第1話 時代を進める追い風
少し短いですが、お読みください。
〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 中庭
ブウン ブウン ブウン ブウン
木刀を振っていると風を切る音が聞こえてくる。僕こと、エギル・フォン=パラン=ノルドは、今中庭で、木刀を持ち須針師匠と兄弟子たちと共に、九我流の型稽古の一つを行っている。
この型稽古は、九我流の根幹を成す重要な稽古の一つで、流派の基礎技から秘奥義までの基礎となる動きを養うために行っているのである。型稽古を完璧に会得しなければ、次の段階に到達することは、出来ない。
「よし、やめい。」
須針師匠が、号令をかける。僕と兄弟子たちは、木刀を置き、正座と呼ばれる座り方をし師匠に対して礼を行った。
「「「「「「「「「「ありがとうございました。」」」」」」」」」」
挨拶を終えると僕と兄弟子たちは、立ち上がり、その場を後にした。そして僕は、兄弟子たちに別れを告げて、後宮へと戻った。
後宮の自分の部屋に戻ると、道着から私服に着替えて、母上たちと昼食を食べるためにダイニングルームへと向かった。
ダイニングルームに着くと、すでに母上たちは着席しており、僕の到着を待っていてくれた。
「母上、ママ様、姉上、遅れてしまって申し訳ありません。」
僕は、遅く来てしまったことを謝った。すると母上が、こう返してきた。
「謝ることは有りませんよ。私たちも今揃ったところですから。ただ、相手を不快にさせない気遣いを出来るのは良いことです。その事を肝に銘ずるのです。」
「はい、母上。」
僕の返事を聞いた母上は、にっこりと微笑むと、僕に着席をするように言って来た。僕は、その言葉を受けて自分の椅子に着席した。
全員が揃ったので、食事の用意が開始され、それぞれの席に今日の昼食のメニューが並べられた。配膳が完了すると、侍女たちは、壁際に下がり、そして昼食が開始された。
昼食が終わり、母上たちと少し寛いでいると、先程までは感じていなかった違和感を覚えるようになった。その違和感とは、いつもより人数が、多いと言う事である。正確に言えば、三人の新たな気配が、在るのである。
しかし、周りを見渡してもその新たな気配を持つ人物は、存在をしていないのである。これは、どういう事なのか考えていると、その新たな気配は、母上とママ様の気配と重なって存在しているのである。
そこで僕は、母上とママ様に質問をしてみた。
「母上、ママ様、最近身の回りで変わったことは、なかった?」
すると、二人からは、こう返ってきた。
「いいえ、変わったことは、なかったわ。エギル。貴方はどう、ステラ。」
「そうね、特になかったわ。どうかしたの、エギル?」
「ううん、何でもない。」
僕は、そう誤魔化すと、先に席を立ち、自室へと戻ることにした。
「それでは、母上、ママ様、姉上、先に部屋に戻りますね。」
僕は、そう言うと三人に礼をしてダイニングルームを後にした。そして一旦自室に戻ると、午後からの授業の準備をしてリウム先生とユナ師匠の元へと向かった。
午後の授業を終え、先生たちと団欒をしている時、昼食時に感じた違和感について先生たちに聞いた。するとユナ師匠からこんな問いが、返ってきた
「その違和感に、色は有った?」
「色ですか?」
僕は、そう聞き返すと、師匠が「そうよ」と言い解説してくれた。
「魔力には、人それぞれに特有の色が有るのよ。それは生まれた時に決まり、成長していくごとに色の濃淡が変化していくものなの。魔力を見ることが出来る者には、魔力の色も感覚的に視認すること出来るの。これは、気を見ることが出来る者にも言える事よ。」
僕は、この解説を聞いて、母上たちの色を思い出していた。母上の魔力色は、桃色で、ママ様の魔力色は、濃い水色であった。そしてその違和感には、色が全くなく、母上たちの色に包まれていたことを思い出した。
それをユナ師匠に伝えると、師匠は「よくできました。」と言って、僕の頭をヨシヨシと撫でると、教室として使っているこの部屋の隣の部屋に待機している侍女たちの元に行くとこう指示をした。
「誰か、私とリウム殿が王妃陛下たちにお目にかかりたいと伝えて頂戴。急いでね。」
その言葉を受けた侍女の一人が、母上たちの居る部屋へと伝言を言いに行き、さらに先生たちは、侍医を呼んでくるように侍女の一人に伝え、何かの準備をしだした。
暫くして、侍医がやってくると同時に、母上たちからの返信が来たので、リウム先生、ユナ師匠、侍医の先生の三人は、侍女たちと共に、母上たちの部屋へと向かっていったのであった。
そんな事があってからしばらく経ち、夕食時、家族全員で食べている時、父上からこんな報告が、もたらされた。
「アリベル、エギル、とても喜ばしい事が、起こったぞ。」
父上は、そう言うと母上たちの後ろの行くと、二人を抱きしめると、こう言った。
「母上たちが、お前たちの弟か妹を懐妊したぞ。」
姉上と僕は、その父上の言葉を聞いてお互いに顔を見合わせると、こう叫んだ。
「「やったーー」」
そう言うと、僕たちは、母上たちに抱き着くと「あめでとう」と言って祝福をしたのだった。
そして建国祭の日に、国民にも発表されることが決まり、その場は、お開きとなった。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




