自己紹介
「えっとー今の話を聞くと君達の世界には魔法使いがいないみたいだね?」
「存在自体はかなりメジャーだよ。でもほとんど空想の産物っぽい扱いかな」
小学生がサラリと夢のない発言。
「ミ、ミシェルは魔法の国のプリンセスだぞっ!!ちなみに変身呪文は…」
「泉くんさっきと情報が違う気がするわ」
やす子が慌ててパタパタと手を振る。
「いえ、ミシェルはアキバランで生まれたのですが数年間魔法の国ビッグサイルに養女に出されて…」
「どうでもいい、三つ子続きを話して。」
アケミが切り捨てる。
「う、うん。でね僕等の師匠がどっから怪しげな魔術書見つけてきてさ、それに書いてあったんだよね『異世界の勇者召還』の方法。」
「そうだったの…。大変な状況なのね…。『救世主』の一人や二人呼びたくもなるわよねぇ」
やす子が同情に満ちた視線をなげる。
「まあ『救世主』を呼ぶ以外にも最終手段はあったんだけど――」
とピストニカが話し始めたとたん
「最終手段なんてないわ!そんなこと父上が命令してもアタシは許さない!!」
どちらかと控えめな雰囲気(三つ子に比べればの話だが)だった西洋人形風少女が凄い剣幕で叫ぶ。
すると少女の隣に居た三つ子の一人がピストニカに軽く目配せをする。
「う…ん。まぁとにかくそんなわけでこっそり魔術書に載っていた『異世界の勇者召還』をちょっと試してみたんだ。ちなみにこんな高等魔術使えるのはこの世界でほんの一握りだと思うよ。あ 自慢に聞こえる?アハハ自慢だけどね!」
7人、どうでもよさげに「ふーん」とか「へえー」とか言ってる。
もっと驚いてくれよという表情のピストニカの後ろから別の三つ子が進み出た。
「じゃあ僕が『どうして君達だったか』を説明するね」
そう言うと自分はポレントというのだと名乗った。
先刻話したピストニカよりもわずかに表情が柔らかいように思える。
「これはとても簡単なんだ。たまたま僕等が描いた魔方陣の場所と君達の入ってたあの箱があった空間がリンクしていたからだよ。うーんと、つまり異世界版姉妹都市ならぬ姉妹空間みたいなカンジ?」
ポレントは首をかしげながら「どうしてとかはワカンナイよー」と最後に付け加えた。
「はぁ、やっぱ別段私達を呼びたかったわけではなく『たまたま運が悪かった』わけね…」
アケミがさもありなんと達観したように煙をはいた。
「うん『異世界人召還』の魔法ももちろん初めて使ったからさ、僕等はてっきりあのショッカーとかを倒す為に生きてるみたいな人が来るんだと思ってたから。あの裂け目に連れてけばすべて解決なのかなって…。まあそう上手くはいかないね」
「それで私達をあんな不気味な場所に放り込んだの?こんなか弱い女子高生だっているのに、ちょっとは
どんな人間なのかとか話を聞いてからにしなさいよね」
七瀬がやっと立ち上がりスカートについた草を払っている。
「そうだそうだ!俺は本当…怖かったんだからな!!カエルかと思ったんだからな!!」
いつのまに復活したのか、厳蔵が拓斗の首を後ろから締め上げながら叫ぶ。
「ごめんごめん、じゃあ最後の質問は僕が答えるよ」
そういうと西洋人形のすぐ隣にいた三つ子の一人が進み出た。
「僕はパリラ。そっちにいる同じ顔形の2人は見りゃわかると思うけれど僕の兄弟。三つ子のね。ポレントとピストニカ。そしてこちらが我がクウィンディア王国末子にして第5皇女であられるフェオリア姫」
フェオリア姫と呼ばれた少女は7人に向かいどこか気品を漂わせる微笑を浮かべた。
「数々のご無礼をお許し願いたく存じます。貴方方を御呼びよせしましたのは私の一存でございます。どうぞ三つ子を責めないでやってくださいませ。」
そしてそう言うと腰をかがめた優雅な礼をとる。
「あ、ええとでは私達も自己紹介を…」
田所がガサガサと鞄をあさって名刺を探している。
「田所さん、名刺はたしか会社にお忘れになったんじゃなかったかしら?」
「この一番ちっこいのが拓斗、この娘は七瀬。顔のいかつい親父は厳蔵で腰の低いのが田所。あっちでブツブツ言ってるのは泉。こちらの恐ろしく強いお方はやす子さんで私はアケミ。わかった?」
めんどくさいと思ったのかアケミが一息で説明した。
「いっぺんに言っても覚えられないだろ?異世界の人間の名前なんて」
珍しく厳蔵がまともな意見を口にする、が。
「了解。大丈夫、僕等記憶力はかなりいいから」
パリラがあっさり微笑む。
「じゃあ私達がショッカーとは戦えないってわかったんだからさっさと帰してくれない?てか学校に遅れる。一限目体育だからまあいいけど」
七瀬がやや睨むようにして言う。
「そうね、私も早く寝たい」
「オレはせっかくだからもう少し探検して行きたいなぁ!異世界なんてスゲエじゃん!」
「わ 私は会社が…あ、いえ見てみたい気もするのですが取引先の客人をお待たせしてしまうので…」
「うう…今何時だろう…せめて十時からの『メイド♪ラプソディー~ご主人様、たまには「お兄ちゃん」って呼ばせて~』だけは見なければ…」
「あらまぁ、みなさん忙しいのねえー。大変だわぁ」
「奥さんも急がないとゴミ回収車逃しちまうんじゃねぇのか?」
「あら、そういえば!」
7人が口々に言い合う。
「そうだね、いったん送り帰すよ」
「…いったん?」
聞き捨てならないセリフなのでみみざとくアケミが聞き返す。
「うん、『異世界の勇者』は一度呼び出すと同じ人間しかもう呼び出せなくなるらしいんだ。だから君達に今後協力してもらうことにしようと思う」
ニコリと微笑んだままパリラが答える。
「…なによそれ、だって私達なんてなんの力もないじゃない、さっきのでわかったでしょ?」
七瀬がかなり険悪なムード。
「でも異世界の住人には変わりないしね。どんな情報が役立つかわからないじゃん」
ポレントが同じくニコリと微笑む。
「でもいったん帰してはくれるんだよな?」
厳蔵がすごむ。
帰ったら絶対もう来ないと顔に書いてある、馬鹿正直だ。
「あー、それはねー。さっきの移動中に魔法かけといたんだよ。君達に♪」
ピストニカがやはりまったく同じ表情で笑う。
「…なにしやがったんだよ」
拓斗が三つ子を見据える。
「「「君達全員に『僕達との約束を守らなかったら心臓が爆発する』という魔法を!!!」」」
ぴったり息の合ったセリフ、トリプル笑顔全開。
7人とりあえず静止。
思考回路がなかなか回復しない。
「悪魔だこいつら…」
ボソリと厳蔵が呟く。