第22話 結婚と進軍
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〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王宮 中庭
ブン ブンブン ブン ブン ブン
木刀の風を切る音を残しながら僕ことエギルは、九我流の型稽古を早朝に一人で行っていた。
今日は、父上が第三王妃となるキタニアン公爵令嬢と結婚をする日である。僕は、その事に憤りを感じながら木刀を振るっていた。
一通りの型をやり終えて休憩をしようとしていると背後から誰かが近づいてくるのを感じた。
僕が、木刀を握りしめたその時、横から木刀が迫ってきた。僕は、それを辛うじて受け止めたが、直ぐにいなされ頭にポカンと言う音が聞こえ、更に頭に痛みが走ったので負けたことを悟ったのであった。
僕は、頭をさすりながら後ろを振り向くと、須針師匠が立っており、ニッコリとして僕の方を見ていたのであった。
「隙あり、まだまだじゃの。」
そう言うと須針師匠は、僕の隣に座ると、僕にも座るように促してきたのであった。
僕は、須針師匠に促されるまま座ると「ハァ~」というため息をついてしまった。
「今の型は、大分乱れておったが、何かあったか?」
須針師匠は、そんな事を聞いてきた。僕は、師匠が型稽古だけを見て僕に悩みがあることを見通していたことに驚き、しばらく黙ってしまっていたが、聞いてもらえるならと話をし始めた。
僕が一通り話すと師匠は、「うむ。」と言ってこう言って来た。
「其方の気持ちは、十分に分かっておる。儂も其方の曽祖父であられる大殿も悩まれてきた道だ。しかし、その憤りを武器に乗せて振るってはならぬ。それをすればつけ入る隙を与え其方自身に倍になって返ってくる。そのため我ら九我の者は、武器に感情を乗せずに闘うのだ。よいな、それを心に刻むのだ。」
僕は、「はい。」と答え、木刀を地面に置き、立ち上がると、力いっぱい叫んだのであった。
「ぜえぇぇぇぇぇたいにいぃぃぃぃぃぃ、見返してやるからな~。」
叫び終えると僕は、後宮へと引き換えし、少しばかり眠ることにしたのであった。言うまでもなく、早朝に力いっぱい叫んだことを朝食の後に母上たちに叱られることになってしまったのであった。
そんな様子を陰から見ていた者が二人いたのに気付いていたのは、須針だけだった。その二人とは、エギルの父であり現国王、アランディア・フォン=フェニア=ノルドとエギルの人生の師である、ガーベリウム・フォン・ノグランシアであった。
私ことアランは、息子であるエギルの抱えていた葛藤を聞き、自分の不甲斐なさに嫌気がさしていた。
いくら国内の力のバランスのコントロールの為とは言え、私も王妃たちも望まぬ結婚をしなければならないとは、何ともさけない限りであり、その事でエギルやアリベルに嫌な思いをさせてしまったことに父親として非常に情けない気持ちでいっぱいであった。
私は、同じようにエギルを見ていた大賢者リウム殿に意見を求めた。
「私は、エギルに何をしてやられるだろうか?」
するとリウム殿からは、こう返事がなされたのであった。
「陛下、私から申し上げるのは、ただ一つでございます。エギル殿下の『良き父』であることです。」
「『良き父』?」
私は、そう問い直すと、リウム殿は、こう答えられた。
「陛下は、エギル殿下を導き守り、時に助け、時に叱咤し、そして並び立ったならば殿下の背中を押し、前に進む力を与える。それが、『良き父』という者です。」
私は、その言葉を聞き父上が、我ら兄弟にして来てくれた事を思い出し、それをエギルたちにもして行けば良いと感じたのであった。
「また、一つ学ぶことが出来ました。ありがとうございます。」
私は、リウム殿に礼を言うと頭を軽く下げ、その場を後にし、後宮へと戻ったのであった。
その数時間後〔デイ・ノルド王国〕は、八年ぶりの慶事に沸いていた。時の国王、アランディア・フォン=フェニア=ノルドにキタニアン公爵家令嬢、ステファニーが嫁ぎ新たな王妃が、誕生したからであった。
結婚をしたステファニーは、名前を改め、ステファニー・フォン=ルドリース=ノルドとなったのであった。
それから時は、数か月先に進む。
〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕王城 広場
広場に集った兵士たちは、前を向き、ただ一点を見つめていた。そこにいたのは、この国の現国王ピスグリス・ドゥ・ユーベル・ザルドであった。
彼は、先程から長々と演説をしていたが、ようやく最後の言葉を紡いだのであった。
「これより開始するは、朕による親征である。この親征は、我らの勝利で終わることになるのだ。全軍、〔デイ・ノルド王国〕に向けて進軍せよ。」
ワァァァァァァーーーーーーーー
という歓声が広場に集った兵士たちから上がり〔ノース・ザルド王国〕王国軍は、首都を出発し、一先ず後方拠点であるダガロン要塞へと進軍を開始したのであった。
後世の史家たちに「一人の滅びを早めた戦争」と呼ばれる事に成る、「第二次林伐戦争」の開始であった。
後に皇帝となり、その先見性などから聖帝と呼ばれることとなる、エギル・フォン=パラン=ノルドの名前が最初に歴史書に記される事に成る出来事であった。
だがこの時、エギルはわずか六歳の少年であった。その時は誰もこのわずか六歳の少年がこの戦争の趨勢を決める事に成るとは思っていなかったのである。
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