第40話 未遂と代償
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〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕城下町
僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドは、〔ノース・ザルド王国〕との講和交渉を終え、久しぶりの休日を首都〔ザイルシティー〕の城下町で過ごしていた。
宰相救出作戦とクーデター決行の時は、情報を漏洩させない為、潜伏をしていたので、城下町を歩いていなかったのである。そして停戦後、正式な使者として〔ザイルシティー〕に入っていたが、講和交渉の為、王城に缶詰め状態になっていたので、最終日のこの日だけ歩けることとなったのである。
最も自国の首都ではないので、警備の為の護衛は、しっかりとついているが、これは仕方がないと諦めて、楽しもうと思っている。
そんな事を思いながら僕は、城下町の一角にやって来ていた。ここはこの城下町でも屋台が多く立ち並んでいる一角である。
僕は、食べ物を売っている屋台を探しながら、屋台街の中を進んで行く。するととても美味しそうな匂いが漂って来た。僕は、漂って来た匂いを辿り、とある屋台へとやって来た。
「へい、いらっしゃい。」
僕が、屋台の前までやってくると、屋台の店主が、威勢の良い掛け声で、挨拶をしてくれた。そして僕は、こう聞いた。
「おすすめは、何ですか?」
その問いに対して店主は、こう答えた。
「おすすめかい? それならハンバーグと野菜をパンで挟んだ、ハンバーガーが、おいしいよ。」
僕は、その答えを聞いて「あ~、前世でもよく食べたな~」と思いながら、こう答えた。
「じゅあ、それで。後何か、付け合わせはありますか?」
僕の問に対して、店主は、こう返してきた。
「じゃあ、もう一つのおすすめを付けましょう。」
と言って調理を開始した。店主は、屋台に据え付けられた熱々の鉄板に油を敷くと、それをなじませ、そして店主の背後の棚に設置されていた魔導冷蔵庫を開け、中からハンバーグの形に成型してある種を取り出し、それを油を敷いた熱々の鉄板の上へと乗せ、焼き始めた。
そして焼いている間に、ジャガイモを取り出すと、スティック状に裁断すると魔導装置へと投入し、そのまま油が満ちているフライヤーへと落としたのであった。
そして挟むパンを取り出すと、パンの真ん中を半分に切り、切られた面を下にして鉄板の上へと乗せ、これも焼きだした。
そしてハンバーグをひっくり返すと、その上にチーズを乗せ、更に焼いて行った。
暫くして、焼いていたパンを取り上げると皿に置き、そこに魔導冷蔵庫から取り出した、レタスを載せる、そしてその上に焼き上がったハンバーグを載せ、また更に野菜を乗っける、そして一番上に来るパンの切った面に特製のソースを塗り、一番上に乗せたのであった。
そして付け合わせのポテトをハンバーガーの乗った皿に盛りつけると、僕の目の前へと、置いたのであった。
僕は、それを受け取ると祈りを奉げて、こう言った。
「いただきます。」
「はい、召し上がれ。」
と店主が、返してくれた。
僕は、皿に乗ったハンバーガーを掴むと、口を大きく開けて、食べ始めたのであった。そして同行していた護衛達も僕と同じものを頼んでおり、僕よりも先に食い始めていた。
僕は、その初めて食べるおいしさに感動し店主に、こう言った。
「店主さん、これすごくおいしいですね。」
そう言うと店主もこう返してきた。
「そう言って貰えて、私も勧めたかいがあります。」
そして僕は、ポテトを食べながら、店主に最近の事を聞いた。
「店主さん、この所、商売や生活はどうですか?」
すると店主さんは、困った顔をせずに明るく現在の近況を話してくれたのだ。
「最近は、〔ザイルシティー〕も治安が安定して物が売りやすくなったね。前の王様の時も、私は、ここで商売してたけど、身の危険を感じることは、多かったね。」
「そんなに、ひどかったんですか。」
僕は、驚いて聞き返すと、店主は、こう答えてくれた。
「前の王様の時は、税金が高かったんだよ。確か六公四民だったかな。でもそれ以外にも臨時税とかいう名目で、取られてたから、商売しててもトントンでね。生活が、苦しくなって盗みや強盗なんかが増えて行ったよ。」
この話を聞くだけで、ピスグリスがいかに暗君であり暴君であったが、よく分かる。そして店主は、続けてこう言った。
「でも今の王様は、税金を安くしてくれて、治安も回復させてくれた。お陰で、商売も日々の暮らしも、非常に充実しているよ。」
そう言うと店主は、またにっこりと微笑むと、次に来ていたお客さんの相手をしに行ったのであった。
そして僕は、皿に乗っていたバーガーとポテトを平らげると、皿を戻して、別の場所へと向かい、同じことを質問していったのであった。
そして次の日、僕は、馬上の人となり、〔ザイルシティー〕をハイディニル陛下と共に条約締結の地てある両国の〔国境砦〕へと出発したのであった。
そしてこの時、僕の後をつけていた者たちが、存在していたことを僕は、知る由もなかった。
「あれが、ターゲットの少年か。まだまだ若い命ではないか。あのような輝く命を刈り取る事は本来あってはならないが、恨むならワタシにこの依頼をした人物を恨むことだな少年。」
〔ザイルシティー〕のとある建物の屋根の上に立っていた人物は、そう言い残すと、一瞬の内に消えて行ったのであった。
〔デイ・ノルド王国〕国境地帯 街道
僕は、再び馬上の人となっていた。国境砦での講和条約調印式を終え、僕は、父上と共に〔デイ・ノルド王国〕へと帰国を果たしていた。
このまま道中、何事もなければ、二週間後には、首都〔ハルマ―〕に着く事に成っていた。
そして今日、泊まる予定の場所は、〔シテネモン要塞〕となっており、近衛騎士を先頭とした行列は、粛々と街道を進み目的地へと向かっていた。
その時である。僕は、本当に小さな異変を感じ取ったのである。その異変は、行列の先頭のさらに先に存在していた。
「何かな?」と思っていると、その異変は、明確な殺意となってこちらに飛んできたのであった。
僕は、とっさに先頭にいる近衛騎士たちに向かってこう叫んでいた。
「頭を下げろ。」
そう言うと同時に、魔術を展開し、馬に蹴りを入れ、先頭へと走ったのであった。そして魔術の準備が整い、馬を走らせながらではあるが、こう唱えた。
「弾丸<バレット>」
僕の手の平から、魔力の塊が実態を伴って発射された。発射された魔力弾は、近衛騎士の頭の数10㎝に迫っていたナイフに当たると、それを弾き飛ばした。
その弾き飛んだナイフを確認した近衛騎士は、全体に号令をかけた。
「全隊、停止。周囲を警戒せよ。」
その号令を受け、父上の馬車を中心に、円を描くようにして防御態勢が取られた。僕もその輪の中に入りかけた丁度その時、新たなナイフが飛んできたのであった。
僕は、とっさに馬の横腹に身をずらして避けながら、腰に差していた刀を抜き、そのナイフを弾き飛ばした。
そして再び体勢を戻し、次に備えるため、馬の横腹から体を起こした瞬間、頭から足まで黒の衣服に身を包んだ人間が現れ、僕に切りかかってきた。
僕は、不慣れな体勢ではあるが、身体強化の魔術を行使し、その向かってきていた刃を止めた。
止められた事に驚いたのかその人間が、一時停止した瞬間を狙い、僕は、刀に力を籠め受け止めている刃ごとその人間を弾き飛ばしたのであった。
弾き飛ばした人間は、空中でクルリと1回転すると、難無く着地したのであった。そして着地したその人間を見た近衛騎士から僕にこう声が、かけられた。
「殿下、御無事ですか?」
僕は、その問いに馬の横腹を蹴り上げながら、こう答えた。
「大丈夫だ。あいつを捕縛する。」
そう言い残して馬を走らせるとその人間が立っている位置へと向かった。その人間は、それを待っていたかのように後ろに広がる森に向いて走り出した。
僕は、それを追い森への中に入ったのであった。僕の後ろの方で、近衛騎士が「お待ちください、殿下。」と言って追いかけてくるが、僕は止まることなく馬を走らせた。
森に入ってしばらくして僕は、襲って来た人間を見失っていた。これ以上の深追いは、危険だと判断した僕は、森を抜けるルートを取ろうとした瞬間、予想外の方向からナイフが、飛んできて、僕が騎乗している馬に刺さったのである。
僕は、とっさに丈夫そうな木の枝に飛び上がり、落馬による怪我から逃れたが、その次の瞬間、ナイフを持った複数人の人間に襲われたのであった。
今までの修行の成果によりそれを察知することが出来た僕は、襲って来た者たちにこう唱えた。
「雷撃<ライトニング>」
すぐに指定した位置に魔術陣が構築されると、そこから襲って来た者たちに雷撃が、発せられ、感電をさせた。
その隙に僕は、樹上から降り、地面に降り立ったが、感電させた者たちが起き上がってきたのである。
僕は、この危機を回避するには、彼らを殺すしかないと覚悟を決め、最初から抜いていた小太刀を鞘に納め、もう一つ腰に差している打刀と呼ばれる刀を鞘から抜き、九我流の刀剣の構えである、「静謐の構え」を取った。
「静謐の構え」を取った僕に向かって、後ろに陣取った一人がナイフを握り、向かって来た僕は、それを半身で避けると、その半身の軸足をさらに前に出し、前に進んで行くその者の首の後ろを、両手に素早く持った刀で切り、絶命させた。
それを見た他の者たちは、呆気に取られている隙に、僕は、後ろにいたもう一人の者の腹を刀で突き刺し、柄をまわしてえぐった。
刀を突きさしたまま、僕は、目の前で固まっている四人に対して懐から、ナイフを取り出し、ナイフに魔術「雷撃<ライトニング>」をエンチャントすると、それを彼らの頭巾の間に見えていた目に向けて投げたのであった。
彼らは、その投擲物に対処することが出来ずに命を落としたのであった。
襲って来た彼らが絶命し僕は、一息付けると思った瞬間、左目に何かが入ってきて激痛が襲った。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ―――――。」
僕は、絶叫をすると地面にうずくまってしまった。するとそれを待っていたかのように先ほど隊列を襲った襲撃者が、死体が転がっている場所に立っていた。
「此処までお強いとは、想定外でした。致し方なく毒を使わせていただきました。我らのポリシーに反するのですが、これも依頼の完遂の為。お許しください。」
そう丁寧に言葉にすると僕を殺す為、構えを取り、掛かってきた。僕は、痛む左目を庇うのを止め回避に専念し、その刃から逃れた。
僕は、目に痛み止めの魔術だけをかけると、片目をつぶりながら立ち上がった。そして後で大変な事に成ると想像が出来たのだが、ここは生き残ることが先決だと判断をし、身体強化の魔術を左目に施し、強制的に視力を回復させると、再び「静謐の構え」を取り、この襲撃者たちのボスとの一騎打ちに臨んだ。
そして、その後意識が途絶えたのであった。
〔デイ・ノルド王国〕国境地帯 森林内
私こと、ガーベリウム・フォン・ノグランシアは、襲撃者を追って森の中に入った、エギル殿下を近衛騎士たちと共に探していた。
「殿下、殿下。聞こえたならお返事ください。」
近衛騎士が呼ぶが、エギルから応答はない。どうやら森の奥に入り込んでしまっているようだ。
私は、散らばって探している近衛騎士たちを一旦呼び戻し、チームを組んで殿下の捜索を開始しようと思い、近くにいた近衛騎士を呼び止めようとした時、光が発せられ、その後に続いて音が、響いたのだ。
「これは、雷の音。エギルの魔術かもしれない。」
私は、そう言うと近くにいた近衛騎士数人を呼ぶと、雷の音が聞こえた、方角へと走った。
しばらく走ると、少し森が開けた場所に出た、するとそこに地面に横たわって絶命している襲撃者の死体と、木に寄りかかって左目から血を流している状態のエギルが居たのであった。
私は、直ぐにエギルの元へと向かうとエギル首の頸動脈触れ生きているかを確かめた。脈は、触れているので生きてはいるのだが、その脈が非常に弱くなりつつあるのだ。
私は、これは危険な状態と判断し、直ぐに〔シテネモン要塞〕に運ぶべきと判断し、近衛騎士に陛下への報告を言付けると、私のもう一つの姿である龍に転身するエギルを背中に乗せ空へと羽ばたいたのである。
「エギル、必ず助けるからね。がんばるんだよ。」
私は、そう言い聞かせながら、〔シテネモン要塞〕へと全速力で飛んだのであった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




