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第22話 破棄と決闘

どうぞ、お読みください。

 〔デイ・ノルド王国〕中央部南側 公都〔スリオス〕 公城 スリオウシス城


 コンコンコン


 談話室のドアがノックされた。デオルード伯父上が、「入れ。」と許可をすると執事長が、「失礼いたします。」と言ってカートを押して入って来た。


「お待たせいたしました、お茶でございます。」


 執事長は、そう言ってお爺様から順にお茶を供して行き、僕の所へとやって来た。


「エギル殿下は、如何されますか?」


 僕は、その問いを受けてこう答えた。


「レモンティーで、お願いします。」


 執事長は、「かしこまりました。」と言って紅茶をカップに注ぎ、ソーサにレモンを置き、スプーンを添えて僕に手渡してきた。

僕は、ソーサを受け取り、ソーサに載っていたレモンを紅茶の中に入れるとスプーンでかき混ぜてレモンの香りを紅茶に移すと、一口飲み、紅茶とレモンの香りを楽しんだのであった。

デオルード伯父上とミリエル伯母上も、それぞれ紅茶を飲み、喉を潤すと、話の続きを言い始めた。


「私たちが、秘密の計画を開始して二年後、その時がやってきたわ。」






 時は、三十年前へと再び戻る。


「ミリエル・フォン=サールカ=ノルド、お前との婚約を解消する。僕と未来の公妃たるスーラを傷つけた件で、貴様を罰する。」


 ハルート・ディスラ・フォン・タルスクは、そう叫ぶと〔タルスク公国〕より一緒に〔デイ・ノルド王国〕へとやって来ていた取り巻きの貴族の子弟にミリエル王女を捕らえるように命令した。

公子の命令に従い、貴族の子弟たちは、ミリエル王女を包囲した、その時、声が響いた。


「突撃。」


 その声を受け、王立学園の卒業式が行われている講堂に、魔銃と軽装鎧で武装した海兵隊一個小隊が、突入して、ミリエル王女を取り囲んでいる貴族の子弟たちを捕縛したのであった。

そしてハルート公子に対して、魔銃を向け、威嚇を行ったのである。


「貴様ら、何のつもりだ。私を公子と知っての狼藉か。」


 ハルート公子は、今、自分が、置かれている状況を理解できずに半包囲をしている海兵隊員たちに身分による威圧を行った。

だが海兵隊隊員たちは、その言葉にひるまずに魔銃を突きつけた状態で公子をジッと見ていた。

その状態に耐えられなくなった公子は、周りの人たちに助けを求めるような視線を送ったが、誰も完全武装した海兵隊隊員たちに、近づこうとはしなかった。

すると海兵隊隊員たちが、入って来た講堂の入り口から、音が聞こえて来た。


 チャリチャリチャリチャリ


 何かが、釣られた状態で動いている音が、聞こえてくる。そして先ほどの掛け声の声と同じ声が聞こえて来た。


「全体、構え解け。」


 そう掛け声が、掛かると隊員たちは、公子に向けていた魔銃の銃口を足元に下げた。そして命令を発していた人物が、現れたのであった。

海兵隊士官の制服をビシッと着用し、床を踏みしめる靴はピカピカに磨き上げられ、そして腰には、剣帯に吊るしたサーベルを佩き、頭には、ブッシュハットを被った、一人の男が、立っていた。

公子は、その堂々とした姿に一瞬、「うっ。」と言って怖気づいたが、直ぐに気を取り直すと、こう言って来た。


「貴様が、こんなふざけた事をしているのか。この痴れ者たちを、直ぐに下がらせろ。」


 そう言い終えたのであった。それに対して、公子の前に現れた人物は、こう返した。


「お久しぶりですな、公子殿下。お忘れでしょうから、自己紹介させていただきます。自分は、〔デイ・ノルド王国〕王国海兵隊士官 デオルード・フォン・ユーリナタス中尉。公子殿下、貴方を我が国の王族に対して暴行罪、略取誘拐罪、名誉棄損罪で、拘束させていただきます。」


 それを聞いたハルート公子は、「何?」と言って狼狽をしたのであった。そして今まで講堂の壇上で、事態の推移を見ていた〔デイ・ノルド王国〕マルトス国王と〔タルスク公国〕イルドリ大公が、発言をした。


「ユーリナタス中尉、まあ待て。大公と話し合い、その者の処遇を決める。よいな。」


 マルトスの命に、デオルード中尉は、「はっ。」と言って敬礼をした。そしてイルドリ大公もこう発言した。


「お若き中尉殿よ。お役目大儀。しかし暫しの猶予を願えないだろうか。」


 そう言って大公は、ほんの少し、頭を下げたのであった。それに対してデオルード中尉は、同じく敬礼をして「はっ、分かりました。」と答えたのであった。

国王と大公は、顔を突き合わせて話をして直ぐに頷き合うと、ハルート公子とデオルード中尉に対してこう告げた。


「ハルートよ、罪を減じて欲しくば、中尉と決闘をして自らの正当性を示せ。」


 とイルドリ大公が言うと、マルトス国王が、こう告げた。


「デオルード中尉、公子と決闘せよ。勝利の暁には、ミリエルとの婚約を許す。」


 それを聞いた公子は、「はい、分かりました。」と言って卒業式の為に着ていた礼服に釣っていた剣を抜いた。

そしてデオルード中尉は、腰に佩いていたサーベルを抜き、刃を内側にして構えた。双方が、構えたのを確認したマルトス国王が、開始の合図を発した。


「はじめ。」


 先に動いたのはハルート公子で、剣のリーチを活かしての刺突で勝負を決めようとした。が、その刺突を中尉は、構えていたサーベルで絡め捕ると、公子の手から剣を奪うと、その勢いのまま、公子へと近づき、格闘技を出して公子を床に引き倒すと、右手をひねり上げ、首にサーベルを添えたのであった。


「やめい。」


 と今度は、イルドリ大公が、終了の合図を出したのであった。それを受けたデオルード中尉は、公子を開放し、サーベルを納刀すると、国王と大公へと礼をしたのであった。


「勝負あったな。」


 そう言うと、マルトス国王とイルドリ大公は、その場を後にしたのであった。そしてハルート公子は、海兵隊隊員たちに捕縛され、そして同じくスーラ嬢も海兵隊隊員によって捕縛されたのであった。

そして講堂に残ったデオルード中尉は、ミリエル王女に対してこう言ったのであった。


「俺と、結婚してください。」


 そのプロポーズにミリエル王女は、こう答えた。


「はい、よろしくお願いします。」






 そして時は、現在の談話室へと戻る。


「ちょっと待って、最初は、偽装婚約をするって話だったのが、何で最後には、本当に婚約する事になっているの?」


 と僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドが、聞くと、伯父上と伯母上は、お互いの顔を見ながらこう言って来た。


「「だって、好きになってしまったの、お互いに。」」


 その言葉が出た後、談話室の雰囲気は、非常に甘ったるい空気に包まれた。


お読みいただきまして、ありがとうございました。

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