第21話 偽装と賭け
どうぞ、お読みください。
〔デイ・ノルド王国〕中央部南側 公都〔スリオス〕 公城 スリオウシス城
スリオウシス城の談話室の一室で、僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドをはじめとした子供たちと、先王陛下と先王妃陛下であるお爺様とお婆様、現王弟殿下と現王弟殿下夫人であるガル叔父上とシルビア叔母上、さらに王国公爵であり初代宰相でもあるリウム先生が、聞いている中、デオルード伯父上とミリエル伯母上は、こう言って話を再開した。
「最初にそう言われた時は、思わず固まってしまったが、ミリエルの一言で、我に返って、こう質問したのだ。」
再び時は、三十年前に戻る。
ミリエル王女の言葉で、思考が停止したデオルード少年は、椅子に座ったまま固まっていた。
ミリエル王女は、固まってしまったデオルード少年に対して、こう言った。
「デオルード様、婚約してくれと言いましたけど、あくまで偽装です。」
その言葉が、聞こえたのか、デオルード少年は、我に返り、こう質問してきた。
「偽装、ですか? あのどういう事でしょう。」
ミリエル王女は、そう質問されると、テーブルに置かれていたコップを手に取り、中に入っている紅茶を一口飲むと、「フゥ~。」と言って息を吐いた。そしてこう返してきた。
「はい、実は私には幼い頃に許嫁として婚約が内定となった男性が居るのです。その方は、我が国の西方で国境を接している〔タルスク公国〕の第一公子である、ハルート・ディスラ・フォン・タルスク様です。」
「ちょっと待ってください。王女殿下。」
それを聞いたデオルード少年は、ミリエル王女に話を止めるように言うと、父であるユーリナタス公爵の方へと向いた。公爵は、「うむ。」と頷いて婚約内定の事実を認めたのであった。
それでは何故王女は、デオルード少年に偽装婚約をしてくれて言ってきているのか、李湯が分からない。
デオルード少年は、こう言って再開を促した。
「話の腰を折ってすみませんでした王女殿下。どうぞ続きをお話ください。」
それを聞いたミリエル王女は、「分かりました。」と言って話を再開したのであった。
「昔は、私もハルート様もお互いに国を訪問し合い、遊ぶ仲でした、時には一緒にイタズラなどをして、家臣たちに怒られたこともあれますし、一緒に寝たりする間柄でした。それぞれの誕生日には、贈り物をし合っていました。」
そう言ってミリエル王女は、一旦言葉を止めると、再び紅茶を一口飲むと再び話し始めた。
「そんな子供同士の可愛らしいお付き合いが変わったのは、ハルート様が、我が国に長期留学されることが決まった時からです。私は、ハルート様の許嫁としてまた未来の〔タルスク公国〕大公妃として恥ずかしくない様、礼儀作法から帝王学まで幼い頃より教えを受けておりました。そしてようやくその努力をハルート様にお見せできると思い、ハルート様が、御入学された王立学園に私も入学したのです。しかし、私が見たのはハルート様が、変わられた姿でした。ハルート様のそばには何時も私と同い年の女子生徒が居るのです。そして私に対してハルート様は、その女子生徒に向けている眼差しや態度とは、真逆の態度を向けてくるのです。」
そう言って再び話を止めて紅茶を一口飲んだミリエル王女は、「フゥ~」と息を吐いてこう言って来た。
「私は、ハルート様に言いました。『ハルート様、私に冷たい態度をとるのは、良いとしましょう。ですが、彼女ばかり贔屓しているのは、ハルート様に対する評価が、下がることになります。何卒ご自重をお願いいたします。』と、するとハルート様は、こう言い返してきました。『ふん、お前のその態度が鼻に付くのだ。それに比べ彼女は、私を癒してくれる存在だ。お前では、疲れるのだ。今すぐ私の前から去れ。』と、私はその言葉を言われた後、どうやって王宮へと戻ったのか覚えておりません。私は、その次の日、部屋に籠って泣いておりました。余りにも悔しく、自分が惨めになりました。そして泣き疲れて横になっていると、私の中にハルート様に対する愛情が、無くなっていることに気付いたのです。あんなに会う事を待ち遠しにしていた人なのに好きという気持ちは、こんなにも簡単になくなってしまんだと。そして私は、決心したのです。ハルート様に精一杯の仕返しをしてやろうと、そこで偽装婚約をしてあんな軽薄男をギャフンと言わせるためにユーリナタス公爵に相談する為に、こちらに、伺いましたら、貴方様がいらっしゃったので、偽装婚約を申し込んだのです。」
そう言い終えると、ミリエル王女は、コップに入っていた紅茶を飲み干すと、テーブルに置き、こう続けた。
「引き受けて貰えないでしょうか。」
その問いを受けたデオルード少年は、チラッと隣に座っている父親を見て、そして王女を見ると、こう答えた。
「分かりました。お引き受けします。」
それを聞いたミリエル王女は、「ハァ~」と言って安堵のため息をついた。そして偽装婚約の事は、公子が何かとんでもないアクションを起こすまで秘密にする事になったのである。
話し合いを終えミリエル王女が王宮へと帰る為、馬車に乗り込んだ時、デオルード少年は、こう聞いた。
「もし私が、この話を受けなかったらどうする積りでした。」
「その時は、私の賭けは、負けと潔く認めて、次の策を練る事に気持ちを切り替えたでしょう。」
ミリエル王女は、そう言うと馬車に乗り込み、王宮へと向かったのであった。
時は、談話室に戻る。僕をはじめとした子供たちは、ミリエル伯母上を怒らせるのは、やめようと心の中で誓ったのであった。
そしてデオルード伯父上とミリエル伯母上のお話は、まだ続くのであった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




