第32話 交渉と占拠
再開いたします。
どうぞ、お読みください。
〔デイ・ノルド王国〕東部 元〔ドルパース伯爵領〕 一の森 砦内
一の森の砦内で地方統括官と地方警備隊隊長は、今回の反乱の首謀者であるタルドマン・フォン・ドルパースと、テーブルを挟んで対峙していた。
統括官は、警備隊長と一瞬目配せをして、目の前に座っている、見るからに贅沢三昧をしている太った男、タルドマンに対してこう言った。
「初めまして、タルドマン殿。私が、国王陛下よりこの地の管理を任されております、王国内務省地方統括官です。そしてこちらが。」
そう言って隣に座っている警備隊長に話を振った。それを受けた警備隊長は、こう言いだした。
「私が、この地の治安維持を国王陛下より任せられている、王国衛士庁地方警備隊隊長だ。よろしくお見知りおきを。」
それを受けたタルドマンは、「うむうむ。」と頷き、こう問いかけて来た。
「して、何用で来られた? 私の領地についての事であろうか?」
その問いに対して統括官は、こう返答した。
「貴方に領地を与えるかと言う事を決める事が出来るのは、国王陛下でございます。私たちにそのような事を話し合う資格はございません。ここに来たのは、あなた方に捕らえられた警備隊員たちを返してもらう為です。」
それを聞いたタルドマンは、「あ~」と言う声を出してこう言って来た。
「そうであったな。失敬、忘れてしまっていた。いやはや、年は、取りたくないモノですな。ハハハハ。」
そう言い終えると付き添いのメイトが戻ってきてタルドマンに、飲み物が入ったコップを渡した。
そしてタルドマンは、再びそのメイドに耳打ちをして何かを頼んだのであった。そしてメイドが、離れるとコップに入っている飲み物を少し飲み喉を潤すと、再び話し始めた。
「それでは、そちらに人質を返す条件を申し上げる。」
そう言うとタルドマンは、懐に手を突っ込み、中から紙を取り出すと、統括官と警備隊長に提示した。
それと同時に先程のメイドが、戻ってきて、二人の前に飲み物を置いて礼をして去っていった。
二人は、紙に書かれた内容を見て、こう思った。
(これは、一方的過ぎる内容だ。)
その紙には、こう書かれていた。
『貴殿たちの部下を返す条件としてこれより示す、五つの条件に応じて貰う。 一つ、我らに軍資金として二億カルザを支払う事。 一つ、我が方に食料を差し出す事。 一つ、領都の周辺の警備を即時やめる事、 一つ、我らの無聊の為、女たちを差し出す事。 一つ、国王に領地の返還を誓約させる事。 これらを実行に移せば、貴殿たちの部下は、無事に戻ってくる。』
この内容を見た統括官と警備隊長は、顔を見合わせると、小さくうなづき合い、統括官が、こう言い放った。
「これでは、交渉を行っているとは言えない。余りにも一方的過ぎる、貴殿は、我々を愚弄しているのか?」
それに対してタルドマンは、こう言って来た。
「ホオ、では交渉は、決裂と言う事か?」
その問いに対して統括官は、こう言い返した。
「部下たちの身柄と、この五つの要求は、釣り合っていないと言っているのだ。この五つ以外の物が、現在交渉のテーブルに載っているべき事であり、話し合うべき事ではないのか?」
そう言い返されたタルドマンは、少し考える素振りを見せると、こう言って来た。
「ふむ、そちらに意見も、最もな事である。では、先程提示した条件を取り下げて、改めて話し合おうではないか。」
そう言うと先程提示した紙を、取り上げると二人の前で破り捨てたのであった。そして懐から真っ白な紙を取り出すと、テーブルの中央に置き、こう宣った。
「では、話し合いを始めよう。」
その言葉を受け統括官と警備隊長は、緊張感をもって交渉に改めて望むことになったのであった。
それから二時間後、人質の交換条件として妥当と思われる、身代金の受け渡しで話し合いは終わり、その条件をしたためた宣誓書二冊に、それぞれがサインを行い、交渉が、成立したのであった。
そしてそれを記念して、タルドマンは、統括官と警備隊長にこう申し出た。
「お二人ともここはワインで、乾杯と行きましょう。」
その申し出に二人も頷いた。そして再びタルドマンのメイドが現れ、ワイングラスと、ワインを三人の居るテーブルに置いた。そしてタルドマンが、ワインのコルク栓を開け、ワイングラスに均等に、ワインを注いだのであった。
そして三人は、グラスを持ち上げてこう言った。
「「「乾杯。」」」
そう言ってグラスを回してからワインを飲むと、急に統括官と警備隊長が、苦しみだしたのであった。
「ぐっ、貴様、何をした。」
そう言うと統括官は、口から血を吐いて倒れ、警備隊長も同様に血を吐いて倒れ、そのまま二人とも絶命したのであった。
そして二人が、死んだことを確認したタルドマンは、統括官が待っていた宣誓書を奪い取ると、魔術で燃やし、同じく自分が持っている宣誓書も焼くと、傍にやって来ていた部下に、こう命じた。
「進軍開始じゃ、領都〔マーリ〕を我らの手に取り戻すぞ。」
「はっ。」
それを受けた部下は、そう返事をすると、待機している自軍に攻撃命令を伝えに行ったのであった。
それを見送ったタルドマンの傍にまた別の部下が、やって来てこう聞いてきた。
「閣下、この死体は、どういたしましょう。」
そう問われたタルドマンは、こう答えた。
「殺した人質と共に土に埋めておけ。」
「はっ。分かりました。」
部下は、そう返事すると、何人かの仲間を呼び、統括官と警備隊長の死体を砦の外へと運んでいったのであった。
そしてそれを見届けたタルドマンは、自軍の指揮をすべく鎧に着替え、四頭立ての戦車に乗り込むと、自軍を率いて砦から出陣したのであった。
それから三時間が、経過した領都〔マーリ〕において、領主館にドルパース伯爵の紋章旗が、翻ったのであった。
そしてタルドマンは、領主館に設置されている魔導通信機を使い、王国中にこう宣言したのであった。
「我は、タルドマン・フォン・ドルパースである、我が故郷たる領都〔マーリ〕は、我の手に戻った。ここに〔ドルパース伯爵領〕の復活を宣言するとともに、〔デイ・ノルド王国〕と決別し、王国に対して宣戦布告する。」
後の世に一ヶ月戦争と呼ばれる戦いの幕が、開いた瞬間であった。
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