第20話 凶報と欲望
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〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕王城内 宰相公邸
わし事、キナモル・フォン・ディニールは、公邸の食堂で若い頃より苦楽を共にしてきた妻である、シンディー・フォン・ディニールと共に妻自身が作った朝食を食べていた。わしが、今日公邸に届いた新聞を読みながら食事をしていると、妻からこんな事を言われた。
「あなた、今日は早めにお帰りになられますか?」
「いや、分からないが何かあるのか?」
と言ってわしが問うと、妻はねこう返してきた。
「サニアが、今日公邸に遊びに来るのですよ。孫娘たちを連れて。」
「オ~、そうなのか。では早めに仕事を終わらせて帰ってこなければならないな。」
わしは、娘と孫娘たちと久しぶり会えると聞きやる気を出したのであった。そんな会話をしながら食事をし終えると、わしは登城のための服装に着替え、妻や使用人たちに見送られながら登城したのであった。
〔ノース・ザルド王国〕首都 〔ザイルシティー〕王城 宰相執務室
わしは、王城に登城すると執務室へと直行した。執務室に到着し扉を開けると室内から喧騒が漏れて来た。
わしは、喧騒に包まれた室内に入ると、わしよりも先に出仕している秘書官たちに挨拶をした。
「諸君、おはよう。朝早くからご苦労様。今日も民と国のために働いて行こう。」
わしが、そう言うと、秘書官たちは、作業をしながらもこう返してきた。
「「「「「「「「「「おはようございます、宰相閣下。本日もよろしくお願いします。」」」」」」」」」」
わしは、「うむ。」といって返事をすると、秘書官たちがいる部屋を抜けて執務室へと入り、来ていた上着を服掛けに掛けると執務机に向かい今日の決済事項の確認をしだした。しばらくすると扉がノックされた。わしは、「入りなさい。」というと若い秘書官の「失礼します。」という声が聞こえて来た。
ドアが開くと若い秘書官は、わしの執務机までくると紅茶の入ったカップとお代わりの紅茶が入ったポットが乗ったプレートをサイドテーブル置いた。そして懐からメモ帳を取り出すとわしに予定を伝えてくれたのであった。
わしは、今日の予定を聞きながら紅茶を飲んでいるとある事が思い浮かび、秘書官に尋ねた。
「〔デイ・ノルド王国〕に派遣している外務長からは、何か連絡は無かったか?」
「はっ、外務長からですか? すこしお待ちください。」
そう答えると、メモ帳を捲りながら確認をしだした。しかし見つからないのか首を、ひねっていた。
暫くそうしていると、こう返答があった。
「いえ、外務長からの連絡は、入っていません。」
「そうか。」
わしが、そう答えると、秘書官は、こう言って来た。
「こちらのミスで伝わっていない場合もあります、確認の上、またご報告申し上げます。」
「うむ、よろしく頼む。」
わしは、そう返答すると、秘書官は、「失礼いたします」と頭を下げて部屋を出て行ったのであった。
わしは、カップに入った紅茶を半分飲み干すとサイドテーブルに戻し、決済事項の処理にかかったのであった。
執務を開始して数時間が経ち、昼食の時間が迫っていたころ、先程の秘書官が執務室へとやって来ていた。
「閣下、ご報告いたします。朝に確認された外務長からの連絡の件ですが、外務省及び宰相府にも確認したところ一切来ていないとの事でした。」
その報告をわしは、聞いて、「うむ、分かった。」と言い秘書官を昼食に行くように言ったのであった。
わしは、もうしばらく仕事を続け、切りの良い所まで終えると、妻から持たされたバスケットを取り出すと中に入っているサンドイッチを食べだしたのであった。
妻に感謝をしながら昼食を食べ終えると午後からの執務に備えて、執務室に備えられたソファーに座り休んでいると、ドアが激しく叩かれた。
「何事だ、騒々しい。」
わしがそう言うと、扉が開かれ、兵士が入ってきた。わしは、異変を感じこう聞いた。
「何か、あったのか?」
すると兵士は、こう答えた。
「ただいま、王城の正門にボロボロになって走りこんできた早馬がございまして、〔デイ・ノルド王国〕に在る我が国大使館の職員となる者が乗っておりました。」
わしは、それを聞き只ならぬ事態が起きたと感じ取り、兵士に「案内せい。」と言いながら執務室を飛び出したのであった。
兵士に案内されながら、その職員が休んでいる建物に到着すると、野次馬が集まっていた。わしは、野次馬たちに解散するように命じると、建物の中に入り、ここまで不眠不休で我が国へと戻ってきた、職員と面会したのであった。
「何が、あったのだ。」
わしの声が、聞こえたのだろう、その職員はベットから起き上がろうとしたが、わしはそれを制止し横になっている様に言った。
そしてその職員は、わしに「外務長より預かってまいりました。」といい手紙を渡し、気絶してしまったのであった。
わしは、手厚く看病するように王城医官に命ずると、執務室へと引き換えし、外務長からの手紙を読んだのであった。
その手紙に書かれていた内容は、わしの想像をはるかに超える凶報と呼べるものであった。そして何故手紙になったのかと言う事も記されていた。
『親愛なる宰相閣下。交渉は決裂に終わるかも分かりません。それも最悪の方向に向かって決裂してしまうかもしれません。本日の会議は、お互いに条約締結後に履行する条件を出し合い、その折衝案を取りまとめるためのスケジュールを話し合う事が目的でした。しかし、我が国の提案を提示する為、条件案が入った封書を開けますと第4の条件が付けくわえられており、その内容が、『人質の提供』となっていたのでございます。そのため急いで確認のため大使館の魔導通信室に人を送り、本国へと通信を試みましたが、全く応答がありません。修理を〔デイ・ノルド王国〕に頼みましたが、大使館側に問題はなく貴国の通信設備に問題が発生しているため通信できないとの回答でした。そこで致しかなくこのように手紙での確認となった次第であります。この手紙が届いている頃には、私たちは、大使館に軟禁状態になっている事でしょう。何卒、何故このような事に成ったのかを突き止められることを願います。また近いうちにお目にかかることを楽しみにしています。 敬具 外務長より。』
わしは、手紙を読み終えると急いで執務机に備え付けられている引き出しを開き、条件の下書きが書かれている紙を探した。
しかし、わしの執務机には入っておらず、周りを調べるため昼食から戻って来ていた秘書官たちを総動員して探すことになったのであった。
そして探し始めて数時間が経ち夕刻の時間を告げる鐘の音が鳴るころ、一人の秘書官が声を上げた。
「見つけました、これです。」
わしは、直ぐにその秘書官からその紙を受け取るとそこにはこう書かれていたのであった。
『〔デイ・ノルド王国〕との条約に関する条件の最終案』
「これだ、これがわしが裁可をしたものだ。」
そこには、第4の条件など書かれていなかったのである。わしは、誰が条件を付け加えたのか分かってしまったのである。
わしは、その者の行為が許すことが出来なくなってしまった。わしは、かの国との戦争を2度と起こしてはならないと思い奮戦してきた。
それを一人のバカと数人の欲望に塗れた売国奴に踏み潰されるとは、何のために宰相を続けて来たのか。
「先王陛下、申し訳ございません。」
わしは、朋友であった先王に謝罪すると、現国王に謁見を申し込むため秘書官を侍従長の元へと遣わし、準備に入ったのであった。
そして、侍従長からの返事を携えた秘書官が戻るとわしは、謁見の間へと向かうのであった。
「妻と娘と孫娘たちに今日は遅くなると伝えてくれ。」
と秘書官に言付けてわしは、一歩を踏みしめた。
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