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落ち武者・歴史は知らない理系リーマン、化学チートで戦国を駆ける   作者: ディエゴ
第一章 包囲されたはじめての街
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幕間・歴史資料館

歴史資料館館長代理と肩書だけきくと偉い役職のようにも聞こえるが、この館には社員は俺を含めて三人しかいない。


榎本弥一館長(62歳)・重工で部長までいって定年退職したシルバー雇用 大阪出身

木内宏館長代理(62歳)・やはり重工を定年退職したシルバー雇用 神奈川県小田原出身

そして、俺 風間孝太郎館長代理(25歳)


この資料館は呉市の郷土資料館を兼ねてるらしく市の教育委員会から二名出向者がいるが、二人とも60歳代である。


俺以外全員還暦過ぎてる。まるで「いつ、辞表出しても良いよ!」と言われているかのような人事である。


因みに、俺のようなスキャンダルや、出世争いで敗れて地方の閑職に飛ばされる社員のことを社内では”落ち武者”と呼ぶ。


俺は自分の身に起きた急変に心身ともに疲れ果て、もう”落ち武者”でいいや!という気分だった。地方に行って休養したいくらいに思ってこの人事を受け入れたのだ。


さて、この資料館、来てみると中々面白い収蔵品が多くあることがわかった。


重工の開発した歴代の製品のレプリカ、設計資料、第一次大戦・太平洋戦争の兵器の資料もある。同時代の他社開発兵器の資料もいくつかあった。


中にはアメリカの高校生が時の大統領に送ったという原子爆弾の設計図の写しなんてのもあった。もちろんこれは非公開資料である。


資料館の閉館は18時。もちろんこんな職場に残業なんてあるわけなく、18時半には退社することになる。こんなに早く自由時間が手に入るのは子供の頃以来である。


友人もいない地方都市で自由時間が多くあってもやることはあまりない。最初は自宅近くの漫画喫茶に行っていたが、そこで異世界ものラノベに出会いあまりの面白さにすっかりハマってしまった。


化学やら物理法則やら自分が関わってきた研究分野自体が、そんなへ理屈関係ねえ!と言われてる気がしたのだ。


以来、異世界魔法物の作品コミックを読み漁る日々、ネットの小説投稿サイトも読み漁り、今までの自分の人生を否定するように異世界読書三昧の日々をおくった。


PCやスマホで異世界を舞台にしたゲームにも手を出した。


*呉市 居酒屋「大和」にて*

『どう?風間君、新生活にはもう慣れたかい?』


俺は今日は榎本館長と二人で飲みに来ている。


「はい、大分落ち着いてきました。」


『そりゃ良かった。まあ、人生には休憩ポイントみたいなものが必要だよ。君は学生の頃からずーーとエリート街道だったそうじゃないか。今回の事は人生のサービスエリアくらいに思ってはゆっくり過ごすと良いよ。そういう意味じゃこの呉はなかなか良い処だろ?食べ物も酒も美味いし』


「そうですね。お気遣い有難うございます。」


『館の収蔵品目録はもう見終えたかい?』


「ええ、我が社の資料館だと思っていましたが、他社さんの資料も結構あるんですね。あと。イスラム錬金術の英語版なんてのもありました。」


『うん、それはね、私も前任の柚木(榎本の前の館長)さんから聞いた話だが、 太平洋戦争末期に軍部が重要資料の一括廃棄を命じたそうでね。


命じられた人の実家は広島県の山間部の旧家の出らしいんだが、勿体ないと思って廃棄資料を全部、軍から実家に送ってしまったらしいんだ。


それで、戦後、その資料をうちの資料館が出来るときに全部寄贈してくれたらしいんだよ。』


「だから、他社さんの資料もあるんですね」


『そうなんだよ。それと、イスラム錬金術ね。もしかして風間君は読んだの?あれ英語だった?私は外国語はさっぱりでね、あんなミミズが這ったような文字読む気にもならないから知らなかったな。目録にはイスラム錬金術としか書いてなかっただろ?』


「そうですね、明礬からアルミをつくるとか今の化学の授業では教わらないことも多くて、実験したくなっちゃいました」


『へえ、化学のプロから見てもそうなの?私なんか錬金術ってだけで眉唾物と思ってしまったけどね。あの本はね、明治時代に日本はイギリスと同盟してたでしょ。その頃に日本に入ってきた物らしいよ。私もそれ以上詳しくは知らないが・・』


榎本館長は良い人だけど、結構飲む人なんだよね。


『風間君は太閤殿下がサルと本当に呼ばれていたと思っているかい?あれ、嘘だから』


おや、急に話題が変わったぞ。


「タイコウデンカ?ですか?」


『そう、太閤秀吉だよ。私たち大阪者で太閤殿下をサルなんて呼ぶ奴は一人もおらんよ。あれは江戸幕府の創作だよ。政権にある勢力は前政権者を悪く扱うのが普通だからね。徳川の前の天下人だった太閤殿下をこき下ろしたくてサルなんてあだ名を付けたんだろうね。』


「なるほど、そうなんですね」


コックリ、コックリ。あっ館長が船を漕ぎ始めた。こりゃおあいそだ。


常連だけあって、店の対応も慣れたもの。会計を終わらせると、あっという間にタクシーを呼んでくれて、館長を乗せたあと、タクシーチケットを運ちゃんに渡し、送り出した


会社から支給されたタクシーチケットこんなことに使って良いのか?まあ決済するのは館長当人だしね。

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