第12話 武術と魔導
どうぞ、お読みください。
〔デイ・ノルド王国〕首都 〔ハルマ―〕王城 後宮 王子私室
大賢者リウム先生に会いに行き、先生との話をすると言う、僕の最初の旅から一年が経とうとしていた。旅の最後に先生の屋敷から王都の別邸に転移門で移動し、その足で父上に王都への帰還を伝えた時には、かなり大変な事になったが、今思えばいい思い出の一つとなっている。
その後、リウム先生による僕に対する教育が始まった。最初は、言葉と文字と数字を覚えることから始まり、書き方、計算方法、などの順に勉強をしていった。これについては、言語の違いはあるが、前世からの蓄積によって難無くできるようになった。
そして、今日からやっていくのは、武術と魔導の勉強と、それを扱うための体力づくり、そして、武術の流派と師匠、魔導の師匠を決めていく事ある。
その為の予備知識として情報を得ようと、リウム先生が来るまで、お爺様から貰った[賢者の書庫]に入ろうとしていた処だ。
僕は、[賢者の書庫]を床において、周囲に誰もいないことを確かめた。
「よし、誰もいない。『知識の海は無限なり』」
周囲の状況を確かめて、あらかじめ設定をしていた合言葉を言った。すると小さな箱だったものが、重厚そうなドアに変わっていった。
僕は、そりドアを開けて、[賢者の書庫]内に入った。
[賢者の書庫]内
[賢者の書庫]に入ると、そこに見えてきたのは、大量の本が納められた本棚が上に横に広がっている光景であった。そしてその光景の真ん中に円形のカウンターが存在し、その周りに机といすが置かれている。
僕は、その円形のカウンターまで歩いて行き、とある人物に声を掛けた。
「ネスシー、おはよう。」
「おはようございます、マスター。」
僕に対して挨拶を返してきたこの人物は、ネスシー。この[賢者の書庫]を管理している司書の一体である。人間と遜色のない動きに、この書庫の全ての本の情報と人の知能と同じレベルの思考回路が組み込まれた魔導脳をもつ魔導人形と呼ばれる存在である。
僕が、初めて[賢者の書庫]を起動し入ったときに出てきたのが、このネスシーであった。
「ネスシー、頼みたい本があるんだけど。」
「お伺いいたしましょう。」
僕は、ネスシーに本の発掘を依頼した。何故、自分でしないのかと言うと、この書庫は、あまりにも巨大であり、本の数は無限にあるため自力で探すことは、とてもできない。だからこそ、それを行うことが、可能なネスシーの様な魔導人形が搭載されているのである。
「頼みたいのは、武器の種類に関する本、魔導の初歩に関する本、武術の流派に関する本、魔導の流派に関する本、この四つに当て嵌まる本を出して。」
「分かりました、少々お待ちください。」
そう言うとネスシーは、カウンターに備えられた魔石に手を置いた。すると本棚が動き出し、指定された種類の本が入っているであろう本棚がカウンターの周りに集まり始めたのである。しばらくして本棚が集まると、ネスシーは、先の魔石の隣に在るもう一つの魔石に手を翳した。そうすると先ほど僕が、指定したジャンルの本が選ばれて、本棚から出てきて、カウンターの周りにある机の一つに集まった。
「マスターのご要望の書籍は、これでございます。」
ネスシーは、魔石から手を外すとそう言って来た。僕は、本を確認する為、机に向かい、確認を行った。
確認が終わり必要な本が揃ったことを確かめた僕は、書庫を出ようとした時、書庫の扉がノックされた。
コンコンコン
「はい、先生ですか?」
僕が、誰何をすると、先生の声が聞こえてきた。
「はい、そうでございます、殿下。入ってもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ。『知を知る友のため』」
ガチャリ
「殿下、失礼いたします。」
僕が、許可を出して、書庫に自分以外の人を招くための合言葉を唱えることにより先生が、書庫に入ってきた。
「ネスシー殿、お勤めご苦労様です。」
「いえ、お気遣いには及びません。これもマスターのためであります。」
先生が、ネスシーに労いの言葉をかけて、僕の座る机の所にやってきた。
「殿下、こんにちは。」
「先生、こんにちは。」
僕たちは、お互いに挨拶をした。
「それでは、授業を始めます。」
先生の授業開始の掛け声がかかると、僕は、椅子から立ち上がり礼をした。
「本日もよろしくお願いします。」
そう言って、僕は、椅子に着席した。
「それでは、殿下。先週の最後の授業の時にお話ししたことを始めていきたいと思います。」
「武術と魔導の勉強と二つの適正だね。」
「その通りでございます。それでは武術の方から教えいたします。」
先生の説明によると、武術に属するものは数多存在するが、代表的なものがお婆様の国でまとめられており、その数が20種類あり武芸十八般と呼ばれているとの事である。武芸十八般に属する武器は、次の通りである。
弓術・騎馬術・水泳・薙刀術・槍術・剣術・小具足・棒術・杖術・鎖鎌術・分銅術・手裏剣・十手術・含針術・居合術・徒手空拳術・捕縛術・甲冑術・隠形術・砲術
これが、武術の主なものであると先生が教えてくれた、だがこの全てを会得することは出来ず、それぞれに適正も存在するため、今は、知っておくことが重要との事であった。
「次に魔導の方の説明をいたします。」
魔導とは、魔法と魔術を二つ合わせた総称である。魔法は、古来から連綿と受け継がれてきた術体系で、習得の容易さは種族によって異なるが、強力な力を発揮するものである。対して魔術は、とある時代を境に開発発展してきた術体系で、習得はどの種族であろうと容易に習得することが出来る、その為汎用性に秀でている。
この二つを会得したものを魔導師と呼ぶのだそうだ。
「以上が、武術、魔導の説明でした。お判りいただけましたか?」
「はい、分かりました。」
「はい、大変よくできました。」
先生は、そう言うとにっこりと笑い頭を撫でてきた。それが終わると、先生が何かの装置を二つ取り出してきて机の上に置いた。
「これ何ですか?」
僕は、置かれた二つの装置をしげしげと見つめた。どちらにも、手を置くところが有り、画面みたいなものがくっついていた。
「この装置は、魔力測定装置と自分の適正を確認する装置になります。」
先生に「手を置いてくださいと」言われ、まず魔力測定装置に手を置いた。するとすぐに結果が出た。
【魔力 初期値 15000】
「えっ、何この数字?」
僕は、その余りにも平均から飛び抜けた数字に、眼を疑った。先生に聞いた話によると五歳までの魔力量は、多くても【初期値 5000】であるという、平均にすると少し下がるらしいが、ここまでの数値を出す子供は非常に優秀であるとの事である。
だが僕は、そんな最大値も軽く飛び越えてしまっていて、画面に表示されているメモリの針が、振り切れるところまで行っているのである。
「あらま、私も見るのは久しぶりですね。初代陛下以来でしょうか。」
「えっ、初代陛下も僕と同じだったの」
「はい、確かですよ。測ったのは私ですし。」
僕は、先生の言葉を聞いて、初代陛下っていったいどんな人だったんだろうなと思った。
「では、次の装置に手を置いてください。」
そう促されて、僕は、適性を確認する装置に手を置いた。
ちなみに今から出す数字が我ら人族の中央値と呼ばれる数字であると先生が言っていた。
【武術 50 魔法 20 魔術 60 運動 60 知恵 50 サバイバル 60】
だがしかし、僕の場合は。
【武術 150 魔法 150 魔術 150 運動 100 知恵 200 サバイバル 100】
と言う変てこな数値が表示されていた。これには、先生もビックリしてしまたのか、固まっていた。
しばらく固まっていた先生は、「はっ」と言う声と共に復帰して、こう言って来た。
「殿下、今日の授業は、終わりになります。お疲れさまでした。」
「はい、ありがとうございました。」
僕は、唐突に終わった授業に戸惑ったが、そう言う事もあるかと思い気にすることはなかった。
「殿下、夕食の時間までには、書庫から出られます様お願い申し上げます。」
「はい、分かりました。」
最後に先生は、書庫に長居しないように僕に言いつけて出っていた。僕は、その後もしばらく読書をして夕食まで時間を潰し、書庫を出て夕食を食べに行ったのであった。
私こと大賢者リウムは、エギル殿下のお部屋を後にして、王宮への道をひたすら歩んでいた。まさかこのような事が、起きるとは想像だにしていなかった為である。私は、後宮を出て、王宮に着くと、宰相の執務室に向かった。
宰相執務室の前に着くと、丁度良く、今代の宰相が、執務を終え出てきたところであった。
「宰相閣下、確認したいことがあるのですが?」
「これは、初代様。どのような事でしょうか?」
「今日の陛下の執務の時間はいつまででしょうか?」
「あと一時間ほどございますが、どうされました?」
私は、陛下に会う事柄が発生したので面会をしたいと伝えたのであった。宰相は、何かあったのであろうと察して、すぐに陛下に連絡を取ってくれた。
そして私は、宰相と別れ、迎えに来てくれた秘書官長と共に陛下の執務室へと向かった。
陛下の執務室に到着すると、すぐに中に通され、アラン陛下にすぐにお会いすることが出来た。陛下に椅子に座るように言われ椅子に腰掛けると、エギル殿下との今日の授業で在ったことを説明した。
「それは、真か?」
「はい、これがそのデータです。」
私は、陛下に装置から印字された二枚の紙を見せた。
「これは、あの子は、なんて子だ」
陛下が驚いている結果に私も驚いた、実はエギル殿下が見ていた画面には出ていない数字がこの二つの紙には書かれているのであった。
「これは、父上たち、妃たち、兄上夫婦と弟夫婦にも言わなければならない。」
陛下は、そう言うと、秘書官長を呼びたし、侍従長をここに呼ぶように伝えた。そして私にもこう告げた。
「リウム先生にも、同席していただきます。」
私は、この言葉を聞き、改めて思い至っていた。
《この依頼を受けたことを誇りに思うと共に大変な事を引き受けてしまったと》
私こと、アランディアは王宮にある談話室の一室に腰を下ろしていた。今からこの場所で重大な話が開かれる事になっている、その為に呼んだ人物たちの到着を待っているのである。
すでに大賢者リウム殿は、来られており、ソファーに腰を下ろしている。すると、扉がノックされ我が妻たちが入ってきた。
「「陛下、お召しにより参上いたしました。」」
「うん、そこに掛けてくれ。」
私は、入ってきた妻たちに椅子に腰掛けるように言った。妻たちがソファーに腰掛けると同時に扉がノックされ扉が開き兄上夫妻と弟夫妻が入ってきた。
「「「「陛下、お召しにより参上いたしました。」」」」
「四人ともよく来てくれた。兄上は、私の隣に、三人は兄上の隣のソファーに掛けてくれ。」
私がそう言うと、四人は所定の位置に腰を落ち着けた。それから暫く時が過ぎた頃、再び扉がノックされ開いた。
「アラン達よ、息災にしておるか?」
「皆で集まるのも、久しぶりね。」
との声と共に父上と母上が、談話室に入ってきた。私は直ぐに二人にソファーを勧め、話し合いが始められる体制を取った。
私は、大賢者殿に改めて説明を求めた。
「リウム殿、夕方、私に話されたことを皆に話してください。」
リウム殿は、今日のエギルとの授業で起こったことを説明し、その事が書かれた紙を皆が見えるように真ん中のテーブルに置いた。
それを見た皆は、一斉に驚愕の顔をした。そこに書かれていたのは、わずか四歳の子供の出すものではなく、我々すら見たことがない物であった。これを唯一我が国で一度目にているのは大賢者リウム殿だけなのである。
「リウム殿、率直にお聞きしたい。エギルにどの様な教育を施せばよいか教えてくれ。」
リウム殿は、我らの視線を一斉に浴びながらこう答えた。
「では、申し上げます。エギル殿下には、全てを学んでいただきます、その為に最高最強の師を付けることをお勧めいたします。」
私は、それを聞きエギルが生まれた時の事を思い出していた。王城前広場に集まった大群衆の声に全くひるむことなく寝ていたエギルの事を。
そして私は、談話室のテーブルの上に置かれた紙に書かれている事を見た。
そこには、こう書かれていた、〈皇帝に成りゆる才〉と。
お読みいただき、ありがとうございました。




