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1591年6月23日 ラーニャの活躍

身重のラーニャとザワディだが、その後も問題なく日々を過ごしていた。


中でもラーニャはアラビア語を母語とする側仕えが付くと聞いて大喜びしていた。


そんなラーニャだが、密貿易船との交易に出したレースグラスの開発に大いに貢献してくれていた。


元々ガラスの発見はアラビア半島であり、現代でも有名な宙吹の技法を発明したのもダマスカスの職人である。アラビア半島に人々にとってガラスは身近な者だったのだ。


俺が召し抱えた職人達の多くは相良油田で内燃機関の開発に勤しんでいるが、ガラス職人は内燃機関にはあまり出番がないので、多くの者が佐倉で工房を開いていた。

ある日、俺がラーニャを伴って工房を視察に行った時、以前、八王子城で氏照さんに見せられたレースグラスを思い出し、同じ物を作れないかスケッチしながら聞いてみたのだ。その繊細な細工に頭を捻っているガラス職人を尻目にラーニャが製法を知っていると言い出したのだ。


ヴェネチアとダマスカスは交易で繋がっており職人間の交流もあったらしく、その関係で技法が中東に伝わっていたらしい。ラーニャはダマスカスのかなり裕福な家の出だったそうだ。最も、今はオスマン朝に荒らされ古都ダマスカスもどんな状態かわからないという。


早速、ラーニャの指導でレースグラス作成が始まった。


作業は二人一組で行う。溶けた透明なガラスと、空気を入れて白くなった溶けたガラスを各々の手に持ち、これを二人で交互に捩る様に練っていくと、みごとレース状のガラス棒の完成である。あまりの簡単さに職人達も唖然としていた。最も最初から細い繊細なレースが出来るわけはなく、その後は職人たちの技術の研鑽に任された。その結果が先日の見事なレースグラスの壺となったのである。


ガラス職人達に宙吹の技法を教えたのもラーニャである。それまではまず陶器で型を取って、そこに溶けたガラスを流し込むという手間の掛かる作業をしていたのだが、これで圧倒的に作業効率がアップし、より芸術分野の向上に時間をかける事が可能になったのである。


またガラスの原料を変えたのもラーニャである。それまでは、伊豆で取れた硅石を使用していたが、ラーニャは様々な生活の場で出る灰を使用するよう提案した。


灰から作られたガラスの方が多彩な色付けが可能となるので、一気に色鮮やかなガラス製品が広がったのだ。


とまあ、ガラスに関して多大な功績のあったラーニャだが、今回、更に凄い事をやってくれた。


俺が呉の資料館で見た明礬からアルミを抽出するイスラム錬金術の手法のことだ。


明礬は伊豆で取れるのでとても期待していたのだが中々抽出に成功しない。


俺がため息交じりに「アルミナ」と呟いた時だ。ラーニャが『どうした?』って顔をしたので、明礬の現物を見せ、「これからアルミナが取れないんだ」と言ったところ、アラビア語で書かれた書物を取り出してきて、『塩と灰を水に溶いて熱した溶液に浸すと良い』と教えてくれたので、ラーニャ先生立ち会いの元、塩、灰、水の割合を調整しながら実験すること5日、ついに、アルミの抽出に成功したのだ。やはり、アラブ文化凄いわ!呉の資料館で読んだイスラム錬金術には単にカリウムを溶かした液に浸けると取れると書いてあっただけだった。カリウムは草木灰を使用して得られるのでずっと灰だけでやっていたのだが、塩を加えるとは書かれていなかったよ。英訳版は駄目ね。


さて、苦労してアルミを抽出したのは何故かというと、爆弾の信管に使用する為だ。アルミを粉状にしてそこに水を加えると粉塵爆発を引き起こすのだ。


あくまで信管でありダイナマイトの起爆剤だからそれほど大量には必要としない。


後は実験を繰り返し適量と起爆までの保存(陶器かガラスが有力だ)容器の検討を行っていくことになる。化学者が用意できる起爆薬はアルミともう一つマグネシウムがあるが、こちらはまた別途、検討することにしよう。

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