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急展開ってんならJSがいた辺りから俺の日常は急展開

もう短さは開き直ることにした。許してくれい。


「そこ危ない。もうちょいこっち」

「あ、うん」


 黒の軽自動車が結構な速さで歩道に突っ込んで来る。と言っても暴走車ではなく、店の駐車場に入って来ただけだ。些か不注意だが。

 勿論ほっとけば木崎はそれで死ぬので、いちいち注意する必要がある。


「明石くんほんとに分かるんだ。ていうかすごいねさっきから。なんかこれ私呪われてんの? ウケる」

「呪われてるかは知らんが、事故死体見てから同じこと言ってみ」

「あ…、あはは、ごめん」

 軽く返したつもりだったが、重く受け取られてしまったらしい。まあいちいちフォローもしないが。



 灰色のバンに木崎が轢かれかかった翌日。

 俺達は高校をサボって朝からあちこちうろついている。


 このループにおいて俺は死なない。正確には俺がある程度木崎の近くにいる場合、俺が巻き込まれて死ぬイベントが起こらない。

 例えば、今俺達がいるポイントから俺だけ一キロ程離れていると隕石が落ちてくる。周囲二キロ程が壊滅的な被害を受けることになるのだが、俺は軽い擦り傷のみで済んでしまう。

 しかしこうして俺が木崎の近くにいれば隕石は落ちてこない。


 それならばと、ここ数十回のループでは、俺は木崎と行動を共にすることにした。

 成果はこの通り上々。木崎はしょぼい交通事故ばかりで死ぬようになった。その程度なら簡単に回避できる。


 加えて言うと、死なないための細かい指示の全てを予め木崎に話すと、いつかのループのように一気に嘘っぽくなったり覚えきれなかったりで、木崎が回避しなくなる。

 さらに、伝聞から木崎の死に方を推測し指示を出すのは不確実だし手間だ。

 共に行動して都度指示出しする方が、指示の通り易さの面でも、次回のループへの活かし易さの面でも効率的だと気付いたのだ。


 それと…もう一つ目的がある。


「なんかデートみたいだね。あ、明石くんは彼女とかいなかったの? 私に付き合っちゃって大丈夫だった?」

 まあ肝心のこいつが鬱陶しくて敵わないんだがな!

 何度見捨てようと思ったことか。


「…いない。いたこともなし、いらん」

「その反応はなんか隠してるね。へえ、彼女いるんだ。意外」

 意外に思うんならなんで聞いたんだ。死なすぞ。


 実際、彼女はいない。………今は。



 そんな話をしていたからだろう。


 そいつはいた。かなり遠くだが見つけてしまった。やっと見つけた!


 思いがけず走り出した。

 後ろからは驚いた木崎の声とクラッシュ音。死んだか。知ったことか。

 そんなことよりも。


「よう久しぶり一回死ねよ!」


 とにかくまずはこいつを殺したかった!



―――――――――――――――――



 高校をサボると、当然だが校内から校門をくぐることはできない。

 だから、初めて高校をサボったループでは、もしかすると女の子が現れずループしないんじゃないかという不安もあったが、全くの杞憂だった。学外から校門前に来ても女の子はやって来てループが起こる。


 しかし今回は初めから女の子がいた。


 校門前に、まるで涅槃像のように横に寝そべり頬杖をついて待っていた。

 勿論校門からは学生が出てきている。変なものを見る目で女の子を遠巻きに見ているだけだ。



 そこに血塗れのナイフを持ち、返り血に染まった俺が来たんだから学生達は完全にパニックだ。


 騒ぎの中心たる俺と女の子はお互いしか意識に入れていないのだが。



 女の子の前にあぐらをかく。パニックのさなか、俺達の周囲だけがまるで茶の間のように穏やかだ。


 互いに何も言わない。ただ黙って向き合う。


 膝に手を置いて、俺は女の子から口を開いてくれるのを待っていた。でも。


 ついに耐えきれず、問う。



「…こうなった。これでも俺は優しいって言うのかよ」

「………」

「俺はあいつを殺す。一度は自分でやりたかったからこうなったが。あとは木崎に巻き込ませて殺す。最終的に木崎がどうなるかは知らないが。でも絶対にあいつは殺す」


 そこまで言って俺は手を伸ばした。


 依然女の子は俺の目を真っ直ぐ見つめたまま、ついに口を開いた。



「お兄ちゃんは優しい。私はそう信じてる」



 俺達の手は繋がり、瞬間、ナイフと俺の体を染めていた返り血は消えた。

 いつも通り、すぐに女の子は去っていく。


 もう俺に目を向けるやつはいない。俺の脇を通りすぎていくだけだ。


 俺もさっさと帰路につこう。

 交差点で木崎を拾って。それで。


 またあいつを殺そう。


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