第36話 包囲と合流
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〔デイ・ノルド王国〕国境地帯 〔シテネモン要塞〕国境側 平原
平原での決戦は、我が〔デイ・ノルド王国〕王国連合軍の大勝利で幕を閉じた。敵の将兵など生き残った者たちを捕虜とすると、我々は、〔ノース・ザルド王国〕陣地に向かって進軍し、これの占領に取り掛かったのであった。
我が軍の兵士が、我らの陣営へと少し小走りでやって来た。そして礼をすると天幕へと入り跪いてこう切り出した。
「陛下、ご報告いたします。」
「聞こう。」
私は、そう言って続きを促した。
「はっ、我ら先遣隊、敵の陣営に至り、突入いたしましたが、〔ノース・ザルド王国〕前国王ピスグリスは、自らの支持貴族と共に逃亡、残っていたのは、後方任務を担当する将軍、士官、兵士たちだけでした。なお現在、陣営内のトラップチェックを実施しており、安全が確認されるまでお待ちください。以上です。」
兵士は、そう報告をしてきた。
「うむ、あい分かった。」
私は、そう言って従兵を呼ぶととある物を持ってくるよう頼んだ。従兵は、私の求めに従いとある箱を持ってきた。
「報告、ご苦労。隊への褒美だ。任務が終わり次第、皆で騒いでくれ。」
私は、そう言って報告に来た兵士に酒が大量に入った箱を褒美として渡したのであった。
「はっ、有難き幸せ、頂戴いたします。」
そう言って兵士は、礼をすると箱を抱えて天幕を出て行ったのであった。
しばらくして先程の兵士とは、別の兵士が大急ぎでこちらに向かってきていた。天幕に着くと礼をし、膝まづくと、こう切り出した。
「報告、敵国の重要人物と思われる者を捕らえました。」
「何? 詳しく報告せよ。」
私は、その第一報を聞いて、詳細を知りたいと兵士を促した。
「はっ、まだ確定ではありませが、どうやら前国王ピスグリスの支持貴族の一人であると思われます。現在降伏した〔ノース・ザルド王国〕王国軍の将軍の一人に確認をしてもらっている最中です。続報が入り次第、再びお伝えいたします。」
と兵士の報告を聞いた私は、こう言った。
「あい、分かった。励め。」
「はっ、失礼いたします。」
兵士は、そう言うと礼をし天幕から退出していった。
私は、それを見ながらすぐ近くに私と共に腰を下ろしていた軍務卿にこう尋ねた。
「軍務卿、どう見る。」
私の問に軍務卿であるポール・フォン・スカイトール伯爵は、こう答えた。
「はっ、恐らくですが、見捨てて逃亡していった思われます。自軍の敗北を潔く受けることなく怖気づいて逃亡するのですから、ありえる事と存じます。」
「うむ、そうだろうな。だが、これは吉報だ。奴の逃亡先が、判明する。」
私がそう言うと、軍務卿は、こう言って来た。
「陛下、そうとも限りません。偽情報を掴ませるための策と思い対応するべきかと存じます。」
私は、その忠告に対してこう答えた。
「うむ、そうだな。」
そして我々は、具体的な進展があるまで待つことになったのであった。そして最初の報告から数時間後、支持貴族と思われる男を捕らえた部隊の隊長が、やって来て、報告書を提出し、こう告げた。
「〔ノース・ザルド王国〕前国王ピスグリスは、〔ダガロン要塞〕に逃亡したと支持貴族が明言し、確認が取れました。」
私は、それを聞き、〔デイ・ノルド王国〕建国以来の決断を下すことを決めたのであった。
「軍務卿、越境の準備を。〔ダガロン要塞〕に侵攻する。軍の数は、十万人、私も国境を超えるぞ。」
「……、はっ、了解いたしました。」
軍務卿は、私の決断に一瞬口を噤んだが、直ぐに同意を示すと準備の為、天幕を辞していった。
軍務卿が、驚くのも無理はない。我が〔デイ・ノルド王国〕は、建国以来全ての戦争において他国の領土に侵攻をしたことは、一度もないのであった。
しかし今回は、ピスグリスを排除しなければ我が国にもそして〔ノース・ザルド王国〕にも希望がやってくることはないと判断し、越境を決めたのであった。
私たちは、捕虜達を〔シテネモン要塞〕へと送り、王国連合軍から十万を抽出して編成し直し、陣地を出発し、二日後、〔ノース・ザルド王国〕へと侵攻したのであった。
〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕王城 謁見の間
「それは、確かな情報なのだな?」
ワシことキナモル・フォン・ディニールは、伝令兵に問いかけた。
「はっ、間違えございせん。確認もしております。」
伝令兵は、そう言うと陛下の方を向いたのであった。ワシも、陛下の方へと向くとこう問いかけた。
「陛下、如何いたしましょう。」
その問いに先日即位されたばかりの新王であるハイディニル・ドゥ・カールベル・ザルド陛下は、少し考えこむと、こう質問して来たのであった。
「兄を支持していた貴族たちは、どうなっておる?」
陛下の問に伝令兵は、こう答えた。
「はっ、一人を除き全員、〔ダガロン要塞〕に逃げ込んでおります。」
「その一人は、如何した?」
陛下の問に伝令兵は、こう答えた。
「どうやら、〔デイ・ノルド王国〕の領内に見捨ててきたようでございます。」
「そうか、報告ご苦労。下がってよい。」
伝令兵の答えに失望感を感じた受け答えをすると、陛下は、伝令兵に下がるように命じた。伝令兵は、「はっ。」と言って礼をし謁見の間を出て行ったのであった。
そしてそれを見送った陛下は、ワシの方を見て、こう告げて来た。
「宰相、我が領内に入ってくる〔デイ・ノルド王国〕王国連合軍と共同戦線を張り、〔ダガロン要塞〕を攻略せよ。」
ワシは、「はっ。」と答え、新たに就任した軍務長に準備をするように命じた。謁見の間を出ていく軍務長を見ていた陛下は、ワシにこう言って来た。
「宰相、この戦いで我が国の病巣をすべて取り除く。頼むぞ。」
ワシは、陛下の覚悟を聞き、こう返したのであった。
「はっ、ワシも全力を尽くします。」
そして陛下に礼をすると謁見の間を後にして執務室へと向かい、準備を整えるべく仕事を開始したのであった。
そして一週間後、我々は準備を整え、陛下と共に首都を出陣し、〔ダガロン要塞〕の後方支援基地でもある国境都市である〔ダイミル〕へと向かったのであった。
そしてこの軍の中には、〔デイ・ノルド王国〕第一王子である、エギル・フォン=パラン=ノルド殿下とその部下たちも加わっていたのであった。
数日後、我々は国境都市〔ダイミル〕に到着し、全軍の到着を待った。そしてその待機期間中に思いがけない客人を迎える事に成ったのであった。
それは、〔デイ・ノルド王国〕の軍務卿であった。軍務卿は、我々よりも半日前に到着してワシ達を待っていてくれたのであった。
そして陛下とワシ、それと軍務長も加えて話し合いがもたれ、全軍の役割分担が決まったのであった。
その役割分担とは、〔ダガロン要塞〕の我が国側を我々〔ノース・ザルド王国〕遠征軍が受け持ち、その反対の〔デイ・ノルド王国〕側は、〔デイ・ノルド王国〕王国連合軍が受け持つこととなったのであった。
話し合いを終え軍務卿は、エギル殿下に挨拶をされると自陣営へと戻っていたのであった。
それから数日後、国境都市〔ダイミル〕に〔ノース・ザルド王国〕遠征軍、十万が集り、〔ダガロン要塞〕へ向けて進軍を開始したのであった。
そして進軍後一日で〔ダガロン要塞〕に到着し、取り決め通りに布陣をした。
これにより〔ダガロン要塞〕は、完全に陸の孤島になったのであった。
僕ことエギル・フォン=パラン=ノルドは、完全包囲されている〔ダガロン要塞〕を見ながら考えていた。
今は、もう12月を15日以上過ぎている、このまま対陣するのは、難しい季節になりつつあった。
僕がリウム先生に確認すると、この辺りは、12月の中旬と下旬の間に雪が降る出すことが多いらしく、実際首都である〔ザイルシティー〕は、中旬には降雪が記録されていた。
そしてこの地方は、〔ノース・ザルド王国〕でも屈指の豪雪地帯でもあるため、雪が深く軍事作戦などできなくなってしまう。
そうなれば、この国の病巣を生き永らえさせてしまう。
そこで僕は、まずハイディニル陛下に考えた作戦を話し了承を取り付け、そして父上がいる陣へとやって来ていた。
〔デイ・ノルド王国〕の陣地の入り口に僕は、やって来ると、丁度良く知り合いの近衛騎士が、見張りをしていたので、父上に会わせてもらう様に頼み、僕は、父上が居る天幕へと連れてきてもらった。
「陛下、エギル殿下が、お見えになりました。」
そう近衛騎士が言うと、天幕の中から、父上の声が、聞こえて来た。
「エギルが、通せ。」
父上の許可が出たので天幕の中に入ると軍務卿と共に僕を待っていたのであった。僕は、帰還の報告を行う為、王族が国王に執る礼をするとこう言った。
「国王陛下、エギル・フォン=パラン=ノルド、任務を完遂し、無事帰還いたしました。」
父上は、それを聞いてこう返した。
「うむ、大儀であった。」
そう言い終えると父上は、国王として威厳を取り払うと、父親として僕に見せる顔となりこう続けた。
「疲れたであろう、そこに椅子を用意してある、座りなさい。」
僕は、近くに用意していた椅子に腰掛けると、父上に報告をしていき、そして最後に〔ダガロン要塞〕の陥落を早めることが出来る作戦を進言したのであった。
それを聞いた父上は、爆笑して、同じく椅子に腰掛けていた軍務卿にこう言ったのであった。
「まったく、我が息子ながら何と言う面白い事を考えるのだ。そうは思わんか軍務卿。」
それを聞かれたスカイトール軍務卿は、こう言った。
「そうでございますな、将来が、非常に楽しみでありますな。」
僕は、二人が余りにも爆笑を続けるので少しムスッとなりながら、二人が笑うのやめるのを待った。
そして父上は、軍務卿にこう命じた。
「エギルの考えた作戦で行く、準備せよ。」
その命令を受けた軍務卿は、こう答えた。
「はっ、必ずややり遂げて御覧に入れます。お任せください。」
と言って天幕から出て行き、準備をし始めたのであった。
そして僕は、父上と久しぶりに食卓を囲み、いろいろな事を話し、共に就寝し、次の日を迎えたのであった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




