俺は優しくないから
駄目だ顔がニヤける。
力が抜けたのか膝も笑ってる。お陰で女の子の前ですっ転んだ。
対して女の子は立って待っていた。初めてだ。
「大丈夫?」
通算三回目。女の子から声をかけてきた。
手を差し伸べるおまけ付きである。
丸っきり、いつかの正反対だな。だが。
「その手には引っ掛からねえよ」
女の子の手は取らずに体を起こし、あぐらをかいた。
「きれいに木崎と高梨だけが死んだんだ。まあ正確には車一台とビルの壁が多少壊れたけど。強敵だった運転手も無事だってさ。完璧だろ。もうアガリだろ。よくやったろ俺」
これ以上ない結末だ。車とビルの外壁くらいは努力賃ってことで。
自己正当化の言葉は淀みなく出てきた。
覚えてるか? 最初に女の子と出会った時のこと。随分と進歩したもんだ。
だが、女の子は俺の言葉など聞き入れなかった。
「お兄ちゃんは」「やめろ!」
もう良いだろ。…もう良いじゃんか。
顔を下げる俺に、女の子は屈んで、目線を合わせながら言う。
「…諦めちゃうの?」
「…言うなよ。もう納得してたのに」
「納得なんてしてないんだよ。だからそんな顔してる」
俺はどんな顔をしているのだろうか。
ついさっきまではニヤけていられたのに。
ああ、くそが。
全くイヤになる。
「くそったれ!」
忘れていた訳でもないが、放課後の、校門前だ。
余計に視線が集まる。
それでも構わず叫んだ。
どいつもこいつも気にくわない。
要らんこと言い出す女の子も。
思い当たることしかない俺も。
遠巻きに眺めるだけの奴等も!
「言っとくが」
「うん」
「高梨は殺す。これは譲らない。もう…止まれない」
「…うん」
「うんじゃなくて。良いか駄目かで答えてくれよ」
「………」
「………頼む」
「………良いよ」
「…ありがとう。ほんとに。…俺は優しくないけど。善意だけでただのクラスメイトは助けられないけど。でもそれなら頑張れる」
そして。
俺は手を伸ばした。
「お兄ちゃんは優しいよ」
手が繋がった。
女の子は、去らない。
校門の前に立ったままだ。
………。
ああくそ。分かってるよ。
ここからは、俺の日常じゃなくなるってんだろ。
………。
さて。
いくか。
別に俺は優しくなくないけど。
木崎を助けに。
明石くんの背景も書きたいけど。
背景は書きたくない気もする。