第13話 抗議と壊走
遅れてしまい、申し訳ございませんでした。
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〔デイ・ノルド王国〕東部 元〔ドルパース伯爵領〕 領主館
現在この元〔ドルパース伯爵領〕の統治を任せられている王国内務省の官僚である地方統括官は、執務室で頭を抱えていた。
「何故、こんな事に成ったのだ。」
机に頭を押し付けながら事態の打開を考えている様であるが、何も閃ている様子は、ない。
それもそのはずである。彼が、この統括官と言う王国内務省内でも有数の地位を得た訳は、彼自身の特技のおかげであった。そり特技とは、人に媚びる事と危機回避能力である。
彼は、内務省に採用され入省すると、最初に自分の上司となる貴族に媚びを売り、出世の足掛かりとした。そしてその貴族が内務省内で出世をしていくと同時にその貴族の派閥に属していた統括官は、順調に出世の階段を上っていたのである。そして内務省内で何か問題が起きても持ち前の危機回避という名のさぼり癖を発動させ、その厄介ごとから逃げ、その問題から遠くにいるようにしたり、挙句の果てには、自分の失敗を部下の所為にして責任から逃げ、自分は、被害者ぶると言った事をしながらここまで出世をしてきた人物であったため、この様な事態の対処が、分からないのであった。
そしてもう一つ彼が、今起きている事態を解決できない理由は、地方統括官を踏み台として見ていなかったことである。
そしてこの領内には、地方統括官と同類の人物がいた。それは、地方警備隊隊長である。
彼も事なかれ主義の典型的な役人であり、今の地位に着いたのも、王国衛士庁での自分の点数稼ぎの為なのである。
その為この二人は、お互い似た者同士であったため、影でお互いの足の引っ張り合いをしていたのである。
そしてそれが、今回の狩人殺戮事件が、発生する原因となったのであった。
そして悪い知らせというモノは、立て続けにやってくるものである。
地方統括官が、「ウンウン。」と唸りながら、執務室の机に突っ伏していると建物の廊下を猛スピードで走ってくる音が聞こえて来た。
ドタタタタタタタタ。
そしてその足音は、執務室の前で停止すると、勢いよくドアが開いて、警備隊の制服を着た衛士が、入ってきた。
「失礼いたします。統括官殿。」
そう言って机から顔を上げていた統括官に対して敬礼をしながら近づくと、手に持っていた手紙を差し出したのであった。
統括官は、差し出された手紙を不審に思いこう問いかけた。
「何だ? この手紙は?」
その問いに対して衛士は、こう答えたのであった。
「はっ。この領の北側にありますグーブスト伯爵領より使者が参りまして、至急この手紙を統括官殿に渡すように言われ、持参いたしました。」
それを聞いた統括官は、手紙を受け取ると、封蝋を確認し、机の上に置いていたペーパーナイフを取り、封を切り、手紙を取り出し、文面を読みだした。
それを読み進めていく統括官の顔が見る見るうちに青くなっていき、そして手紙を読み終えると、手紙を持ってきた衛士に対してこう命じた。
「直ちに、警備隊の隊長をここに呼んできてくれ。急げ。」
その言葉に迫力があったお陰か、衛士は、疑問を呈さずにこう言って部屋を出て行った。
「はっ。直ちに隊長を呼んでまいります。」
そして衛士が出ていくと、統括官は、持ち前の危機回避能力に火が付いたのか何やら作業を開始したのであった。
そして手紙を持ってきた衛士が、隊長を呼びに行って数分後、呼ばれた地方警備隊隊長が、姿を現した。
警備隊隊長は、ドアをノックして「失礼する。」と言って執務室のドアを開け中に入ると被っていた帽子を脱ぎ、ドアの横に置いてあるコート掛けに掛けると統括官の元へと歩み寄り、こう言った。
「何の用だ、統括官。」
その声を聴いた統括官は、顔を上げて、隊長の姿を確認すると、こう言った。
「貴殿を呼んだのは、頼みをするためだ。まあ、掛けてくれ。」
そう言って統括官は、執務机の前に置かれた対面のソファーに座る様に隊長に促した。隊長は、それに応じソファーに腰掛け、話を聞く体勢になった。
それを確認した統括官は、引き出しから先程の手紙を取り出し隊長に渡しこう言った。
「中身を見てくれ。」
隊長は、言われるままに手紙を開くとそれを読んだことを後悔する事に成ったのであった。
手紙には、こう書かれていた。
『王国内務省地方統括官殿
貴殿は、私が陛下よりお預かりしている領地を滅ぼそうと言うのか。貴殿が、統括している領より盗賊共が我が領内の村落を襲っている。こちらでも対策を講じているが、とても支えられる状況にない。貴殿も、対策をしていると私は、思っているが、怠けていると陛下と内務卿にこの事を伝えなければならない。それはお互いにとっても不幸である。なにとぞ、御助力の程よろしくお頼み申し上げる 敬具 グーブスト』
それを読み終えた警備隊の隊長に対して統括官は、こう言った。
「貴殿とは、馬は合わぬしこれからも仲良くするつもりはない。だが、お互いの為にもここは、手を結ぼう。」
それを聞いた隊長は、「そうだな。」と言ってソファーから立ち上がり執務机の前へと立った。
そして統括官も椅子から立ち上がり、隊長に向かって手を差し出した。そして隊長も手を出し、差し出された手を取り、ガッチリと握手をしたのであった。
そしてその握手から一週間後、〔デイ・ノルド王国〕史上まれな事件の報がもたらされた。
『警備隊壊走。敵は元ドルパース伯爵の弟。これは、反乱である。繰り返す、これは反乱である。至急救援願う。』
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