3 町へ行こう!ーラーカス子爵家の事情
やっと更新。
今回はお家の話です。
「さ、リーシア。いつまでも泣いてないで。お外に遊びにいってらっしゃい。今日はお天気もいいし、外遊びにはちょうどいいわ。」
もともと今日は出かける予定だったので、それが消えてしまえばリーシアの行動予定は何もない。好きに遊べる時間ができたのだが。
浮かない顔のリーシアに、母親であるフォーリアは優しく声かけしながら、背中を押す。
「うん・・。」
行きたかったあ!!!と母親の前で大泣きして、今は気分スッキリ!のリーシアである。父の前では我慢していたが、転移陣の光とともに父の姿が消えてから、母に取りすがってわんわん泣いた。ああ、スッキリ!!
そんなわけで、今はとりあえず、感情は落ち着いている。そして、他にすることもないし。
赤い目のまま、
「お外、行ってくる・・・」
と呟く。
「はい、気を付けてね。今日のおやつは砂糖入りのプリンにしましょうか。一緒に食べましょうね。」
「うん!絶対ね!母さま!」
途端に元気になったリーシアだった。こちらでは砂糖は貴重品だ。この辺りでは甘い樹液が取れるから、甘味のメインはこの樹液である。砂糖入りプリンは、滅多に食べられない高級おやつだった。
「行ってきます!」
にこにこでリーシアは館を出て行った。
リーシアの母は子爵家の後継ぎ娘で、この館は母の生家である。村が3つ、町が1つの小さな領地で、この領主館は、町外れに建っていた。町は村がある方角に開かれていて、小さい道が続いている。領主の館は、ほんの少しの高台にあり、かつ、山岳地帯と沼地へと続く方角にあった。裏の林を抜け、高台が終わり下り坂になると、そこから先は少数民族の自治領になる。その境界線の役目を持っているのが領主の館だった。
子ども一人で境界線代わりの林を抜けることは禁じられていた。なので館の塀に沿って歩き、遊び相手を探す。が、今日はどこにも子どもの姿が見当たらない。いつもはこの安全地帯でもある塀沿いで、使用人の子どもたちが遊んでいるのだが。まだ午前中だ、家の手伝いをしているか、もしくは見習いとして働いているのだろう。
午後の方が子どもがいることが多い。休み時間なのか、リーシアの遊び相手としての時間なのか、そこは曖昧なのだが、ここで遊べるのはお互いに嬉しいことだった。
同い年の子は残念ながらいないのだが、年の近い子たちに混ぜてもらって、こちらの遊びを一緒にしたり、地球日本由来の遊びをこちら風にアレンジして、教えたりしている。
だるまさんが転んだ!は、かなりの人気だ。ただしこちらの掛け声は<ルッタが転んだ!>に変えた。ルッタは鳴き声からそう呼ばれている豚のような生き物で、大きさは小型犬くらい。雑食で繁殖力が強く、手間のかからない家畜として人気で、庭のある家では、よく飼われている。誰でも見知っている家畜だった。野生もいて、転んだところを捕まえられたらラッキー♪だった。
「あー、やっぱり午前中はいないよねー。そしたら、町に行ってみようかなあ」
果樹の多い庭を抜けて、正門の隣の通用門まで歩く。
門番の兵士は一人で、槍を持って立っていた。
「おはよう!」
「おはようございます、お嬢様」
にこにことお互いに挨拶する。
「ちょっと町へ行ってくるね!」
「はい、了解です、が、お一人でですか?」
それはちょっと不味いんじゃないかと兵士の顔に書いてある。
「えーと、今日は誰もいなくて。」
首を傾げながらリーシアが言う。
「でもお母様から行っていいって言われてるよ!」
かなりの拡大解釈だが。町まで行くとは母は思っていないかもだが。
「そうですか、それではダリオを呼びますから、ちょっとお待ちを。」
そうして、魔道具である伝声管を使って兵舎に連絡を取る門番。
少し待つと、門の外から走って来る少年が見えた。
「お嬢さま、お待たせしました!ご一緒させていただきますね」
にこっとそばかすのある顔がくったくなく笑う。腰には短剣、騎士見習いの十六歳。
「うん、よろしくね!ダリオ」
門番に手を振ってから、顔馴染みの少年と手を繋いで歩く。要は迷子にならないように、付けられたのだ。あと、歩き疲れたらおんぶで帰宅。いつものパターンである。このおんぶ、が、鍛錬にちょうどいいと言われて、いつもダリオ少年が指名されるのだった。
町までゆるやかな坂道が続く。右側は警護兵たちの詰め所と練兵場、それに馬場と兵たちの寮がある。左側は段々畑に見えるが、薬草園になっていて、施薬院があった。リーシアは左側に沿って歩いた。どうしても右側からたまに聞こえる怒声は苦手だ。
(ちょっとは慣れてきたんだけどねー)
真面目に訓練している兵士さん方の声は野太くて大きい。それが重なり合って聞こえるわけで、こんな田舎では、なかなかの迫力である。とはいえ、怖がってばかりではいられない。
(運動部とか武道とかの、掛け声だよね、と思えば、まあ、、、。とは言え、こっちの方が切実だけど。なんせ魔獣がいるし、命がけだもんね。うん。)
幸いリーシアは襲いかかって来る魔獣に出くわしたことはない。領主館も町もしっかり対策がされていて、安全だ。
ダリオ少年がリーシアの顔を覗き込んで、
「なにか歌いましょうか」
と、提案して来た。
(怖がってるの、バレてるかな?それとも、話すよりラクだからかな?)
「そうだね、何がいいかなあ。」
二人で歌を歌いながら歩く。子ども向けの、行事や数の数え方を教える歌がメインだった。あとは、家畜や獣の様子や名前、飼い方を教える歌。花や草や木の名前と特徴を伝える歌。
(これが一般教養になるのかなあ。教科書読むより、こっちのほうが覚えやすくていいな。でも手遊び歌はないのかなあ。日本のやってたら、どうなるかな?あやとりもやりたいけど、糸が貴重で高いんだよね。毛糸はもっと高いし・・・)
そんなことを考えながら、のんびりと歩いて丘からの下り道が終わり、町に着いた。五歳児にはなかなかの距離である。毎日ではないが、この距離を歩いていれば、自然と体力はつくだろう。
領主館から真っ直ぐ道なりに進めば石畳みの広場になる。中央には井戸があり、四阿と水飲み場もある。水飲み場は人用と馬や驢馬用の、家畜用に分かれていた。
町は計画的に造られたもののようで、中央の広場から放射状に道が伸びている。
馬車が通れる大きい道は石畳みで、細い路地は土のままだ。そして石畳みの道には排水溝もある。下水道はあるのだ。そして井戸には手押しポンプも設置されている。
(転生者が過去にいたのか、それともこの世界の天才発明家がいたのかな?)
何にせよ、生活が便利になっているのなら、良いことだ。
この町は丁寧に造られているなあ、と思う。四阿にあるベンチに座って、ダリオ少年から水をついでもらい、ごくごくと飲み干す。カップはダリオ少年が持参した物で、木なのだがプラスチックに近い感触のものだ。
(どちらかと言うと小さい湯呑みだよね、取っ手もないし)
持ち運びには便利だ。巾着袋に入れて、腰のベルトに付けて持ち歩く。
(一応、衛生観念はそれなりにあるのかな、微妙なんだけど)
水飲み場には柄杓もある。が、リーシアは使わないように言われていた。
その言い付けは守っている。
ダリオ少年はリーシアが飲み終わった後に、別なコップを出すと水をたっぷり飲んだ。
その間にリーシアはくるりと広場を一周見渡してみた。
(さてと、っと。誰かいるかな?)
よく一緒に遊ぶ子たちは見当たらなかった。残念だが、今日は会えないのだろうか。
「いないねー」
「いませんねー」
せっっかくここまで来たのに。残念だ。
「この後はどうされますか」
「ここまで来たんだし、教会に行ってみようかな」
「はい、おんぶしましょうか?」
「うん!お願いね!」
教会は町の西側の奥にある。ここからだと、ちょっと上り坂だ。さすがに疲れていたので、
(助かる〜!!)
喜んでおんぶしてもらった。
教会に着くと、入り口で降ろしてもらう。
「ありがとう、ダリオ。」
ニッコニコでお礼を言う。
「はい、お役に立てて何よりです。」
こちらもニコニコである。本気でお礼を言われれば、そりゃ嬉しいものだ。うん。
教会は扉を開けると、そのまま礼拝堂になっている。ここは誰でも入って良いことになっている。
司祭さんがいる住居棟へは、右側の扉の先に控え室があり、その先の通路が繋がっている。
礼拝堂には誰もいなかったが、神像の前で手を組んで、お祈りをする。
(魔法が上手に使えるようになれますように)
リーシアの願いはいつもコレだった。今一番の関心ごとは魔法なのだ。そして、
(旅行に行けますように)
今日はもう一つ付け足した。
(ほんんんんんっとに!!行きたかったよー!!!)
初めての場所、初めて会う親族、親戚。とっても楽しみにしていたのだ。
(一年間、お預けかなあ。)
とっても残念だ。
(あーあ)
しかも今日は誰とも遊べていない。そろそろ戻らないと、お昼ご飯、というかお昼の軽食の時間だ。
帰らなくては。
結局、この日は遊び友だちには誰にも会えず、自宅へ戻ったのだった。
軽い昼食後、短いお昼寝の時間が終わると、おやつの時間だ。
両親の結婚話までいかなかった~。
あと少し、周囲の説明が続きます。




