1591年12月24日 新しい命
今日は旧暦ではあるがクリスマスイブ!勿論この世界にそんなものを祝う風習はないが、当家ではラーニャとザワティが既に臨月を迎えていた。
一家に妊婦二人とあっては慌ただしい。
そして、こういう事には男は全く役に立たない。二人の側仕えに雇った新たな金髪達も文化の違いかお産には不慣れらしかった。なので、家臣の奥方衆に頼んで助っ人に来てもらった。そして、こういう時、もっとも頼りになるのはやはり吹さんだ。
元々、房総では現役引退した歩き巫女に御産婆さんとして来てもらっていた。
彼女達の役割は、一言で言えば、”褒め殺し”作戦要員だ。
この世界では、障害を抱えて産まれて来た子、双子、三つ子には極めて強い偏見があるのだ。
そこで、彼女らを出産間際の家に派遣し、そういった赤子が産まれた場合には、
『おめでとうございます!これこそお伊勢様の御加護にございます。お殿様はこのようなお子を大層大事になさいます。年貢の減額他様々なお取り計らいがあると聞いています。村長様以下、集落みんなで大切にお育て下さい。いやあ羨ましいことです。ともあれ、この度はおめでとうございました』
などと、徹底的に褒めまくるのである。
元来、このような偏見が広まったのには、領民の経済的理由もあるだろうと考え、年貢の軽減やら、現代でいう保育所の整備などを進めていた。
そんな訳で吹さんが御産婆さんを集めるのは佐倉城下では容易だったのだ。
一方、気ばかり焦ってやれることのない俺は、弥助、立花宗茂とともに伊東師範の道場で稽古に励んだ。そうでもしてないと気が変になりそうだった。
弥助の体術を軽い身のこなしで躱す俺というか、風魔小太郎の体に皆驚いていた。
一方、木刀を持たせればやはり立花宗茂は強い。まともに立ち会えるのは伊東師範くらいである。
そんな事をしている間に城から連絡がきた。ラーニャが無事出産したそうだ。
しかも、戻ってビックリ、可愛い赤みを帯びた金髪の双子の一男一女である。
そして、その夜、ザワティも無事出産した。驚いたことに彼女もまた一男一女の双子を産んでいたのである。一夜にして4人の父親になってしまった。気持ちの整理が追い付かない。
さて、4人の幼名をどうつけようか?元服と違い烏帽子親などもいらないから、ファティマとかアイシャとか、男の子ならアフマドとかムハンマドとか付けたいところだが、幼名は元服したら改名するわけだから単純な方が良いかと思って結局、
女の子には美しい金属から金と銀、男の子には自然の厳しさを表す名として、風と炎と名付けた。




