築かれている。この集落の長、というか最早首長と呼んで良い規模の大コタンの主はハウカセといい、アッチャシクルから話を聞いたのだろう大歓迎で迎えてくれ早速宴を催してくれた。鮭や蝦夷鹿肉を始め雉、鴨といった鶏肉も出された。


食べながら、ハウカセからは色々と教わった。


鳥類や鹿や獣肉は通期で狩れるわけではないので、雪に閉ざされる冬季を乗り切るために干し肉にして保存するのだという。これは山菜や魚についても同様だそうだ。


狩猟民族と思われがちなアイヌ人だが、トゥレㇷ゚という澱粉も採集する。


オオウバウリの根から取るそうだが澱粉の採集は手間がかかる作業であり、彼らが単なる狩猟生活者でないことは言うまでもないだろう。


このトゥレㇷ゚からできた団子を山菜や海藻と合わせ具にした汁物も絶品だった。


松前からここまで離れると流石に蠣崎家に酷い目に合わされた人もいないようで、皆友好的というか、特に弥助とザワティに興味津々だった。


彼らには熊と間違われて襲われないよう、積極的に笑顔で対応するようアドバイスしておいたので、いつの間にか特に子供達の人気者になっていた。


こちらからも何か出したいところだったが、小舟だったので荷物が少なく食べ物は何も出せなかった。代わりに大豆コーヒーを淹れて飲んでもらったが、独特の苦みを気に入ってくれたようだった。十三湊でもそうだったが、アイヌ人は割と珈琲は馴染み易いみたいだ。


ここで羽黒党と真田の忍びに炭鉱の探査に向かって貰う。


やはりスキルなのだろう、現代の地図がかなり正確に頭に蘇って来たので、これを紙に書きだし、川の流れと炭鉱跡の位置に印を付け無音銃を装備させて送り出した。目印は石狩川と雨竜川の合流地点である。石狩川を上流に向かい大きい川の合流地点さえ判明すれば地図上の現在位置が特定できるだろう。

現代地図だとダムが出来てたり護岸工事で流れが変わっている個所もあるだろうが、こればかりは羽黒党と真田衆に頑張って貰うよりない。

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