第3話 嘆願と再会
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〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 大広間
僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドの七歳の誕生日を祝う宴は、続いている。招待した各国の要人や駐在している大使たちに続いて我が国の貴族たちの挨拶が行われている。
ただし、貴族たちが考えている事は、各国の要人や大使たちと比べて非常に分かりやすい物である。
それは、僕と自分たちの娘が、結婚して、自分たちに便宜を図ってもらえるようにすることである。
特に首都で法衣貴族に属している貴族たちが、婚姻について真剣に考えている様で、娘を同伴してくる貴族もそちらの方が多い。
逆に領地を持っている地方貴族たちは、娘を同伴してくる者は、少ないのであった。
そしてまた一人貴族の挨拶が終わり、次の貴族が前に進み出て来た。その貴族は、額に少し汗を掻いていて少し落ち着きがない様子であった。そして同伴しているのは娘ではなく息子であり、僕より歳が上の少年であった。
「エギル殿下、並びに国王陛下、王妃陛下にごあいさつ申し上げます。」
そう言ってその貴族は、貴族が王族に対して行う最上位の礼をして僕たちの前に跪くと名前を述べてこう続けた。
「王国東部で陛下より領地を預かってありまする、エニール・フォン・デノスタイアでございます。この度は、エギル殿下が七歳となられましたこと、祝福いたします。そして両陛下も、ご健勝であられることをお喜び申し上げます。」
それを聞いて、僕と父上は、こう言った。
「デノスタイア伯爵、ありがとうございます。」
「うむ、デノスタイア伯爵。そなたの忠心嬉しく思うぞ。」
それを聞いたデノスタイア伯爵は、「ハハッ―」と言って礼をした。そして母上が、こう続けた。
「デノスタイア伯爵、こちらは息子さんかしら? 紹介していただけない?」
母上に促されて、デノスタイア伯爵は、挨拶の時から膝まづいたままだった少年に少し前に出るように言った。その言葉を受け少年は、父親の伯爵と同じ位置に並び、伯爵が、こう紹介してきた。
「私の隣に控えておりますのは、我が嫡男であります、ニークネル・フォン・デノスタイアでございます。今年九歳になります。来年から王立学園へと入学いたします。」
それを聞いた母上は、こう返したのであった。
「そうですか、それは大変楽しみですね。更なる勉学に励まれることを期待しています。」
母上にそう言われたニークネル君は、こう返してきた。
「はい、頑張ります。」
それを聞いた伯爵は、息子が許可も得ずに直答したことにビックリしこう続けた。
「申し訳ございません、倅が出過ぎたことをしました。」
しかし父上は、その謝罪に対してこう答えた。
「ハハハ、伯爵。中々見どころのある少年ではないか。臆すことなく、返答できることは良い事である。これかもしっかりと育てるように、よいな。」
それを聞いた伯爵は、「ハハッ―」と畏まり、礼をすると次の貴族に順番を譲るため、その場を後にしようとした。
それに対して僕は、こう告げた。
「デノスタイア伯爵、待ってください。」
それを聞いた伯爵は、踵を返していたが、再び僕たちの方へ向き直ると、更に額に汗を滲ませながら、こう問うてきた。
「何でございますか? 殿下。」
その問いに対して僕は、こう答えた。
「何か、大きな悩みをお持ちの様であると感じました。それをここで述べて頂けませんか?」
それを聞いた伯爵は、周りの貴族たちの目をかなり気にしていたが、しかしそれよりも重大な事であると伯爵自身が分かっているため、意を決してこう告げたのであった。
「国王陛下、この様な祝いの席でする話ではございませんが、何卒我が領民をお助け下さい。」
そう言って膝まづき、頭を垂れて、父上に嘆願をしたのであった。これ対して挨拶を待っていた貴族たちは、ヒソヒソと伯爵の陰口をたたきだしたが、父上が手を上げ、それを制すると、こう伯爵に告げた。
「あい分かった、伯爵。詳しい話は、後で聞くが、約束しよう必ず助ける、よいな。」
それを聞いた伯爵は、「ハハッ―」と言って深々と頭を下げると、立ち上がり、その場を離れて行ったのであった。
その後は、つつがなく貴族の挨拶が、進んで行き、何十番目かの貴族が挨拶に来た時、僕は、再び出会ったのであった。
その女の子は、父親に伴われて僕たちの前に膝まづき王国礼を取り、礼をしてこちらを見たそして「えっ」という小さな声を発した。
その声が、聞こえたのか、父親は、その娘にこう告げた。
「どうしたのだ? エネル。殿下たちの御前だぞ。」
それに対して女の子は、自分の失敗が分かったのか、慌てて父親と僕たちにこう告げた。
「いえ、なんでもございません。父上。殿下、両陛下、大変失礼いたしました。」
そう言うと父親の少し後ろに下がり、再び畏まった。それに対して父親は、こう僕たちに告げて来た。
「大変、申し訳ございません。娘が、粗相をしでかしまして。後できつく言い聞かせますので、何卒ご容赦ください。」
その申し出に父上は、こう返答した。
「いや、よい。そこまでする必要を私は、感じていない。その子も反省しているようだし、叱るべきではないと思うが、侯爵どう思う?」
そう父上に言われた父親は、こう返してきた。
「はっ、陛下のお言葉に異存ありません。」
そう言うと父親は、娘を再び隣に呼ぶと、再度王国礼をして僕たちに挨拶をしてきた。
「エギル殿下、並びに国王陛下、王妃陛下にごあいさつ申し上げます。王国西部において陛下より領地をお預かりしております。王国侯爵、スミエル・フォン・ワ―ライシスでございます。 この度は、エギル殿下の七歳になられましたことを心よりお喜び申し上げます。そして両陛下におかれましてもご健勝であらせられる事、お喜び申し上げます。」
そしてワ―ライシス侯爵は、こう続けた。
「これに控えておりますのは、私の娘である、エネルリア・フォン・ワ―ライシスでございます。何卒お見知りおきくださいませ。」
そう紹介されたエネルリアは、しっかりと僕の方を向くと礼をしてこう告げたのであった。
「お久しぶりでございます、エギル殿下。あの時は、祖母の形見を拾っていただきありがとうございました。」
そう言うと再び頭を下げてにっこりと微笑んだのであった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




